兵庫県丹波篠山市

美味と伝統の「丹波篠山 黒大豆栽培」

2023.05.01

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、兵庫県地域ナビゲーター・鶴留彩花さんの「100年先に残したいもの」をご紹介します。それは、丹波篠山産の黒大豆です。

その艶めきはまるで宝石!最高級品とも言われる黒大豆

写真提供/丹波篠山市
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「黒豆」と聞いて頭に思い浮かべるのは、おせちに入ったツヤツヤの宝石みたいな姿、という方はきっと少なくないはず。そんな宝石の中でもひときわ大粒で、最高級品とも言われるのが丹波篠山産の黒大豆です。

兵庫県加西市に移住してきて3年あまり、県内のおいしいものを少しずつ食べ集めているライター・カメラマンの鶴留彩花です。丹波篠山市へ行ったときに衝撃を受けたのが、黒大豆のもっちりふっくらとした食感と甘み・コクが合わさった、上品ながらも確かな存在感のある味わいでした。甘くてぽくぽくしたこのおいしさは、いつまでも食文化として残っていてほしいもの。さらにそのおいしさの秘密を調べてみると、長きにわたって受け継がれ、これからも残していくべきだと言える伝統的な農法が関係していることが分かりました。

300年以上前から受け継がれてきた伝統の味

写真提供/丹波篠山市
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丹波篠山の黒大豆と言えば、やっぱりおせち。枝豆ファンも多いですね。加工食品もプリンやケーキ、黒豆茶、ビールまでバラエティ豊か。どれを食べても黒大豆のほっくりした甘みや香ばしさが引き立てられていて、虜になること間違いなしのおいしさです。

ついついおいしさにばかり注目してしまいますが、黒大豆について誇るべきところは味だけではありません。丹波篠山の黒大豆栽培は、300年以上前から行われてきた独自の伝統的な農法を今も受け継いでいます。伝統を守りながら育てられ、良質なおいしさを誇る丹波篠山の黒大豆は、100年先と言わず末永く残していきたいものです。

丹波篠山における黒大豆栽培の歴史とは

丹波篠山の人々が守ってきた黒大豆栽培の伝統とはどんなものでしょう?そして何より、なぜこんなにも大粒でおいしいのでしょうか。数々の疑問を胸に、丹波篠山市役所の安井聡博(としひろ)さんと、黒大豆生産農家の細見和人さんのもとを訪ねました。

安井さんに黒大豆栽培が始まった時期について聞いてみると、「1730(享保15)年に刊行された料理本である『料理綱目調味抄(りょうりこうもくちょうみしょう)』の文中に、『くろ豆は丹州笹山の名物なり』という表記があります。これが丹波篠山で黒大豆が栽培されていたと分かる、最も古い史料です」と教えてくれました。

大粒の豆を作るために工夫が重ねられてきた

伝統的な農法について、細見さんはこう話してくれました。「黒豆は乾燥した土地を好みますので、水はけを良くする必要があります。だから重粘土質の土壌が多い丹波篠山では、畝(うね)をできるだけ高くして土を乾燥状態にする『乾田高畝(かんでんたかうね)栽培技術』が生まれたんです。現在もその方法を受け継いでいて、畝の高さは40cm以上、畝と畝の間は160cmほど。ここまで高畝・幅広にして栽培しているところは、おそらく他の地域にはありません」

また、当時の黒大豆の大きさは、今の半分ほどだったと言われています。その豆の中から大きく丸いものを選別して育てる「優良種子生産方式」が繰り返されてきた結果、世界一とも言われる現在の大きさに至ったのだとか。

重要な伝統的農業システムとして、日本農業遺産に

写真提供/丹波篠山市
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こうした乾田高畝栽培技術と優良種子生産方式をはじめとした農業システムや、ため池・水路などの生物の多様性などが評価され、丹波篠山の黒大豆栽培は「日本農業遺産」に認定されています。

安井さんは、「日本農業遺産に認定されている地域の中で、作物の栽培面積が減少することなく伸び続けているのは丹波篠山ぐらいです。黒大豆の産地は他にもありますが、丹波篠山は第一線を走っています。その自負は農家のみなさんも持っておられますね」と誇らしげな表情で話してくれました。

煮豆がいちばん。でも気になる給食メニューが……

写真提供/丹波篠山市
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丹波篠山の黒大豆がおいしいのは、肥沃な土壌と盆地特有の寒暖差が激しい気候のおかげ。冷え込みが豆に甘みを凝縮させ、栄養のたっぷり詰まったふっくら大粒の黒大豆が生まれてくるのです。黒大豆のおすすめの食べ方は、安井さんも細見さんも「やっぱり煮豆がいちばん」とのお答え。ですが、もちろん他の食べ方も楽しまれています。

写真提供/丹波篠山市
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「小学校では黒大豆栽培の授業を行っていて、給食には黒大豆と米を一緒に炊き込んだ豆ごはんなど、黒大豆を使った献立が時々出ます。そうそう、今年からは、丹波篠山産黒大豆のきな粉を使った揚げパンも出るようになったんですよ」と安井さん。なんて贅沢なきな粉揚げパン!食べてみたい……と話していたら、細見さんが自家製のきな粉をお土産にくださいました。

黒大豆の香ばしさが食欲を刺激する、至高の揚げパン

それならばと、早速自宅できな粉揚げパンを作ってみました。きな粉が入ったビンを開けてみると、黒大豆の香りが飛び出してきます。たっぷり取って砂糖と混ぜたら、さっと揚げたコッペパンにまぶして、いただきます。さくっ、じゅわっ、ほろっ……うーん、やっぱりたまりません!

外はサクサク中はふわふわのパンときな粉って、どうしてこんなに相性がいいのでしょう?かぶりついた瞬間から黒大豆の香ばしさが食欲を刺激して、食べ進める手が止まりません。こんなにおいしいものを給食で食べている丹波篠山の子どもたちが、少し羨ましくなりました。

労力を惜しまない“くろう”豆の栽培

写真提供/丹波篠山市
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煮豆でも枝豆でも、きな粉にしてもおいしい黒大豆。そのおいしさにたどり着くまでには、当然ながら生産農家の方々が並々ならぬ労力をかけているのです。種まきのときには、種(豆)の“へそ”を下向きにそろえたり、発芽のときには芽と一緒に土から出てきてしまう豆の皮を水でふやかして取ったり.....。豆の一粒一粒に対して、地道に手作業ですることがたくさんあります。

それでも細見さんは、眩しい笑顔です。「手間はかかるし、大変ですよ。丹波篠山では、くろ(黒)豆をもじって "くろう(苦労)”豆なんて言われることもあります。でも、私はお客さんが求めるものを作りたい。そのためにはやっぱり、手をかけて労力を惜しまないことが必要なんです」

100年先もその先もずっと、絶やさず守り続ける

写真提供/丹波篠山市
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丹波篠山の黒大豆栽培が、これから100年先にも変わらず残っていくためには、何が必要なのでしょうか。細見さんは、熱い眼差しでこう答えてくれました。

「日本農業遺産として誇るべきものを、絶やさず守り続けていく。そのためには黒大豆栽培の良さを分かって、後世に伝えていってくれる若者が地域にいることが大切なのではないでしょうか。それが今後も続いていけば、100年先もその先も、みなさんに喜んでもらえる黒大豆がずっと続いていくような気がします」

黒大豆を愛する熱い魂を、後世に引き継いでいく

安井さんはこう語ります。「細見さんのように愛を持った農家さんがいらっしゃる限り、丹波篠山の黒大豆は今後も伸び続けていくだろうと思っています。我々行政は、それをいかにサポートしていくか。熱い魂を後世にも引き継いでいかないといけません」。

取材中、言葉を交わし笑い合っていたおふたりの関係性からも、農家のみなさんと行政が協力して丹波篠山の黒大豆を守っているのだなということが、ひしひしと伝わってきました。長い歴史を持つ丹波篠山の黒大豆は、今もなお多くの人々から愛されています。その伝統と他にはないおいしさが、これからも末永く受け継がれていくことを、ひとりの黒大豆ファンとして願ってやみません。

黒豆きなこが購入できるスポットはこちら

施設名
①JA丹波ささやま直営店「特産館ささやま」
②株式会社阪本屋
➂丹波篠山地域活性化センター 黒豆の館

住所
①兵庫県丹波篠山市黒岡70-1
②兵庫県丹波篠山市立町101-1
➂兵庫県丹波篠山市下板井511-2

電話番号
①079-552-3386
②079-552-1018
➂079-590-8077

営業時間
①10:00~17:00
②9:00~17:30
➂9:00~17:00

休業日
①水曜日
②土曜日
➂火曜日(祝、祭日時は、翌日の水曜日)

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

鶴留 彩花

近畿支部 地域ナビゲーター
鶴留 彩花

兵庫県加西市在住。奈良県の盆地で育ち、大阪や神奈川でも暮らしてきました。持ち前の行動力とリサーチ力を生かし、ライター・カメラマンとして活動中。おいしいもの・すてきなこととの出会いを日々追い求め、その魅力を発信しながら“トカイナカ”と言われる加西でのんびり楽しく暮らしています。