大阪府高槻市

古墳のなかを歩き回れる“みんな”の史跡公園

2023.03.17

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は鯖寿司と手打ち蕎麦の通販専門店、「柚子香」の木村 敬宣さんに、大阪府高槻市の「今城塚古墳公園」を紹介いただきました。

古墳が点在し、緑豊かで歴史ある高槻

大阪と京都のまん中に位置し、交通の便が良く古くから多くの人が暮らす大阪府高槻市。日本でも有数の古墳地帯であり、高槻市から隣接する茨木市にかけてのエリアは「三島古墳群」と呼ばれ、大小700基もの古墳が点在。高槻市内では、古墳が460基ほど確認されています。なかでも「今城塚(いましろづか)古墳」はその代表格。堤も含めた全長は354m。今から1500年前につくられたものとしては国内最大級の規模を誇る古墳です。

そんな「今城塚古墳」を「100年先に残したいもの」に推薦するのが、鯖寿司と手打ち蕎麦の通販専門店「柚子香」の木村 敬宣さんです。「緑豊かで古墳めぐりができるこのまちに生まれ育ったことを誇りに思っています」と、木村さん。JR富田駅前に「柚子香」を構え、高槻から全国へ、ほんまもんの味を届けています。

「天皇陵と考えられながら、開かれた公園として残る今城塚古墳。以前、古墳のすぐ近くに住んでいたころは、公園を犬と散歩するのが日課でした。身近に歴史を感じられる場所です」と、笑顔で話します。「出土品の年代からみて、学界では聖徳太子の曽祖父である継体天皇のお墓だと考えられている。だけど、いろいろな経緯から高槻市が管理することになったおかげで自由に入れることができるんですよ」と、愛情たっぷり。

地域に愛される広さ9haの“憩いの場”

今城塚古墳は発掘調査をへて、2011(平成23年)年に史跡公園となり、高槻の人気スポットになりました。早速、古墳の内濠を囲む遊歩道を歩いてみると、犬の散歩をしている人、芝生広場でシートを広げてお弁当を食べる家族、ジョギングする若者などそれぞれ楽しんでいるようです。広さは甲子園2つ分ほど。こんもりした森になっている墳丘にも入ることができます。

今城塚古墳公園と隣接する「今城塚古代歴史館」を案内いただいたのは、高槻市街にぎわい部文化財課、今城塚古代歴史館学芸員の三好裕太郎さん。

「こちらの古墳が古代より形を変えながらも残っているのは、地元の方々のおかげなんです。大王墓という古墳から一時期はお城になり、その後は農家さんの田んぼや畑となりましたが、手付かずで荒れていた時もありました。発掘調査によって整備が進み、こうして史跡公園になったことは運がよかったのだと思います」

太古の姿を再現する、大王の埴輪まつり

この古墳のすごいところは、出土した埴輪(はにわ)の数と種類です。1997(平成9年)年から10年にわたる発掘調査で出土したのは、円筒埴輪が6000点以上。家や大刀、人や動物などの形象埴輪200点以上を立て並べた「埴輪祭祀場」もでてきました。いまも古代と同じ場所で復元した埴輪がずらりと並びます。これらの埴輪は、規則的に配列されていたことが明らかとなり、大王のお葬式の様子を再現したと考えられています。

「古墳や埴輪が作られたのは、文字が広まるより昔のこと。当時の暮らしぶりを知るうえで欠かせないのが埴輪なんですよ」と、三好さん。埴輪祭祀場では、アヒルの大行進のような姿や両手を高々と挙げた巫女、ふくよかな力士などそれぞれユニークです。高槻市のキャラクター「はにたん」のモデルは、ここで出土した武人と知って親しみがわきます。

今城塚古代歴史館では、出土した本物の埴輪を展示

古墳公園に隣接するのが、発掘調査を展示する「今城塚古代歴史館」。出土品やジオラマ模型、映像展示などにより、今城塚古墳がどのようにつくられたのか、つぶさに知ることができます。

こちらは実際に出土した鰭付(ひれつき)円筒埴輪。「ここに人の手の跡がついているでしょう。埴輪は作られた年代やものづくりの工程、その人のクセや個性なんかも教えてくれるんですよ」と、三好さん。いまでも年に数回は、埴輪の破片をひろったという届け出があるらしく、長年の月日とここで暮らしてきた人とのつながりにおどろきます。

このほか、埴輪づくりや勾玉(まがたま)づくり体験などを定期開催。小学生対象の埴輪づくり体験は毎回、すぐに定員いっぱいになるそうです。

埴輪ごしごし。いましろ大王の杜(もり)クリーンアップ作戦

写真提供/今城塚古代歴史館
写真提供/今城塚古代歴史館

公園と歴史館をあわせた愛称は「いましろ大王の杜(もり)」。訪れる人に気持ちよく散策してもらおうとはじまったのが、復元埴輪を磨くクリーンアップ作戦です。毎年、春と秋の行楽シーズンにあわせて歴史館が実施しており、市民ボランティアなど100人以上が水を入れたバケツやタワシをもって埴輪を磨き上げていくとか。また、公園で行われる市民主体のイベント「古墳フェスcome come* はにコット」は、およそ3万人もの来場者が訪れる一大行事になっています。

古代の歴史が感じられる、みんなの史跡公園

古墳は古代から伝えられてきた人々の思いや、暮らしぶりが感じられる場所。かつての今城塚は荒廃した時期もあったようですが、いまでは市民の力によって一年中にぎわいのある場所になりました。

「緑豊かで古墳めぐりができるこのまちに生まれ育ったことを誇りに思っています」と、話してくれた木村さん。緑あふれる古墳が点在するだけでなく、大王の墓である墳丘に登ることができるのは、ここ高槻だけ。古代の人は緑豊かで見晴らしがよく、居心地のよい場所に古墳というお墓をつくったのだと感じることができます。これからも市民の憩いの場として親しまれていくのでしょう。

施設情報はこちら

(施設名)今城塚古墳公園
(住所) 大阪府高槻市郡家新町48-8
(電話番号) 072-682-0820
(営業時間) 24時間解放。駐車場は6:00〜22:00に開放


(施設名)今城塚古代歴史館
(住所)大阪府高槻市郡家新町48-8
(営業時間)10:00~17:00(入館は16:30)​
(休館日)月曜日(祝日の場合は開館)、祝日の翌平日、年末年始(12月28日~1月3日)
(入館料)無料(ただし、特別展は有料の場合あり)

地域ナビゲーター

仲底 まゆみ

近畿支部 地域ナビゲーター
仲底 まゆみ

大阪生まれ、京都・奈良育ち。古いものと新しいものが混在するまちや、路地裏を歩くのが好き。取材を通して、地域の魅力を引き出すことが目標です。大阪市在住。