北海道札幌市

家族みんなを笑顔にした札幌銘菓ノースマン

2023.04.10

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、北海道札幌市地域ナビゲーター・上坂由香さんの「100年先に残したいもの」をご紹介します。それは、100年以上続く老舗菓子店・札幌千秋庵の「ノースマン」です。

みんなが歌える千秋庵のCMソング

写真提供/札幌千秋庵
写真提供/札幌千秋庵

ここ数年、全国区になった「スイーツ王国・北海道」というキャッチフレーズ。もはや当たり前のように呼ばれるこの言葉には、豊かな大地で育つ小麦や小豆、新鮮な牛乳からできる乳製品のおいしさが裏付けされています。

そんな北海道に、なんと100年以上続く老舗菓子店があるのをご存じですか?北海道札幌市にある「札幌千秋庵」は創業101年。代表銘菓「山親爺(やまおやじ)」のCMソングは、ほとんどの道民が歌えるほど親しまれています。ちなみにこの山親爺とは、ヒグマの愛称です。

こんにちは。生まれも育ちも、きっと最後の日まで札幌にいるでしょう!と胸を張る、チャキチャキの札幌っ子北海道札幌地区ナビゲーターの上坂由香です。

今回は、私の個人的な「100年先に残したいもの」を紹介するにあたり、年間400万個の製造数を誇る札幌千秋庵の「ノースマン」を選びました。小学生の頃、「世の中にこんなおいしいものがあるのか!」と感動したノースマンとの出合いや現在の本店の様子、そして進化し続けるノースマンの「いま」をご紹介します。

札幌市の発展とともに歩んだ100年

写真提供/札幌千秋庵
写真提供/札幌千秋庵

本店がある中央区南3条西3丁目は、駅前通りと狸小路が交わり、今も昔もひときわ華やかでにぎやかな通りです。1921(大正10)年の創業当時の店構えは、まさに大正モダン。

創業者の岡部式二(おかべしきじ)氏は、札幌で初めてスイートポテトやシュークリームを発売し、大変な評判になったそうです。時代の一歩も二歩も先を行く岡部氏のお菓子作りは、和洋菓子界の先駆者といえますね。

家族みんなが小躍りして喜んだ新しいお菓子

写真提供/札幌千秋庵
写真提供/札幌千秋庵

こちらの写真は、近代化が急ぎ足で進んでいた昭和の中期ごろでしょうか。私がノースマンと出合ったのは、ちょうどこの建物だった時代です。お盆も近いある日、祖母宅にあがると、「仏壇にいいものがあるからチンして持っておいで」といわれ、おりんを鳴らして手に取ったのがノースマンでした。

包装袋の上からでも、しっとりとしたやわらかさが伝わり、わくわくして包みをあけると、見たこともない繊細なパイ生地と甘い香りにびっくり。しかも「あんこが入っている!」。生まれて初めてノースマンを食べた時の感動と喜びは、家族みんなで小躍りするほど。現在では当たり前に味わえるパイ生地のお菓子ですが、その頃はほとんど出回ってなかったのです。

パイ生地とあんこのバランスに試行錯誤

写真提供/札幌千秋庵
写真提供/札幌千秋庵

1974(昭和49)年に発売されたノースマンは、岡部氏が出張中に横浜中華街で出合った「パイまんじゅう」がヒントになった商品。「パイ生地と北海道を代表する小豆で、和洋折衷のお菓子を作りたい」という思いから生まれました。開発時は、パイ生地のバター感とあんこのバランスにとても苦労したそうです。

新しい物好きな祖母は、当時発売されたばかりのノースマンを何かで知って、本店で購入したのでしょう。それからというもの、祖母の家に行けば一目散に仏間に向かうのが習慣に。先祖供養に熱心な孫…ではなく、仏壇にあるかもしれないノースマン目当てだったことは、言うまでもありません。

大正時代から同じ場所で営業

大正から令和といくつもの時代を超え、千秋庵本店のあった旧ビルは、建て替え工事後の2020年にリニューアルオープン。お店もそのまま1階で営業しています。

街角でもひときわ目を引く大きなガラス張りの店内からは、路面電車が走る様子がよく見え、ホッとひと息くつろげるイートインコーナーも。老舗といっても、とても入りやすいお店です。

創業家から老舗の伝統を引き継ぎ、2022(令和4)年、代表取締役社長に就任した中西克彦さんに、ノースマンについて話を聞きました。

発売当時から変わらない製法を守る

「ノースマンは、千秋庵にとっても特に思い入れのある代表的なお菓子で、開発時から多くのこだわりを詰め込んできました。パイのおいしさや食感を最大に引き出すため、バターを練り込んだ生地を約500層に織り込み、一晩寝かせてから焼き上げています」と中西さん。

なんと500層!数字を聞いた瞬間、驚きと愛おしさが倍増。パイ生地を見つめて層を数えたくなりました。

写真提供/札幌千秋庵
写真提供/札幌千秋庵

そのパイ生地に包まれたあんは、渋みを取るため、小豆の皮をむいた「皮むきあん」を使用。このひと手間が、口当たりの良さとおいしさにつながっています。甘さも控えめで、小豆本来の風味が感じられますよ。

季節限定ノースマンから目が離せない

この日、目に留まったのは「とうきびあん」と書かれた黄色いパッケージ。ノースマンにきょうだいができたのかしら?と、事の真相を中西さんに尋ねると、「季節限定のノースマンにも力を入れています。約2か月ごとに違うフレーバーのものを発売していますが、とても好評です。春は桜のあんから始まり、次にハスカップ、夏は塩レモンなど、季節感あふれるノースマンが続々と登場しますよ」と教えてくれました。

とうきびあんのノースマンは、甘さ控えめの白あんに、焼きとうもろこしのような香ばしいフレーバーが広がります。どこか素朴で懐かしいのに、初めて味わう新鮮さ。季節限定ノースマンも、目が離せない存在になりました。

「和洋折衷がコンセプトのノースマンは、どんな飲み物にも合うところが根強い人気のひとつです。日本茶はもちろん、コーヒーや紅茶にもぴったりですよ」と、中西さんはにっこり。

本店は札幌の地下水が飲める希少スポット

店内の片隅で水の流れる音が…。レトロな蛇口から、なかなかの勢いで水が出ています。「1965(昭和40)年に、現在の本店(旧本社)がある場所に地下水を掘ったのが始まりで、1976(昭和51)年からは、お客さま用に地下水の提供を始めました。約90mの地下から汲み上げる札幌の伏流水は良質な軟水で、お菓子作りにも欠かせない大切なお水なんですよ」と中西さんは語ります。

備え置かれた紙コップで飲んでみると、口当たりのやさしいまろやかな水!50年以上前から出ている地下水かと思うと、いっそう感慨深くなりました。本店に足を運んだら、ぜひ飲んでみてくださいね。

ノースマンの進化が止まらない!

写真提供/札幌千秋庵
写真提供/札幌千秋庵

2022年に創業101年を迎えた千秋庵は、オリジナルのノースマンに北海道産の生乳で作った生クリームをたっぷりと加えた「生ノースマン」を発売。大丸札幌店と新千歳空港店のみで限定販売しています。

大丸札幌店では販売開始3週間で、累計4万個を売り上げるヒット商品に。あまりのおいしさに行列ができるほど大人気になりました。ノースマン好きの私も「これは一度食べて、ノースマンの進化を体感するんだ」と、心に決めた所存です。

もうすぐ50歳になるノースマン

札幌千秋庵は2021年に創業100年を迎えました。本店では、お店の歴史がわかる展示物を掲載しています。中西さんのお話を伺っていると、創業当時の伝統を守りながら、斬新なアイデアを上乗せすることに臆しない、老舗の心意気を感じました。

ノースマンはもうすぐ50歳の誕生日を迎えます。こういうと年齢がバレてしまいますが、ほぼ私の人生と同じ歩み。ともに生きてきた盟友です。これからもたくさんの人々に愛され、100年先も札幌の銘菓といわれ続けますように。

施設情報はこちら

札幌千秋庵・本店
住所:北海道札幌市中央区南3条西3丁目16-2
電話:011-205-0207 
営業時間:10:00~18:00
定休日:年末年始、ほかホテル施設の電気点検日等による臨時休業が年に1~2回あり
公式HP: https://senshuan.co.jp/

地域ナビゲーター

上坂 由香

北海道支部 地域ナビゲーター
上坂 由香

札幌市生まれ。中央競馬所属のトウショウシロッコに魅せられ、2007年から競馬を始める。馬に関する著述を各種媒体で行うほか、観光Webサイトのライターも手掛ける。2010年に引退したトウショウシロッコを引き取り、警視庁騎馬隊へ譲渡後、引退馬支援のボランティア活動を開始。第6回週刊Gallopエッセイ大賞受賞。