北海道苫小牧市

鉄道の旅に彩りを添える苫小牧駅の駅弁

2023.05.01

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は北海道の地域ナビゲーターの吉田匡和さんの「100年先に残したいもの」をご紹介します。それは北海道・苫小牧市にある苫小牧駅の、駅弁のある風景です。

少年時代を思い出す駅弁の味

初めまして。ふるさとLOVERSの地域ナビゲーターを務める吉田匡和です。私は鉄道の旅が大好き。少年のころ、「線路はどこまで続いているのだろう」と、見果てぬ街に思いを馳せていました。普通列車乗り放題の「青春18きっぷ(当初は「青春18のびのびきっぷ」)」が発売された当時は、お年玉で切符を購入し、近隣の路線を乗りつぶす「プチ鉄道旅」を楽しんでいました。

地域の名物を盛り込んだ「駅弁」は、鉄道の旅を楽しくしてくれるご馳走。そんな私が100年後に残したいのは、「苫小牧駅の駅弁」です。すでに100年以上の歴史を持つ「まるい弁当(社名はブルマンズ株式会社)」が製造しており、現在も駅構内で販売しています。

初めて苫小牧駅の駅弁を食べたのは、1983(昭和58)年の春。苫小牧駅から分岐する日高本線や支線の富内線に乗るために訪れ、「スモークサーモン寿司」を購入しました。フタを開けるとスモークの香ばしさが漂い、食欲をそそります。車窓から太平洋や牧場のサラブレッドを見ながら食べる駅弁の味は格別。旅のよき思い出として心に残っています。

そのときの様子を中学校の作文に書いたところ、地域の生徒文集に掲載されました。原稿用紙の文字が活字となった喜びは、ライターの原点となっています。

50年以上も変わらぬ味が人気「スモークサーモン寿司」

そんな思い入れが深いスモークサーモン寿司は、「まるい弁当」で作られています。1914(大正3)年、苫小牧市に隣接する白老(しらおい)町に「○+イ向井商店」として創業。翌年に旅客の需要を見込んで苫小牧市に移転し、苫小牧駅の構内で立売・物販を開始しました。

「スモークサーモン寿司」は、1972(昭和47)年から発売されている駅弁です。老舗専門店「王子サーモン」のスモークサーモンを使用し、まるい弁当の人里 靖(ひとさと やすし)調理長が一つ一つカットしています。特別な味付けをしておらず、スモークサーモンの旨さがダイレクトに伝わる名駅弁です。

レトロな包み紙は札幌出身の漫画家・おおば比呂司さんの書下ろし。「最初は幕の内弁当のような包み紙でしたが、おおばさんがスモークサーモン寿司をとても気に入られて、包み紙をデザインしてくれたそうです」。人里さんが、包み紙リニューアルの秘話を教えてくれました。

旅のスタイルの変化と駅弁の減少

鉄道や駅弁が好きだった少年期を経て数十年後にライターになり、さまざまな記事を執筆しています。その中でも、初めて「まるい弁当」を取材したときの喜びはひとしおで、「いつか鉄道や駅弁を紹介する仕事がしたい」と、長年思い描いていた夢がかなった瞬間でした。

ただその間、鉄道や駅弁を取り巻く環境は大きく変化しました。最盛期に約30種類の駅弁を販売していたまるい弁当ですが、現在では「スモークサーモン寿司」を含む3種類のみを苫小牧駅と南千歳駅で販売しています。長年親しまれていたホームでの“立ち売り”も、30年ほど前にその姿を消しました。

日本一の水揚げ量を誇るホッキを堪能できる「ほっきめし」

時代が変わってもなお、根強い人気のまるい弁当。苫小牧ならではの名物が「ほっきめし」です。南千歳駅のホームでも購入できると知り、この弁当を買うために途中下車したこともあるほど。前浜で水揚げされた肉厚のホッキ貝を秘伝のタレに漬け込んで炊き込んでいます。ホッキ貝は柔らかく、噛みしめるほどにおいしさが広がります。苫小牧駅では一番人気です。

人気の駅弁のいいところを集めた「北海道汐彩弁当」

この「北海道汐彩弁当」は、「スモークサーモン寿司」と「ほっきめし」の二つの駅弁の良さを凝縮しています。鮭照焼、いくら醤油漬け、ツブ貝唐揚げなど5種類が盛り込まれ、食材はオール北海道産。スモークサーモンの原料は外国産ですが、北海道で加工されています。一口頬張ると笑顔になるおいしさ。南千歳駅で一番の人気です。

新しいスタイルで100年後に駅弁文化をつなげる

写真提供 /ブルマンズ株式会社
写真提供 /ブルマンズ株式会社

大好きな駅弁ですが、鉄道事情とともに駅弁を取り巻く風景は変わってきました。全国に名が知れた駅弁は、駅売りを終了し、物産展や通信販売などに活路を見出しています。しかし駅弁は旅とともに楽しむ食文化。鉄道に寄り添いながら「100年後にも残ってほしい」と願っています。

写真提供 /ブルマンズ株式会社
写真提供 /ブルマンズ株式会社

まるい弁当は、多角的に食品を扱うブルマンズにリニューアルして100年後を見据えています。今後は白老牛を使った弁当も販売予定で、冷凍による長期保存可能になるそう。今後の展開が気になりますが、人里料理長から「物産展や通信販売で販路を拡大する予定ですが、原点である駅売りは続けていくつもりです」と、嬉しい言葉をいただきました。苫小牧の駅弁は形を変えながら次の世代に受け継がれていくことでしょう。

施設情報はこちら

施設名
ブルマンズ株式会社
 
住所
北海道苫小牧市清水町2丁目3−4

※まるい弁当の駅弁は、苫小牧駅コンコースおよび、南千歳駅1・2番線ホームの売店で販売しています。

電話番号
0144-32-3131

定休日
不定休

地域ナビゲーター

吉田 匡和

北海道支部 地域ナビゲーター
吉田 匡和

札幌市出身、在住。社会福祉士の資格と経験を持つ異色の「おでかけ系ライター」。2016年にフリーライターに転向し、2017年に個人事業所「ブーレオルカ」を設立しました。「楽しさが伝わる」、「すべての人に有益である」、「記憶に残る」の3つを信条に執筆しています。