鹿児島県奄美市

奄美大島の文化と歴史を物語る「大島紬」

2021.11.21

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回スポットをご紹介頂いたのは、鹿児島県奄美市にあるリゾートホテル「ティダムーン」で働く太田善文さんです。

沖縄とも鹿児島とも違う独自の文化をもつ奄美大島

2021年7月に世界自然遺産に登録された奄美大島。豊かな自然の価値が世界から認められる、多くの観光客が注目する島です。生き物がたくさんいる森や、きれいなサンゴが広がる海ももちろん魅力ですが、沖縄や鹿児島とは違う独自の文化を持つところも、訪れた人を魅了するポイントです。

島独自の文化が育った時代、琉球の統治を受けていた時代、薩摩藩の支配下にあった時代、アメリカ領だった時代。それぞれの文化が絶妙にブレンドされ、ここにしかない文化が育ったのが奄美大島なのです。

朝日がのぼる海を一望できるホテル「ティダムーン」

奄美空港から車で約8分、ちょうど朝日がのぼる海が一望できる絶好のロケーションにあるのがホテル「ティダムーン」。シンプルで落ち着けるお部屋、子どもも安心して遊べるプール、食材にこだわった料理が特徴で、親子三代で来てもそれぞれ思い思いの楽しみ方ができるホテルです。

そんなティダムーンで働く太田善文さんの「100年先に残したいもの」は「大島紬」。この日、太田さんが着用していたのも大島紬の着物です。凛とした佇まいが奄美大島の自然とマッチしています。

「大島紬はとても生地が良いです。着てみると分かりますが、軽くて丈夫。良いものは生地が語ることを証明してくれています。こんな素晴らしいものを生み出す技術そのものがまさに奄美の伝統文化。この先もずっと残していきたいです」と太田さん。奄美大島を語る上で欠かせない大島紬の魅力を知るために、ティダムーンに併設されている大島紬美術館と資料館を訪れました。

世界三代織物のひとつ「大島紬」の特徴は軽さ・丈夫さ・繊細さ

大島紬は、フランスの「ゴブラン織」、イランの「ペルシャ絨毯」と並び世界三代織物のひとつに数えられます。一反わずか450gしかないのにあたたかく、汚れにくくしわになりにくいのが特徴です。正確なことは分かっていませんが、その歴史は奈良時代にさかのぼると言われています。古くから絹織物になじみの深い奄美大島の人々でしたが、1720年には薩摩藩主から「役人以外の島民の紬着用を禁ずる」とされました。

「禁止令が出されたけど、紬を手放したくなかった人が泥の中に隠したことがきっかけで泥染めが始まったとも言われています」と話すのは資料館と美術館を案内してくれた星加 麗子(ほしか れいこ)さん。泥染めの経緯は諸説あるようですが、奄美大島ではテーチギと呼ばれるバラ科の植物・シャリンバイを煮出した液と泥に何度も浸けることで、深い黒に染めることも大島紬の特徴です。泥染された深い黒と、先染めによって描かれる繊細な柄は多くの着物ファンの憧れです。

明治・大正時代からの紬が並ぶ大島紬資料館

資料館には、大島紬の工程や歴史を説明した資料が展示されています。大島紬の工程は30以上にもなり、それぞれに職人がいます。図案を作成してから完成するまで約一年。そのほとんどが今でも手作業で行われているのです。蚕から採取された絹糸や、染めるために使われるシャリンバイを見ると、自然のものを利用して織られていることが分かります。また先染めをするために使われる締機(しめばた)に張られた糸は、細かすぎて見ているだけで目がチカチカしてくるほど。

大正時代や明治時代の大島紬の柄を見ると、現代にも残っている柄の片鱗を見ることができます。時代を超えて島の人に大切にされ、たくさんの人によって技術が継承されてきた大島紬。文化の尊さやロマンを感じずにはいられませんでした。

職人の技術の見学や、自分だけのおみやげ作りを

資料館では、実際に機織りをしているところを見ることができます。すぐそばで見る職人の技術は惚れ惚れするほど。緯糸(よこいと)と経糸(たていと)を織り合わせる作業はとても細かく、数cm進めては針でズレを調整していきます。横で見ていてもまったく気づかないほどの、少しのズレが品質を大きく左右するのです。そのため、一日に進むのはたった10〜30cmほど。

館内では、ハンカチを使って泥染体験ができます。他の地域の場合、絹糸を泥に入れてしまうと、泥の粒子が荒く糸を傷つけてしまいます。しかし奄美大島の泥は粒子が細かく、鉄分が多く含まれるため、絹糸をつけても繊維を壊さず美しく染めることができるのです。

ハンカチを輪ゴムで縛って泥につけると、色の染まる部分と染まらないところに分かれます。開けてみるまでどんな柄に仕上がっているか分からないのがおもしろいところ。世界にひとつだけ、あなただけのオリジナルアイテムが作れるのでおみやげにピッタリです!

大島紬美術館の着付け体験でお気に入りの一着を

写真提供/ティダムーン
写真提供/ティダムーン

ティダムーンの2階には大島紬の美術館があります。ここには、伝統柄から最近のデザインのものまで数多くの大島紬が展示されており、中には世界自然遺産登録を記念した紬も。日本中でここにしかない、1972年に天皇陛下が訪れたときに献上した大島紬も展示されています。

「美術館」の名の通り、大きく飾られた大島紬はまるで芸術作品のようです。絵画のような柄もあり、色合いやグラデーションの表現にため息が出るほど。

「わたしは仕事で約40年大島紬を着てきました。女性の憧れである大島紬を着て仕事ができたのがわたしの誇りです。どんなデザインでも色褪せないし、わたしが着ている姿を見て興味を持ってくれる人がいることが嬉しいです」と星加さんは話します。

ファッションとしても芸術品としても楽しめる大島紬。着付け体験もできますので、お気に入りの一着を探してみてください。

着物離れや職人不足。大島紬を取り巻く厳しい環境

撮影/福澤昭嘉
撮影/福澤昭嘉

これだけの繊細な技術と歴史をもつ大島紬ですが、取り巻く環境は決して明るいものではありません。1972年には奄美大島だけでも年間29万7000反生産されていた大島紬ですが、2019年には3600反にまで落ち込んでいます。人々の着物離れが進み、需要が減ったこと。職人の高齢化、技術の後継者がいないことなど、問題は山積みです。

今、民間も行政も大島紬の技術を存続させるためにさまざまな取り組みを行なっています。行政が職人を希望する人に補助金を出したり、一般の人が大島紬の切れ端を使ってハンドメイド作品を作ってネット販売していたり、若い職人が職人として食べていける環境を整えるためにクラウドファンディングに挑戦したり。奄美大島の人々が一丸となって貴重な伝統技術を守ろうとしているのです。

職人さんの情熱やストーリーを伝え、後世に残していきたい

「大島紬は、奄美大島の歴史であり、文化そのものなんです。情熱を持った職人さんたちが脈々と引き継いできたもの。だけど、職人気質で表に出たがらない人も多い。背景にあるストーリーをしっかりと伝えて、職人たちと着てみたい人の橋渡しをしていきたい」と太田さんは話します。

私もたびたび取材で大島紬のお話を聞いていますが、何度聞いても新しい発見があり、その奥深さを実感しています。奄美大島の歴史を知る上で欠かせない大島紬。ぜひ、資料館や美術館を訪れて奄美大島の人々が紡いできたストーリーをご覧ください。

施設情報はこちら

施設名
ティダムーン

住所
鹿児島県奄美市笠利町平1260

電話番号
0997-63-0006

営業時間
資料館と美術館は事前予約制となっています。
見学をご希望の方は事前にお電話にてご予約ください。


休業日
無休


※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

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地域ナビゲーター

田中 良洋

奄美群島支部 地域ナビゲーター
田中 良洋

兵庫県出身。東京のIT企業で約4年働いた後に独立。結婚式のイベント企画などを仕事にするが、目の病気を患ったことをきっかけに人生を再考。30歳のときに島の暮らしに魅せられて奄美大島に移住しました。
ライターの他にも、ドローン撮影や映像制作、シュノーケリングガイドや予備校のスタッフなど、肩書きにとらわれず幅広く仕事を展開しています。