北海道旭川市

幼少時から大好きな故郷の味「旭川ラーメン」

2022.08.19

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は北海道旭川市にある「大雪地ビール株式会社」の小野寺司さんに「旭川ラーメン」をご紹介いただきました。

濃厚でありながらアッサリした後味が特徴的

旭川ラーメンは、札幌・函館・釧路と並ぶ「北海道4大ラーメン」の一つに数えられ、1947(昭和22)年頃に誕生したと言われています。豚骨をベースに、鶏ガラ、魚介、香味野菜などがくわえられたスープと、低加水の中太の縮れ麺や醤油ダレが基本で、厳冬期には氷点下30度以下にもなる旭川の寒さでもスープを冷まさないよう、表面が脂の膜で覆われているのが特徴です。

旭川周辺で生産される良質な食材と、美味しい大雪山の静水を生かしたビールを製造・販売する「大雪地ビール」の小野寺司さんは、子どものころから食べていた「旭川ラーメンを100年後にも残したい」と言います。

旭川市内にはたくさんの専門店があり、1997(平成8)年には「旭川ラーメン村」がオープンするなど、まちをあげてラーメンの振興に取り組んでいます。中でも「らーめんや天金」は、平日でも開店前から行列ができる人気店です。麺が濃厚なスープを吸収し、箸が止まらないほどのおいしさ。そんならーめんや天金の魅力を探るべく、社長の藤田奈々子さんに話を伺いました。

ラーメン聡明期に現在の味が完成していた

「らーめんや天金」は、昭和20年代に藤田さんの祖父である信田松太郎(のぶたまつたろう)さんが創業した飲食店が始まりでした。松太郎さんは、秋田県で農家を営む家庭の四男として出生。16歳の時に仕事を求めて単身で北海道に渡りました。

ある日、働いていた鮮魚店で魚をさばいていたところ、飲食店から「手際が良い」と声を掛けられたことがきっかけで、料理人の道を進んだそうです。現在も旭川市内で営業している割烹料理店「天金本店」と「居酒屋 天金」のほか、飲食店を多角経営していて、ラーメン店もその一つでした。「ラーメンの黎明期に、すでにお店を開業していたのですから、祖父は先見の明があったのでしょうね」と、藤田さんは言います。

現在のレシピは、ほぼ当時のまま。現代風なアレンジは全く加えられていないとのことから、その完成度の高さをうかがい知ることができます。その後、「らーめんや天金」は、藤田さんの母親の経営となり、藤田さんも店を手伝うことになりました。

旭川市5条7丁目(のちに旭川市4条に移転)から始まった「らーめんや天金」は、「あさひかわラーメン村」がオープンしたのに伴い、「ラーメン村店」を開業。2013年には、藤田さんが代表取締役社長に就任したのを契機に、看板を目立つように大きくしたり、スマホ時代の到来を予測したPRでおいしさが知れ渡り、旭川を代表する人気店になりました。

豚骨と鶏ガラだけで作られた濃厚スープ

旭川ラーメンのお店の多くは、魚介や野菜を使ったダブルスープを提供していますが、「らーめんや天金」では、松太郎さんの時代から豚骨と少量の鶏ガラのみを使用し、とろ火で2日間かけて炊きだし。スープの表面に浮いた脂には、豚骨の旨味が凝縮されています。

チャーシューはブタの内もも肉を生醤油で煮込んでいます。脂が少ないもも肉が持つ素材の味を活かしたシンプルな味付けで、ラーメン全体のバランスを崩しません。残り汁はニンニクを加えて醤油ダレに。メニューには「醤油」ではなく「正油」と表示。松太郎さんの代からそう表記されていたそうです。

麺は旭川ラーメンらしく、水分が含まれる割合が低い中太の縮れ麺を使用。麺に水分が吸収されるので、スープの旨味がダイレクトに伝わってきます。

旭川ラーメンの具材はメンマ、ネギ、チャーシューとシンプル。天金を含め、旭川ラーメンのお店では、いわゆる「進化系」と呼ばれるような、オリジナリティを前面に押し出すことは少なく、基本を踏襲しながら、独自のアレンジを加えているお店が多いようです。

伝統のみならず今を大切にしている

メディアなどで「らーめんや天金」について語られる際、「昭和27年創業」や「旭川らーめんの伝統を守る」という言葉が用いられます。藤田さんはそれについて「祖父の味を踏襲しているだけですが、その味が今も受けいれられていることを嬉しく思います」と言います。

伝統継承などと重々しいものではなく「祖父の味をベースにしたラーメンを作っていると思ってくれればいい」と、どこまでも謙虚。いくらごはんや、山わさびごはんなど、お客さまのニーズに合わせたサイドメニューも取り入れています。

「ラーメンの会旭川」が100年後にも味をつなぐ

旭川では1998(平成9)年に開催された「ラーメンフェスティバル」をきっかけに、専門店23店が加盟する「ラーメンの会旭川」が誕生しました。藤田さんは副会長を務め、新規出店者のよき相談役になっています。

普段は競合していても、催しなどでは店の垣根を越えて力を合わせて旭川を盛り上げる。それが終われば個々の技術を磨き合う。足を引っ張るのではなく、まちやラーメンという文化をどのように残していくか。それが「ラーメンの会旭川」の役割です。「旭川ラーメンは、子どものころから親しんだ味。ずっと残ってほしい」。大雪地ビールの小野寺さんが願っていた通り、このような店主の集まりがある旭川ラーメンのおいしさは、100年後にも伝えられていくことでしょう。

施設情報はこちら

施設名
らーめんや天金 ラーメン村店

住所
旭川市永山11条4丁目パワーズ内

電話番号
0166-48-3918

定休日
火曜日

営業時間
11:00〜20:30(ラストオーダー20:00)

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

吉田 匡和

北海道支部 地域ナビゲーター
吉田 匡和

札幌市出身、在住。社会福祉士の資格と経験を持つ異色の「おでかけ系ライター」。2016年にフリーライターに転向し、2017年に個人事業所「ブーレオルカ」を設立しました。「楽しさが伝わる」、「すべての人に有益である」、「記憶に残る」の3つを信条に執筆しています。