北海道苫小牧市

「守りの漁業」で繋ぐ、絶品ほっき貝

2023.03.31

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は北海道苫小牧市にある「王子サーモン株式会社」の春日望(かすがのぞむ)さんに「ほっき貝」をご紹介いただきました。

日本一の水揚げ量が自慢!「苫小牧のほっき貝」

北海道苫小牧市は豊富な水と木材資源に恵まれたまちです。そんな苫小牧市の資源を活かし、1910(明治43)年に王子製紙株式会社 苫小牧工場が創業。王子製紙株式会社のグループ会社のひとつである「王子サーモン株式会社」は、苫小牧沖で捕れた鮭を原材料にした商品を販売しています。鮭以外にもさまざまな魚介が水揚げされており、中でも「ほっき貝」の水揚げ量は日本一。年間漁獲量は約800トン、全国の約16%を占めています(苫小牧市ホームページより令和2年実績)。

王子サーモンに勤める神奈川県出身の春日望さんは、苫小牧で初めてほっき貝の刺身を食べて、大きさや濃厚な味に驚いたそうです。「苫小牧では地元のスーパーでもほっき貝を買うことができます。気軽に新鮮なほっき貝が買えるのは、水揚げ量ナンバーワンの苫小牧ならでは。濃厚で大きいほっき貝は、道内でしか味わえません。特に刺身は最高。観光客の方は、場外市場や飲食店でぜひ味わってほしいです」と推薦してくれました。

ボランティアによって運営される「ほっき貝資料館」

まずは、ほっき貝について詳しく知るために「苫小牧市公設地方卸売市場」の近くにある「ほっき貝資料館」を見学しました。苫小牧の街づくり市民グループ「ゆうべあまちづくりネットワーク」の方々によってボランティアで運営されており、入館料無料。楽しみながらほっき貝に関する知識が得られます。

入り口では、「ほっき絵馬」がお出迎え。絵馬に見立てたほっき貝の貝殻に書かれた願い事は、家族の健康を想うものから「単位を落としませんように」「あと5キロ痩せたい」などほほえましいものまでさまざま。中には、”一念ほっき”の気持ちも綴られています。

館内には、ほっき貝に関する多くの資料が展示されています。ほっき貝の正式名は「ウバガイ」、漢字では「姥貝」と書きます。寿命が30年以上と長生きすることから、年を重ねた女性を意味する姥(うば)の名が付けられたとされています。ビタミンB12が100g中47.5㎍も含まれており、魚介類の中ではトップクラス。「苫小牧市の貝」として指定され、学校給食にも提供されています。

館内にはほっき貝の歴史や漁獲量に関する資料のほか、糸を引くと格言が出てくる「ほっきおみくじ」や「ほっき釣り」など、遊び心も満載。駆け足ではなく、じっくりと見て触れて、楽しんでほしい資料館です。

絶品!ほっき貝の刺身を食す

ほっき貝の知識を得た後は、同じ敷地内にある「海の駅ぷらっとみなと市場」でほっき料理を味わいます。この市場は、1954(昭和29)年に苫小牧駅前で開かれていた朝市が前身です。1972(昭和47)年に、「苫小牧公設食品卸売センター」として現在地に移転し、2003(平成15)年に食品小売業に業態転換。「ぷらっとみなと市場」となりました。苫小牧観光の要所として、たくさんの飲食店と小売店が入店しています。

市場内にある「ぷらっとすし」では、新鮮な魚介を食べさせてくれます。ほっき貝の刺身を味わうために、暖簾をくぐりました。店長の平賀義範(ひらが よしのり)さんは職人歴50年。苫小牧近隣の富川町出身で、心を込めてお寿司を握っています。

平賀さんいわく「ほっき貝は家庭でも簡単にさばくことができる」とのこと。さばき方は、水管と呼ばれる呼吸をするための隙間にナイフを入れて貝柱を切断。取り出した身はまな板に叩きつけることで硬直し、貝独特のコリコリな食感を楽しめます。

手慣れた様子でさばかれたほっき貝が運ばれてきました。刺身はとても肉厚で、歯ごたえ十分。ほっき貝の甘みが口に広がり、満足感に包まれます。寿司ネタではあまり味わうことがない貝柱といった、刺身ならではのバラエティに富んだ味覚が楽しめました。

ほっき貝は2年で3.5cm、10年で8.5cm、20年で9.5cmほどの大きさに成長します。苫小牧では漁業協同組合の取り決めにより、貝の産卵期(5~6月)を禁漁期間にし、殻長9cm以上の大型の貝だけを水揚げしています。「禁漁期間は苫小牧産以外のほっき貝を使いますが、大きさや味が全然違います」と平賀さん。刺身のほか「ほっき丼」や「ほっきの石焼きセット」などでも味わうことができます。

水産資源を守り後世に美味しさを伝える

さまざまな水産資源が減少する中でも、苫小牧のほっき貝は安定した漁獲量を誇っています。それは、適切な漁獲計画を立てることでほっき貝の水揚げ量が確保されて漁が継続できているからる。SDGsという考えが浸透する前から苫小牧ではそのような取り組みが行われていたのですきました。

「近年環境破壊が進み、海の生態系も変化している中、環境にも配慮されたほっき貝を道内外の人にもっと食べてもらいたい」と話していた推薦者の春日さんが言っていたとおり、取り組みとその美味しさをより多くの人に知ってもらいたいと思います。きっと100年後も大きくておいしいほっき貝を食べさせてくれることでしょう。

施設情報はこちら

■ぷらっとすし
住所:北海道苫小牧市港町2-2-5 ぷらっとみなと市場内
電話番号:090-3116-1994
営業時間:7:00~16:00(LO15:30)
定休日:水曜日

■ほっき貝資料館
住所:北海道苫小牧市港町2丁目2-5
電話番号:なし
開館時間:10:00~15:00
休館日:水曜日

地域ナビゲーター

吉田 匡和

北海道支部 地域ナビゲーター
吉田 匡和

札幌市出身、在住。社会福祉士の資格と経験を持つ異色の「おでかけ系ライター」。2016年にフリーライターに転向し、2017年に個人事業所「ブーレオルカ」を設立しました。「楽しさが伝わる」、「すべての人に有益である」、「記憶に残る」の3つを信条に執筆しています。