神奈川県鎌倉市

鎌倉武士たちの守護神「鶴岡八幡宮」と段葛

2022.12.12

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、神奈川県鎌倉市で120年以上続く老舗メーカー「鎌倉ハム富岡商会」のハム職人、望月岳人さんに「鶴岡八幡宮と段葛」をご紹介いただきました。

鎮座から840年余。鎌倉武士の拠り所であり、鎌倉文化の中心地

東京から電車で約1時間。開放感のある湘南の海と緑深い山々に囲まれ、歴史ある神社仏閣が点在する鎌倉は、一年を通して多くの人々が訪れる観光地です。2022(令和4)年の大河ドラマでは鎌倉時代が舞台となっていることもあり、さらに人気が高まっています。

そんな鎌倉観光の中心的存在といえるのが、「鶴岡八幡宮」。はじまりは、源頼朝の祖先である源頼義が京都の石清水(いわしみず)八幡宮を勧請(神霊を分け、別の神社に遷すこと)し、源氏の氏神として鎌倉の海の近くに祀ったことによります。その後、1180(治承4)年に源頼朝が鎌倉幕府の拠点を鎌倉に置いたのと同時に、崇敬を寄せていた八幡宮を幕府の中枢にほど近い現在の地に遷し祀りました。

以降840年以上にわたり、鶴岡八幡宮は鎌倉の文化の中心であり、街を見守り続けています。

まわりの道路から一段高くなった参道「段葛」

鎌倉の海岸である由比ヶ浜(ゆいがはま)から鶴岡八幡宮に向けてまっすぐに伸びる約2kmの参道が、若宮大路です。頼朝がまちづくりの一歩として京都の朱雀大路を参考にし、自ら指揮をとって整備したと伝えられています。若宮大路には3つの鳥居があり、由比ヶ浜にほど近いものが「一ノ鳥居」、鎌倉駅を出てすぐのところにあるものが「二ノ鳥居」、そして鶴岡八幡宮の境内の入り口にあるものが「三ノ鳥居」と呼ばれています。

二ノ鳥居から鶴岡八幡宮に向けて、若宮大路の中央に石が積み上げられ、まわりから一段高くなった歩道があります。これが段葛(だんかずら)です。かつては特定の地位にある人のみが通行を許された道だったといわれています。

頼朝の夫婦愛が込められた参道。春には美しい桜が咲き誇る

この段葛を毎朝通勤の際に眺めているというのが、鎌倉ハム富岡商会のハム職人である望月岳人さん。創業から120年以上の老舗である鎌倉ハム富岡商会は、現在でも職人の手作業にこだわり、おいしいハムを食卓に届けています。望月さんは、「段葛のある鎌倉の街の風景を100年先にも残していきたい」と話してくれました。

「段葛は、敵が攻め込んで来る際に八幡宮が遠くに見えるように錯覚させるために、二ノ鳥居側の道幅よりも八幡宮側の道幅のほうが狭く作られていると学校で教わりました。遠近法をつかった知恵が面白いですよね。通りがかるたびに、『見た目ではわからないものだなぁ』と思いながら眺めています。また、春になると段葛の両脇に植えられた桜の花が咲いて、とてもきれいなんです」

写真提供/鶴岡八幡宮
写真提供/鶴岡八幡宮

この段葛は、一説によると源頼朝の妻・政子が懐妊した際に、安産を願って頼朝が舗装の指揮をとったともいわれています。望月さんもご夫婦でこの段葛を歩くことがあるのだとか。

「段葛は夜に歩くのもおすすめです。コロナ禍で外出があまりできず、少し息苦しい気持ちだった時期に、妻を誘って段葛を歩きました。家族みんなで夜桜を見に来たこともありましたね。ここを歩くと自然と気持ちが落ち着くんです。若宮大路の歩道も歩くことができるのですが、あえて中央の段葛を歩くというのは、特別感がありますね」

境内は鎌倉文化の集積地であり、地域の憩いの場

鶴岡八幡宮は、頼朝をはじめ多くの武士たちが祈りを捧げ、武家文化が生まれてきた場所。約3万坪の広い敷地には、たくさんの見どころがあります。

大石段を登った先にあるのが本宮。応神天皇、神功皇后、比売神の三柱の神様が御祭神として祀られており、国の重要文化財に指定されています。大石段から街の方を眺めると、海の方へまっすぐと伸びる若宮大路と段葛の風景を見ることができ、こちらも絶景です。

黒塗りの社殿が印象的な白旗神社。源頼朝と実朝が祀られており、必勝や学業成就であつく信仰される神社です。

三ノ鳥居から境内に入って、左右にある2つの池が源平池。東の源氏池には3つ、西の平家池には4つの小島が浮かび、それぞれ”産(源氏の繁栄)”と”死(平家の衰退)”を象徴しているといわれています。戦国の世相を反映するような由来を持つ源平池も、数百年が経った今では池のほとりにベンチが置かれ、地域の人々の憩いの場に。夏になると池には紅白の蓮の花が咲き、まるで天国のような光景が広がります。

このほかにも、敷地内にはいくつかの御社殿や御神宝を見られる鎌倉国宝館、ミュージアムやカフェなどがあり、しっかり見学したら1日を過ごせてしまうほどの充実ぶりです。また、毎年9月には1187(文治3)年から途絶えることなく続いている「例大祭」があり、流鏑馬神事や鈴虫放生祭などが執り行われます。鎌倉時代に発祥した文化に触れられる貴重な機会なので、この時期にもぜひ訪れてみてください。

鎌倉時代から受け継がれる、街を象徴する景色

写真提供/鶴岡八幡宮
写真提供/鶴岡八幡宮

たくさんのお店が並び、観光客で賑わう若宮大路。その中央に据えられた段葛と大石段の上に鎮座する赤い社殿は、鎌倉を象徴する景色です。

鎌倉観光で鶴岡八幡宮を訪れる人は多いと思いますが、そのときはぜひ段葛を歩いて向かってみてください。八幡宮に向けてまっすぐに伸びた小高い道を歩くと、自然と背筋が伸び、すがすがしい気持ちになるはずですよ。

施設情報はこちら

施設名
鶴岡八幡宮

住所
神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-31

電話番号
0467-22-0315

営業時間
10月〜3月/6:00~21:00、4月〜9月/5:00~21:00

休業日
無休

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

宮島 麻衣

関東支部 地域ナビゲーター
宮島 麻衣

フリーの編集者・ライター。かつては東京の出版社勤めでしたが、30代に入り、取材で訪れたタイ・バンコクに強く惹かれ移住。タイでの生活の中で「人生において暮らす場所を自分で選ぶことは大切」と実感。帰国後は神奈川県・鎌倉市に在住。たくさんの人が笑顔で歩いている観光地での生活にパワーをもらっています。地元は長野県上田市。山に囲まれているととても安心します。