徳島県三好市

風景ごと残したい徳島・祖谷のでこまわし

2022.09.30

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、ふるさとLOVERS公式Instagram「旅写真コンテスト」にご応募くださったゆき(@u_n_imaru)さんの100年先に残したいもの、徳島県三好市の「でこまわし」をご紹介します。

誰かに教えたい旅写真コンテストとは?

誰かに教えたい旅写真コンテストの詳細はこちら
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「大切な人に教えたい」「100年先にまで残したい」。地元や旅先で見つけたとっておきの写真を、Instagram・Twitterでハッシュタグ「#ふるさとLOVERS」をつけて投稿してみませんか。「ふるさとLOVERS」では、「誰かに教えたい旅写真コンテスト」を主宰しています。投稿写真の中から選考の上、「ふるさとLOVERS賞」受賞者には賞品をプレゼント!ぜひご応募ください。

日本三大秘境の地で、いまも受け継がれる郷土料理

徳島県の西部に位置する三好市祖谷(いや)。1000m級の山々に囲まれ、深いV字を描く渓谷「祖谷渓(いやけい)」を有するなど、“日本三大秘境”とも呼ばれるこの地に、いまなお受け継がれる郷土料理が「でこまわし」です。

山の斜面に民家が点在する祖谷では、そば、こんにゃく、豆腐、川魚といった山、川の幸で暮らしをつないできました。「でこまわし」は、豆腐やこんにゃくなど、代表的な祖谷の幸を竹串に差して味噌をつけて焼く、素朴で滋味深い逸品です。

ゆき(@u_n_imaru)さんが投稿してくれた「でこまわし」の写真
ゆき(@u_n_imaru)さんが投稿してくれた「でこまわし」の写真

そんな「でこまわし」を「100年先に残したい」と、ふるさとLOVERS公式Instagram「旅写真コンテスト」に応募してくれたのはゆき(@u_n_imaru)さん。「いつ食べても美味しい!!100年後は、今よりももっと調理方法が進化しているんだろうけど、こんな光景が残っているといいな」と、「でこまわし」の写真を投稿した理由を伝えています。今回は、ゆきさん推薦の「でこまわし」を、ふるさとLOVERS四国ナビゲーターのハタノが取材してきました!

名勝「祖谷のかずら橋」そばに、でこまわしのお店が並ぶ

「でこまわし」を求めてやってきたのは、祖谷渓にかかる国の重要有形民俗文化財「祖谷のかずら橋」。四国の山に自生する約5.5トンのシラクチカズラでつくった橋は、年間約35万人(2020年以前の統計)が訪れる三好市の一大観光スポットです。かずら橋の一帯には、祖谷名物「でこまわし」を食べられるお店がいくつかあります。

その一つ、「いこい食堂」へお邪魔しました。「祖谷のかずら橋」を渡って、左に曲がったすぐ先にあります。渓谷の澄んだ空気の隙間から、香ばしい味噌と魚の香りがほわんと漂ってきました。

「でこまわし」の名前の由来は阿波の人形浄瑠璃

「でこまわし」についてお話を伺ったのは、三好市観光協会の太田裕美さん。太田さんの、その手の先をご覧ください。ドラム缶を切った台の上で、「でこまわし」のほか、祖谷の清流が育むアユとアマゴが炭火にあたっていました。郷愁あふれる“炭火焼き”の風情も、推薦者ゆきさんにとって“ずっと残ってほしいもの”。

「『でこまわし』はかつて、どの家庭にもあった囲炉裏で調理するものでしたが、囲炉裏が珍しくなった今でも、家庭料理として根付いていますよ。わが家では、バーベキューでも登場します」と太田さん。確かにバーベキューも炭火を使うので、味の再現性は高そう。

味噌やこんにゃくに味噌をつけて焼く。考えてみれば、“田楽”ですよね。そもそも、なぜ「でこまわし」と呼ぶのでしょう? 太田さんに尋ねたところ、竹串に差したものを回しながら焼く様子が、徳島の伝統芸能「阿波の人形浄瑠璃」の「でこ(人形)」に似ていることから、この名がついたとか。

「“頭”は、そばだんごか『ごうしゅ芋』(祖谷特産の小ぶりのジャガイモ)です。“胴体”は、祖谷特産の『岩豆腐』で、やや固めの木綿豆腐のこと。“足元”は串から外れないようにストッパー代わりにもなるこんにゃくです。『でこまわし』は大体、この並びです」。下ごしらえした具材を竹串に刺し、味噌をつけて焦がさないように炭火でじっくり回し焼けば「でこまわし」の完成です。

香ばしい味噌と祖谷特産のコラボレーション

「でこまわし」を手に持つと、思いのほか、ずっしりと重みがありました。温かいうちにいただきます。

“頭”を丸ごと口に入れると、まず驚くのがごうしゅ芋のおいしさ。ホクホク、ねっとりな食感で、甘みも強め。これに香ばしい味噌が絡んで最高の一口目です。次に、岩豆腐。こちらも素材のおいしさに感動。大豆の味がとにかく濃い!豆腐と味噌の最強コンビな上に、炭火で焼くことでそれぞれのおいしさが相まっています。最後は、こちらも祖谷には欠かせない食材のこんにゃく。絶妙な歯応えのこんにゃくと味噌の相性はもはや説明不要ですね。渓谷の大自然がさらに、“おいしさ”を引き立てます。

祖谷の暮らしを映した、唄と食べもの

取材中、元バスガイドという経歴の太田さんが、その美声で何度も披露したという「祖谷の粉引き節」をうたってくれました。交通網が発達するまでは、大豆やそばなどを石臼で粉にして、祖谷の命をつないできたそうです。重い石臼をまわしながら夜な夜な粉をひくとき、うたったのが粉引き節。祖谷で暮らす大変さや悲哀が詞に織り込まれています。

米を育てることができない土地で、明日の糧につくられたジャガイモ、豆腐やこんにゃく、味噌。そして、寒く長い冬を乗り越えるための囲炉裏。「でこまわし」には、祖谷の風土とそこに生きる人たちの知恵がぎゅっと詰まっているのですね。ゆきさんが「100年先に残したい」と投稿した気持ち。取材してみてとっても共感します。

山から山へと渡るための生活の”道”として築かれた「かずら橋」と一緒に、秘境の暮らしを感じながら、祖谷で“100年先も残すべきもの”を味わってくださいね。

地域ナビゲーター

ハタノエリ

四国支部 ライター・エディター
ハタノエリ

宮崎県の海のそばで生まれ育ち、高校卒業後は大学、仕事、夫の転勤を理由に
全国各地10カ所以上で暮らしました。2017年、愛媛県松山市に移住。現在は、ライター、エディター、コピーライターとして、取材対象の言外からあふれるものを拾いながら、ひと・もの・ことを、ことばで表現しています。