千葉県浦安市

漁師たちの意思を受け継ぐ浦安三社例大祭

2022.10.13

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、千葉県浦安市にある浦安ブライトンホテル東京ベイの三平哲也さんに、浦安三社例大祭をおすすめいただきました。

市民のコミュニケーションの場となる浦安三社例大祭

写真提供/浦安観光コンベンション協会
写真提供/浦安観光コンベンション協会

東京ディズニーリゾート®がある街として、全国の人たちから親しまれている千葉県浦安市。今回ご紹介するのは、活気に満ちた「浦安三社例大祭(浦安三社祭)」です。市民と見物客が一体となり歓声と拍手が溢れる3日間は、浦安市民にとってかけがえのない一大イベントとなっています。

「『まえだー、まえだー』という独特の掛け声とともに熱く燃えるお祭りで、夜になっても掛け声が頭から離れなかったほどです」と話すのは、100年先まで残したい行事として「浦安三社例大祭」を紹介してくれた浦安ブライトンホテル東京ベイの三平 哲也(さんぺい てつや)さん。

「デジタル化が進む時代、人と人との交流は減っていくと思いますが、昔からのお祭りを若い世代の方々にも大切にしていただきたい」と、話します。浦安市にとってかけがえのないイベントである浦安三社例大祭の魅力を、ふるさとLOVERS地域ナビゲーターの山本が、浦安三社(清瀧神社・豊受神社・稲荷神社)のそれぞれの氏子総代(うじこそうだい/氏子の間から選ばれた代表世話人)さんにお伺いしました。

明治時代から脈々と受け継がれる祭の魂

4年に1度、開催される浦安三社例大祭。もともとは、10月の各氏神様の祭礼として、地区ごとに祭りが行われていました。大正時代から神輿が登場し、6月に行われるようになったのが、現在の三社祭の起源といわれています。漁師町ならではの海で揉まれた荒い気性もあり、掛け声が勇ましく、神輿を担ぎ練り歩くさまは迫力満点です。

「浦安の漁師たちは血気盛んだから、昔は喧嘩神輿・暴れ神輿が有名だったものです」と笑って話されるのは、三社の総代。

神輿の担ぎ方は時代とともに変化する

写真提供/浦安観光コンベンション協会
写真提供/浦安観光コンベンション協会

かつては民家に突入するなど喧嘩神輿、暴れ神輿と言われるほど激しい祭りで、昭和30年代半ばから一時中断される事もありましたが、関係者の努力で復活してからは、誰もが参加しやすい祭りとなっていきました。より多くの人数が担げるようにと、神輿の棒を長くしたとの事です。

また、浦安三社例大祭の象徴ともいえる「まえだー、まえだー」の掛け声は、昔は前後背中合わせで担いで合図を送り合っていたことが始まりともいわれています。「根っからの祭好き」の血は、形を変えながら現在の浦安の年配の方から小さな子どもたちまで脈々と受け継がれているのです。

市民の「神酒所作り」から浦安三社例大祭は始まっている

写真提供/浦安観光コンベンション協会
写真提供/浦安観光コンベンション協会

6月中旬の祭りに向けて、5月のゴールデンウィークには市民たちによる神酒所(みきしょ)作りが始まります。神酒所とは、神輿が休憩する場所を指します。「早ければ、半年、1年前から祭りの準備を始めていますね」と、三社の総代は口を揃えていました。

神酒所が立てば皆、仕事を休んで神輿の渡御ルートとなる道の両側の飾り付けや大根じめを張り巡らすなどの準備に取りかかるそうです。夜になると皆で神酒所に集まり、飲んで語り合うため、市民にとって大切なコミュニティの場。浦安三社例大祭までの期間、浦安市民たちの賑やかな声が溢れます。

市民と大勢の見物客に見守られる「御霊入れ」

写真提供/浦安観光コンベンション協会
写真提供/浦安観光コンベンション協会

浦安三社例大祭は、清瀧神社・豊受神社・稲荷神社の3つの神社による宵宮(よいみや/本祭り前日のこと)から始まることが特徴です。宵宮では神輿に魂を入れる「御霊入れ」の儀式が行われ、御霊入れを終えたあと、神社や提灯に一斉に明かりが灯ると、周囲から大きな歓声と拍手が湧き上がります。

宵宮の儀式の最中は、神社一体が神秘的な空気で満たされます。一般的なお祭りでは神輿を担ぐのは2日目・3日目からと言われていますが、浦安三社例大祭では毎年初日から担ぎ手たちによる「まえだー、まえだー」の掛け声とともに威勢よく神輿を担ぐ姿が見られます。

祭の見せ場となる神輿の「地すり」とは?

写真提供/浦安観光コンベンション協会
写真提供/浦安観光コンベンション協会

祭りの2~3日目は、80基もの神輿が元町地域をそれぞれのルートを練り歩き、熱気で満ち溢れます。浦安三社例大祭の神輿は、擦り・揉み・差し・放りの4つから成る「地すり」が最大の見せ場です。見物客が周囲を埋め尽くすなか、神輿を地面すれすれまで下げて指先だけで持ち、神輿を一回転するなか、周囲の人は「回せ、回せ」と囃し立てます。これを、「擦り」といいます。

さらに、「揉み」は地面すれすれの高さから腰の高さまで神輿を持ち上げ、音頭役の「揉め、揉め」の合図とともに、神輿を上下に揺らしながら一回転。「差し」は「差せ、差せ」の掛け声のなか、神輿を頭の上まで持ち上げ一回転します。頭上で神輿を3回放り投げる「放り」は、担ぎ手たちの息を合わせることが重要なポイント。少しでもタイミングが合わなければ、神輿のバランスが崩れるため、担ぎ手たちの長年の勘が頼りとなります。

子どもも、女性も、見物客も誰でも参加できる

写真提供/浦安観光コンベンション協会
写真提供/浦安観光コンベンション協会

浦安三社例大祭は、女性だけで神輿を担ぐ「女神輿」があることでも有名です。資料を見せていただくと、若い女性たちが活き活きと楽しそうに神輿を担いでいる姿が印象的でした。

浦安市の子どもたちにとって、浦安三社例大祭の神輿を担ぐことは、4年に1度の楽しみ。資料に映る子どもたちは、どの子も皆笑顔で、祭りを心待ちにしていたことが伝わってきます。また、市民だけではなく見物客も気軽に参加できることが魅力。はんてんを着ていなくても周囲の人に借りて神輿が担げる柔軟さも人気の理由です。

祭の開催を願って

写真提供/浦安観光コンベンション協会
写真提供/浦安観光コンベンション協会

2020年6月に浦安三社例大祭は開催予定でしたが、新型コロナウイルスの影響によって開催が延期となりました。市民の方たちにとって、浦安三社例大祭は大切なコミュニケーションの場所であり、互いに労いの言葉を掛け合う場所です。「また、市民たちが祭りの準備を通して、賑やかに集まれる場所を作れたら」と総代たちは語ります。

浦安は、境川を中心にして街が発展した様子が色濃く残っていることが特徴です。市民にとって4年に1度の浦安三社例大祭は、大きな楽しみや心の支えにもなっていることがわかります。漁師町で育まれた人情味溢れる気質は、親から子へ、子から孫へと受け継がれています。

紹介者の三平さんも、ぜひ若い世代の人にも参加してほしいとおっしゃっていました。次回の浦安三社例大祭の興奮を、市民の方や見物客たちと共に、ぜひ私も体験したいです。そして、その際には地下足袋を持参して、女神輿を担ぎたいと思っています。

開催情報はこちら

イベント名:浦安三社例大祭(浦安三社祭り)


開催場所:千葉県浦安市 清瀧神社/豊受神社/稲荷神社


電話番号:047-351-1111


開催期間:2016年度は6月17~19日に開催

地域ナビゲーター

山木 春佳

関東支部 地域ナビゲーター
山木 春佳

埼玉県越谷市在住。温かいコーヒーを飲みつつ、のんびりと手帳に向き合う時間に幸せを感じます。取材記事を執筆するときには「好奇心を持ち続けること・驚きや感動を文章に乗せること」を大切にしています。