福岡県

ホタル舞う故郷への想いを未来へ

2022.10.03

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、ふるさとLOVERS公式Instagram「旅写真コンテスト」にご応募くださったyu_yu7.29(@yu_yu7.29)さんの100年先に残したいもの、福岡県朝倉郡の「ホタルの舞う風景」です。

誰かに教えたい旅写真コンテストとは?

誰かに教えたい旅写真コンテストの詳細はこちら
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「大切な人に教えたい」「100年先にまで残したい」。地元や旅先で見つけたとっておきの写真を、Instagram・Twitterでハッシュタグ「#ふるさとLOVERS」をつけて投稿してみませんか。「ふるさとLOVERS」では、「誰かに教えたい旅写真コンテスト」を主宰しています。投稿写真の中から選考の上、「ふるさとLOVERS賞」受賞者には賞品をプレゼント!ぜひご応募ください。

里山を潤す清き川の流れが命を育む

福岡県と大分県の県境に位置する、福岡県朝倉郡東峰村(とうほうむら)。村の北東部に位置する宝珠山(ほうしゅやま)地域から流れる清流は、人々の暮らしに潤いを与え続けてきました。豊かな自然を育んできたこの川の恩恵を受けてきたのは、人間だけではなく、川沿の自然を住処とするホタルたちも同じです。

yu_yu7.29(@yu_yu7.29)さんが投稿してくれた写真
yu_yu7.29(@yu_yu7.29)さんが投稿してくれた写真

今回、そんなホタルが舞う風景を「100年先に残したい」と、ふるさとLOVERS公式Instagram「旅写真コンテスト」に応募してくれたのはyu_yu7.29(@yu_yu7.29)さん。「姫ホタルの乱舞はまるで森のイルミネーション」と投稿してくれました。東峰村のホタルの美しさに触れるべく、ふるさとLOVERS地域ナビゲーター中城が実際に取材してきました!

ホタルのことを教えてくれたのは、「宝珠山ほたるを育てる会」会長の川村清孝(かわむらきよたか)さん(写真左)と副会長・伊藤幸春(いとうゆきはる)さん(写真右)です。

「宝珠山ほたるを育てる会」の名称に掲げている“宝珠山”とは、かつてのこの地域の旧村名である「宝珠山村(ほうしゅやまむら)」が由来です。2005年の市町村合併の際に「小石原焼(こいしわらやき)」で有名な小石原村と宝珠山村が市町村合併し、現在は“東峰村”となりました。村の中心部にある「棚田親水公園」一帯では、毎年ゲンジボタル、ヘイケボタルの2種のホタルの姿を見ることができます。

かつての川を取り戻したい一心で

同会の発足は、1980(昭和55)年。会の創設者が少年の頃、故郷に帰ってきた際に、ホタルの減少を目の当たりにしたことがきっかけです。穏やかな自然の中で、生きとし生けるものたちが伸びやかに暮らしていた故郷の村は、護岸整備や農薬、家庭排水などの影響で、ホタルが飛ばない村になっていました。その様子を悲しみ、「かつての川を取り戻そう!」と、一念発起。村の未来を担う子どもたちが誇れる故郷の村を取り戻すために、ホタルの飼育活動や河川の環境保全活動に取り組む覚悟を決めたのです。

写真提供 / 東峰村役場
写真提供 / 東峰村役場

「宝珠山ほたるを育てる会」の活動は共感を呼び、多いときには50名ほどまで会員数を伸ばすなど、村民一丸となって環境への意識を高めてきました。同会主催で毎年6月の第一土曜日には「宝珠山ほたる祭」を開催するほか、河川の清掃活動や小・中学校でのホタルの生態講座、先進地への視察や勉強会、ホタルの飼育など、意欲的な取り組みを続けています。

国土交通省の受賞を追い風にして

そんな会の躍進は高く評価され、1999(平成17)年に魅力あるまちづくり推進に寄与する団体として「全国まちづくり国土交通大臣賞」を受賞。「受賞できたことは、やはり大きな励みになりましたね。ホタルの舞う光景は、故郷の誇り。それを守りたい一心で、今日まで活動を続けてきました」と晴れやかな笑顔を見せてくれたのは、在籍35年の川村さんです。

一方、川沿いに建つ家から眺めるホタルの姿で四季を感じていたという伊藤さんは、在籍25年。ホタルの飼育に熱心に取り組む主要メンバーの1人です。「自分にとってはまだ25年という感覚です」という言葉に、尽きることのない情熱が垣間見えます。「メスのホタルは生息数が少なく、貴重な存在です。たとえ繁殖活動のためにという理由であっても、むやみに捕獲することはできませんが、メスホタル数匹は、将来のさらなる繁殖のため採取し、産卵、孵化、そして幼虫の放流となります」

川べりの泥や藪も、ホタルを育む村の財産

写真提供 / 東峰村役場
写真提供 / 東峰村役場

メスは6月上旬頃に産卵し、孵化した幼虫は、約9カ月間、水中でエサとなるカワニナを食べながら過ごします。4月頃になると、幼虫は川岸から陸へ上がり、土の中で繭を作ってさなぎとして1カ月過ごした後、5月20日前後に成虫となり、6月の上旬にピークを迎えます。1回の産卵で500個ほどの卵を産むというホタル。自然界では、そのうち2~3割程度しか成虫になることができないとか。そのため会員たちは、各自で1年間丁寧に育て、その命を大切に守り継いでいるそうです。

写真提供/ 東峰村役場
写真提供/ 東峰村役場

そうした長年の活動が実を結び、ホタルの名所として賑わいを取り戻していたところで、再び困難が訪れます。「平成29年7月の九州北部豪雨」で大きな被害を受けた河川は、再び護岸整備がなされることになったのです。「本来、ホタルは日陰の涼しい場所を好みます。川べりに堆積した泥も、その横に生えた藪(やぶ)も、ホタルたちが成長する過程においては欠かせない村の財産です。豪雨と護岸工事の影響で、ホタルの生育に適した環境が激減してしまいました」と川村さん。

公園の中央部に架かる「ほたる見橋」から眺める川。ここは、ホタルの名所として知られていましたが、豪雨の被害で護岸が崩れてしまいました。護岸の一部は、コンクリートのブロックの中に植木鉢のように土を入れた特殊な“ホタルブロック”を施工できた部分もありますが、川べりの多くはホタルの住処となる場所を失ってしまいました。

小さな命は、未来につながる希望の光

写真提供/ 東峰村役場
写真提供/ 東峰村役場

「橋は以前より立派になったけど、ホタルがかつてのように飛び交う川になるまで、何年かかるかわかりません。『ほたる見橋』から眺める、かつての見事な風景を取り戻したい。川べりに自然と土が溜まり、そこに草木が茂り、ホタルにやさしい環境になります」。

この村にとって、里山を潤す清き川に舞う光は、村の未来を照らす希望そのもの。ホタルが育つ豊かな川の再起を待つおふたりは、今日も小さな命の見守りを続けています。

施設情報はこちら

(施設情報)
棚田親水公園 

(住所)
福岡県朝倉郡東峰村宝珠山3100

(電話番号)
なし

地域ナビゲーター

中城 明日香

九州支部 地域ナビゲーター
中城 明日香

旅をするように取材をすることがモットー。ほんの些細な出来事も、ゆるやかに過去と未来を繋いでいるはず、との想いから目の前にあるヒト・モノ・コトの背景を大切に、心で繋がる取材を心がけています。熊本の雄大な自然と、温かくてユニークな熊本の人々によって育まれたこの土地ならではの魅力を、独自の視点でお届けします。