京都府京都市

京の食を通して伝える「部屋食文化」

2020.11.21

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。
今回登場いただくのは、朝日放送テレビ「ふるさとLOVERS」でも紹介された、1933年創業、京都市にある旅館「松井本館」の若女将・松井もも加さんです。

朝日放送テレビ「ふるさとLOVERS」で紹介された「松井本館」の若女将・松井もも加さんの映像は、こちらから特別にご覧いただけます。

まちなか散策や観光の拠点にぴったりな立地

京都駅から車で約10分。目に映る寺院や町家に京都の風情を感じているうちに、昭和8年から続く旅館「松井本館」に到着します。ここは碁盤の目のように道が通る、いわゆる“田の字地区”と言われる市内の中心部です。

2013年春にリニューアルした「松井本館」は、公共交通機関へのアクセスも良く、観光の拠点として人気の高い宿。四季や行事に合わせて毎月付け替えるのれんをくぐると、通りのにぎやかさとは一線を画すしっとりとした空間が広がります。両側に緑や灯籠が配されたアプロ―チを抜け、館内へ。和装姿のスタッフの笑顔と、女将が自ら生ける季節の花が出迎えてくれます。

ひととの交流が旅をもっと豊かにする

若女将の松井もも加さんが「100年後に残したいもの」として教えてくれたのが、「部屋食文化」です。部屋食とは、宿泊する部屋で食事をすること。最近はレストランを併設する旅館が増える一方で、部屋食は減ってきています。松井さんが部屋食を残したいと思う理由やその魅力とは何なのでしょうか。

「まずはコミュニケーションの面です。スタッフがお食事の用意にお部屋にうかがう際は、『おすすめの観光スポットはありますか』『この食材はどこで購入できるんですか』などの質問を受けることも多いんです。私たちがお伝えする情報で、お客さまのご旅行がより良いものになればと思っています。『食事の時間の会話が楽しかった』といったお声をいただくと、やはり部屋食の良さを感じますね」

家族や仲間だけで、のんびり気兼ねなく

周りの人の目を気にする必要がないのも部屋食ならではです。お風呂上がりのリラックスした服装でも、化粧は控え目でも、家族や仲間しかいないので気兼ねなく過ごせます。

こうしたプライベートな空間だからこそ、かなえられるもてなしもあるそうです。

「お食事の支度をしていると、『おめでとう』と乾杯されるシーンに出あうことがあります。お聞きすると、実は大切な記念日。こうしたお声は、大勢のお客さまがいらっしゃるガヤガヤとしたレストランだと聞き逃してしまうかもしれません。そうした声が耳に届いたら、できる範囲でのおもてなしをさせていただきます」

尋ねる際には、「差し支えなければ、お聞かせください」という言葉を忘れずに添えているとか。宿泊客との距離が近い分、踏み込み過ぎないことも、もてなしの一つといえそうです。

起きぬけの姿でも気にせず、おいしい朝食に舌鼓

「松井本館」では夕食だけではなく、朝食も部屋食スタイルです。

「お客さまの中には、お聞きしていた時間になってもお休みになられている方がいらっしゃいます。一言お声をかけてテーブルにお食事を準備しておくと、ご自身のタイミングで起きてこられてお召し上がりになります。自分だけの空間ですから、ゆっくりお過ごしいただけるんです」

心地よく目覚めたら、部屋に朝食が運ばれてくるまでは自由な時間。そのまま布団の中でウトウトしていてもいいし、レストランなどに移動しなくてもいいので髪や服装を整える必要もありません。寝起きの姿のままでもおいしい食事をいただける。これも部屋食の醍醐味です。

すべての世代の人に楽しんでもらえるよう、メニューや客室に工夫

部屋食というと懐石料理のイメージがありますよね。松井本館でも、四季折々の食材を使った懐石料理が人気です。「一品一品お出しするので、お客さまと触れ合える時間が多いんです。何かご質問を受けたら、次のお料理までの間に調べて、お知らせすることも。懐石料理だからこそ深まるコミュニケーションがあると思っています」

とはいえ、特に若い世代には懐石料理はハードルが高い…と感じている人は多いはず。そうした人たちにも部屋食を楽しんでもらいたいと、「松井本館」では、ステーキ懐石やすき焼き、鍋料理などバラエティーに富んだ夕食メニューが用意されています。お肉なら京都牛、鍋料理なら白味噌など、京都の食材をふんだんに使っている点からは、京都の食文化を感じてもらいたいという思いが感じられます。

また、高齢者への思いが伝わるのがバリアフリーの客室です。2013年のリニューアル時に新設されたこの部屋では、車いすに乗ったまま部屋食をいただけます。レストランに移動するのも大変という人に喜ばれているそう。

すべての世代の人がリラックスして旅先での食事を楽しめるのが部屋食の良さ。そして、その魅力を生み出しているのは、料理を通して生まれるひととのコミュニケーションであり、訪れる人への深い思いだといえそうです。

「世界に誇る文化である部屋食をもっと多くの皆さんに体験してもらいたい。これが私達の願いです」

地域ナビゲーター

文と編集の杜

近畿支部 企画・編集・ライティング
文と編集の杜

京都、平安神宮の近くに事務所を構える「文と編集の杜」。福岡県出身で、高知県、静岡県と全国を点々としてきたちくしともみが設立した編集・ライティング事務所です。関西を中心に、歴史、グルメ、インタビューと、幅広く取材・記事執筆を手掛け、地域のさまざまな魅力を発信中。また、表現を楽しむスペースとして、オフィス内に店舗を併設。読みものにまつわるイベントも開催しています。