沖縄県那覇市

礼儀・礼節を重んじる「守禮(礼)の心」

2020.11.22

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。今回100年先まで残したいのは「守禮(礼/れい)の心」。語ってくれるのは、首里で飲食店を営む伊波良子さんです。

焼失してもなお、受け継がれる「心」

提供写真:焼失した首里城正殿
提供写真:焼失した首里城正殿

沖縄の歴史・文化を象徴する城であり、琉球王国の歴史そのものであると言われる「首里城」。1945年(昭和20年)に沖縄戦と琉球大学の建設によりほぼ壊れてしまいましたが、琉球大学の移転に伴い、1992年(平成4年)に復元されました。しかし2019年(令和元年)10月、原因不明の火災により正殿含む主要7棟が焼失。周辺地域で暮らす人はもとより、沖縄県に住む多くの人が悲しみ、焼失後の首里城を見つめながら涙を流しました。首里の街に魅了され、首里城が望める地でレストランを経営する伊波良子さんは「正殿などは燃えてしまいましたが、首里城が代々伝えてきた“おもてなしの心”は受け継がれています」と話します。

首里城の一番最初の門である「守礼門(しゅれいもん)」には「守禮之邦(しゅれいのくに)」という扁額(へんがく/建物の内外や門・鳥居などの高い位置に掲出される額)が掲げられており、この扁額には「琉球王国は礼節を重んじる国です」という意味が込められています。これはかつて外交が盛んだった琉球王国が、お客様を首里城に迎え入れる一番最初の門で「私たちの国は礼節を重んじる国ですよ。滞在中は最高のおもてなしをさせていただきます」という決意表明をしていたのだそう。そんな守礼門に込められた想いは「守禮(礼)の心」として人々の心の中で引き継がれ、その心こそが「100年先まで残したいもの」だと伊波さんは話します。

「守礼の心とは、礼節を重んじる心です。礼節というのは礼儀正しいだけでなく、心の底から相手を敬う気持ちを言います。私たちのお店もそういう気持ちでおもてなしをして来ました。相手を思う気持ちとは、平和を紡いでいく心だと私は思います。世界中の方が“守礼の心”を持っていたら、平和な地球でいられるのではないでしょうか」

伊波さんの義父は、自分はボロボロの洋服を着ていても人のために頑張れる人なのだと話します。そんな義父を尊敬しており、また自分も沖縄に来て人の温かさに救われた部分が大きいから、今度は自分が身近な人のために頑張りたいのだと話してくれました。

守禮(礼)の心でお客をもてなす

「守禮(礼)の心」を重んじる伊波さんは、自身が経営する飲食店「「首里 東道Dining(シュリ トゥンダーダイニング)」でも、その心で多くのお客様を喜ばせてきました。

実は同店、マンションの中にあるという都合上21時までしか営業できず、ランチ営業を中止している今、営業時間はたったの3時間。にも関わらず毎日のように予約でいっぱいになるのは、伊波さんのただならぬ「守禮(礼)の心」のたまものです。

というのも、ここでは毎回訪れるお客の要望やシチュエーションをあらかじめヒアリングし、それに合わせた特別コースを毎回生み出しています。

オーダーメイドコースは、人気のラフテーなどの「琉球料理」と、伊波さん考案の「琉球フュージョン料理」から選択可能。琉球フュージョン料理とは、太陽の恵みをたっぷりと浴びた沖縄県産食材を世界各国の料理と組み合わせた、新感覚の多国籍料理です。世界各国の料理は、これまで伊波さんが習得した40カ国からチョイスされ、ほかでは味わえない独創性あふれるコース料理が堪能できます。

特別な料理とともに楽しめるのは、店内にある大きな一枚窓から望める首里の夜景。焼失前は、鮮やかにライトアップされた首里城を見ることができましたが、現在はよみがえる首里城の姿を眺めることができます。

首里城に対し人一倍強い想いがあった伊波さんは、首里城が燃えはじめた深夜3時頃、慌ててお店に駆けつけたと話します。家族全員で燃えていく首里城を眺めながら、こらえきれず涙を流しましたが、首里城焼失後、首里城や周辺商店のために、あるプロジェクトを立ち上げました。

首里の街を応援するプロジェクトを発起

首里城焼失後は、世界中から首里城再建の寄付金が集まりました。しかし、首里城焼失による観光客の激減で大打撃を受けた首里城周辺商店の現状は、まだまだ認知されていません。

その現状を受け伊波さんは、首里城や周辺商店に対する想いから自らが旗振り役となり「Together(トゥギャザー)首里プロジェクト」を立ち上げました。プロジェクトでは周辺商店の活性化や首里地域の情報発信、首里城再建支援ステッカーの販売などを行っています。

首里城は「人」。今こそ心をひとつにするとき

伊波さんは「首里城は人」だと話します。「首里城が焼失したことはとても悲しい出来事ですが、これは首里城からのメッセージだと思っています。これまで首里城に興味を示していなかった人も、焼失を機に誰もが首里城に興味を持ちました。首里城は火災をきっかけに、“心をひとつにしてほしい”“琉球王国についてもっと知ってもらいたい”と言っているのではないでしょうか」

沖縄の人にとって、首里城はいつもともにあったものだと気づきました。だからこれからも、ともに再建へ向かっていく。そんな想いにより、“心をひとつに、一緒に頑張っていこう”という意味を込めて、プロジェクト名にもある「Together(英語で共に、一緒にという意味)」を合言葉に選びました。

また、プロジェクト発起だけでなく、首里城焼失後にした決断はもうひとつあります。それはラフテー加工所の設立です。

「守禮(礼)の心」が生んだ、覚悟の味

お店の定番人気メニューである、首里味噌を使った「首里味噌ラフテー」は、以前より常連のお客から「お土産やギフトとして販売してほしい」という声が多くありました。

日々の忙しさからなかなか決断に至ることができなかった伊波さんですが、首里城が焼失し、レストランの経営が厳しくなるだろう、首里に人が訪れなくなるだろうという懸念から、首里を盛り上げたいと思いから加工所の設立を決意。「人々の首里を応援したい気持ちがたくさん詰まったラフテーだから、おいしいんです。おいしく作らないといけないんです」と覚悟を語ってくれました。

受け継がれていく「心」

伊波さんは取材中、首里城が燃えた時の悲しみやこれまでの道のりを思い出し、時折涙を流されながらも一生懸命にお話を聞かせてくれました。

たくさんの困難を乗り越えながらも、湧いてくるエネルギーの源は「もっと沖縄食材の美味しさを知ってもらいたい」「お客さんに喜んでもらいたい」「料理やお酒を通して沖縄のことを好きになってもらいたいという強い想い。この伊波さんの守礼の心が、料理や会話を通し、まるでバトンのように人々に受け継がれていく光景を、私は密かに想像しました。

スポット情報はこちら

施設名

首里 東道Dining

住所

沖縄県那覇市首里当蔵町2-13 キャッスルビュー4F

電話番号

050-3467-0364

営業時間

18:00~21:00(L.O.20:30、ドリンクL.O.20:45)

休業日

日曜日

地域ナビゲーター

三好 優実

沖縄支部 沖縄ライター
三好 優実

沖縄県那覇市在住。香川県で生まれ育ったのち、大阪や東京で仕事中心の生活を満喫していましたが、沖縄旅行で「人」の魅力にはまり、仕事をあっさり手放して移住。1年くらいで別の土地に行こうと思いきや、早6年が経過しました。ライター歴は5年。