香川県琴平町

琴平町を一望できる、こんぴらさんの奥社

2021.01.04

こんぴらさんで有名な香川県琴平町

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」を紹介します。
今回ご登場いただくのは、香川県の伝統的工芸である「讃岐のり染」を創業以来百年以上続けてきた老舗の染物屋「染匠 吉野屋」の三代目・大野等さんです。

香川県西部に位置する琴平町は、「こんぴらさん」の呼び名で知られる神社・金刀比羅宮(ことひらぐう)を訪れる国内外からの観光客でにぎわう町。金刀比羅宮は古くから信仰の地とされており、江戸時代にこんぴら参りが全国的に広まりました。御本宮まで石段785段、奥までいけば1368段という長い道のりで有名ですが、石段を登りきったあとの達成感や海抜251mからの展望は格別ということもあり、今日も大勢の参拝客がこんぴらさんを訪れています。

そんなこんぴらさんの御本宮の先に、「奥社(おくしゃ)」という場所が存在するのをご存知でしょうか。「琴平町を一望できる場所であり、本宮からさらに階段をのぼらないとたどり着かないところが魅力的なんです」そう語ってくれたのは、香川県伝統的工芸士である「染匠 吉野屋」の三代目・大野等さん。

「染匠 吉野屋」は、香川県の伝統的工芸である「讃岐のり染」を創業以来百年以上続けてきた老舗の染物屋。讃岐のり染めの手法を用いたさまざまな染物をこの琴平町ですべて手作業で製作しています。大野さんたちの染める幟(のぼり)は、琴平の芝居小屋・旧金毘羅大芝居「金丸座(かなまるざ)」で毎春開催される「四国こんぴら歌舞伎大芝居」を第一回開催時から鮮やかに彩ってきました。今日は、そんな琴平を支える大野さんが100年先に残したい場所としておすすめする「こんぴらさんの奥社」に行ってみようと思います。

江戸時代から脈々と続くこんぴらさんへの信仰

江戸時代に存在した身分制度により、庶民が参拝する社寺仏閣が限られていた中、誰でも参拝できる「庶民信仰」という信仰形態をとってきたこんぴらさん。当時は、庶民が国内を自由に行き来することができない時代であった反面、社寺仏閣参りに関しては寛容であったといいます。その中でもこんぴら参りは、三重の伊勢参りと並んで「江戸時代の二大お参り」と呼ばれるほど、庶民の間で人気があり憧れでした。その人気ぶりは「一生に一度はこんぴら参り」といわれたほどで、参拝に行けない人の代わりに代理でお参りする「代参(だいさん)」や、自分の飼い犬をこんぴら参りの旅人に連れて行ってもらう「こんぴら狗(いぬ)」という風習も存在していたそうです。

土産物店が並ぶにぎやかな参道を抜け、785段の石段を登ったところにあるのが、御本宮。御祭神(ごさいしん)は、大物主神(おおものぬしのかみ)と第75代崇徳天皇です。こんぴらさんは、神様が地上に現れたときに海の向こうから波間を照らしながらやってきた、という伝承に基づいて「海の神様」として知られています。そのことから「海上安全」や「商売繁盛」のご利益があるとされ、今も海関係の参拝者が後を絶たないのだとか。

奈良時代の神仏習合(しんぶつしゅうごう/日本古来の神祇信仰と仏教信仰とを結びつけた信仰のこと)の影響を受け、室町時代頃には「金毘羅大権現(こんぴらだいごんげん)」と改称されましたが、明治時代の神仏分離令(しんぶつぶんりれい/1868年に出された古代以来の神仏習合を禁じ、神道と仏教とをはっきり区別させること)により「金刀比羅宮」となり現在に至っています。

いざ金刀比羅宮の奥社へ

さあ、御本宮を参拝したらいよいよ今回の目的地である「奥社」へ。こんぴらさんを十分に堪能するには、奥社は欠かせない場所で、御本宮から更に583段上ったところにあります。奥社への道のりは御本宮までの整備された参道とはさま変わり。鬱蒼とした木々が生い茂り、原生林の中を歩いているような雰囲気さえ感じられます。

こんぴらさんを見守る奥社・厳魂神社

厳かな自然と信仰を肌で感じられるような道のりを黙々と歩くこと30分以上。鮮やかな朱色に染まった奥社にたどり着きました。奥社の正式な名称は、「厳魂神社(いずたまじんじゃ)」。ここには、こんぴらさんを発展させたとされる金刀比羅本教の教祖である金毘羅大権現の第4代別当職 金剛坊宥盛(こんごうぼうゆうせい)が、厳魂彦命(いずたまひこのみこと)としてお祀りされています。こんぴらさんを見守るため御本宮の方角に向けて建てられており、近年はパワースポット「こんぴらさんの守り神」としても知られているのだとか。

奥社から広大な讃岐平野と讃岐富士を望む

奥社からは、琴平町をはじめとした讃岐平野や讃岐富士と呼ばれ親しまれている飯野山などを一望できる風景があなたをお出迎え。広々とした景色に青い空は、まるで頑張ってここまで登ってきた参拝者へのご褒美のよう。清々しい達成感も相まって、ずっと眺めていたくなります。

讃岐平野には讃岐富士のようにお椀をひっくり返したようなぽっこりした山が多い中、この金刀比羅宮がある山は「象頭山(ぞうずざん)」という象の頭の形をした特徴的な山。瀬戸内海を通る船の船人さんたちは、昔からこの山を目印にして、こんぴらさんに海上安全をお参りしてきたといいます。こんぴらさんが時代を超えて世の中に与えてきた存在感、そして信仰の力が強く感じられてくるようです。

永く愛されるこんぴらさんで人々の幸せを願う

総務部長・権禰宜(ごんねぎ/神職の職階の一つ)である請川誠之(うけがわともゆき)さんは、この職について20年。大学で神道学を学ぶ中で、神職に惹かれ志したのだとにこやかに話してくれました。そんな請川さんがおすすめするこんぴらさんの魅力とはなんでしょうか。

「こんぴらさんは、境内が広く見所もいろいろなところに広がっています。表参道の賑やかさを感じるものいいし、裏参道を通って四季の草花を楽しむもいい。江戸時代に小林一茶や与謝蕪村が残した歌が歌碑として境内のあちらこちらにあるので、それを見つけてみるのも楽しいですよ。清少納言が衣を掛けたとされる「衣掛けの松」や、彼女のお墓とされる『清塚(きよつか)』もあります。私のお気に入りは、象頭山から離れて見る景色。本当に象が横たわっているように見えるんです。高橋由一(明治時代の油絵画家)の「琴平山遠望」(金比羅宮・高橋由一館所蔵)という作品がありますが、その当時描かれたものと同じ風景が時代を経て今もここにある、ということが素敵だなあと思っています」

昔も今も多くの参拝客で賑わう人気の観光名所、こんぴらさん。「普通の神社と違い、山の上ということで長い785段の石段を登ってこないとここまで来れません。その分私たちも精一杯の笑顔でお迎えをしたいと思っていますし、せっかくここまでお参りに来ていただいた皆様にはご利益を受けて幸せになっていただきたいですね」。こんぴらさんを訪れる方々の幸せを切に願う。広く永く私たちを見守ってくれている金刀比羅宮に、ぜひ参拝に訪れてみてはいかがでしょうか。

<今回の旅スポット>

施設名 金刀比羅宮
住所 香川県仲多度郡琴平町892−1
電話番号(社務所) 0877-75-2121

御本宮 御扉開・御扉閉時刻
- 4月〜9月:御扉開 午前6時、御扉閉 午後6時
- 10月〜3月:御扉開 午前6時、御扉閉 午後5時

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

山田 芽実

中部支部 愛知県ライター
山田 芽実

香川県で生まれ育ち、米国・京都・東ティモールを経て現在は愛知県名古屋市在住。土地やそこに住む人たちの「すてき」をゆるっとズバッと発見中。絵を描いたり、デザインをしたり、写真を撮ったりしています。