長崎県新上五島町

魚食文化を育む「とったドー朝市」

2022.06.13

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、九州支部の地域ナビゲーター・中嶋芽久美さんご自身の「100年先に残したいもの」をご紹介します。それは、長崎県南松浦郡新上五島町の日島(ひのしま)で行われる「とったドー朝市 」です。

長崎県でとれる魚種は日本一

日本で最も島が多い長崎県。島々を囲む美しい海は、私たちに豊かな海の恵みを与えてくれます。県内で漁獲される魚種はなんと300種以上もあり、その中でもアジ類、タイ類、イサキ類などの魚種が全国1位の漁獲高です。(農林水産省の海面漁業生産統計調査データより)


特に、長崎県の最西端にある五島列島近海は、暖流の対馬海流と寒流のリマン海流がぶつかることで発生する大量のプランクトンを追って、多種多様な魚がたくさん集まります。この豊かな漁場に恵まれた五島列島の北部にある新上五島町では、あちこちで新鮮な極上の魚が水揚げされています。

とったドー朝市の魅力をご紹介します

みなさん、こんにちは!九州ナビゲーターの中嶋芽久美です。2021年4月、夫の転勤で長崎県の離島、新上五島町へ引っ越してきました。魚はめっちゃおいしいし、島の人は優しくてあたたかいし、美しい自然に囲まれた島での暮らしは、本物の豊かさを教えてくれる。そんな魅力あふれるこの島の人・もの・ことを、いろんな人に知ってもらい、島の豊かさを分かち合いたい!ということで、島内外へ情報を発信しています。

そんな私が、新上五島町で100年先に残したいと思うのが、日島(ひのしま)の有限会社松園水産が開催する「とったドー朝市」(以下:朝市)です。美しい海で育った新鮮でおいしい魚はもちろん、気さくな漁師さんたちとの交流や、来る人を自然に受け入れてくれるあたたかい雰囲気に元気をもらえる、この朝市でしか体験できないディープな魅力をぜひ、みなさんも味わってください!

上五島の伝統的な漁法・定置網漁

みなさん、定置網漁ってご存知ですか?海に仕掛けた大きな網に、魚が入ってくるのを待って獲る漁で、新上五島町の多くの場所で行われる伝統的な漁法です。なんとこの朝市当日の早朝に、松園水産が所有する漁船で定置網漁の体験ができるんです(*事前に要問合せ)。

早朝7時。漁船に乗って日島の沖合300mほどに仕掛けられた巨大な定置網へ行きます。水深50mにある網を漁師さんと一緒にたぐり寄せると、バシャバシャと水しぶきをあげる魚の姿が。タイ、アジ、タチウオ、水イカ、ヤリイカ、マグロ!引き上げた網に魚がたくさん入っていると「獲ったどー!」と気分が高まります。

タモと呼ばれる大きな網で次々に魚をすくい上げ、大きい魚は鮮度を保つため、すぐに締めて氷水へ。晴れの日も、雨の日も、漁師さんがこうやって魚を獲ってくれるからこそ、私たちの食卓にはおいしい魚が並ぶのだと、改めて魚を食べられることへの感謝が湧いてきます。

買った魚はその場でさばいてもらえる

午前9時ごろ。鮮魚の販売が行われるいかだの上には、水揚げされたばかりの新鮮な魚を求めてお客さんが集まります。えっ、ヤリイカ1尾200円?アジが1袋200円?その安さに驚いて思わず「うわー、すごい」と目がキョロキョロしてしまった私。深呼吸して気持ちを落ち着かせ、どの魚にしようかなと真剣に選びました。一緒に行った子どもたちも、目の前に並ぶいろんな魚を見て大興奮!そんな私たちに、漁師さんが「こいは刺身がうまかよ」「煮付けでも、焼いてでもよか」と、初めて見るような珍しい魚の食べ方なども、気さくに教えてくれました。

選んだ魚をカゴに入れて、その場で会計を済ませると、二枚おろし、三枚おろしなど、希望に合わせて目の前で魚をさばいてもらえるので、魚さばきが苦手な人も安心。普段ではなかなか経験できない漁師さんとの交流は、この朝市の魅力です。

刺身が食べ放題という奇跡

朝市で絶対に食べていただきたいのは、こちらの海鮮丼です。どんぶりに入ったすし飯の上に自分で好きなだけ刺身を盛り付けるスタイルで、1杯なんと500円!しかも、朝市で鮮魚や干物を購入したお客さんは、刺身の食べ放題(みそ汁付き)ができるという驚きの特典が。

新鮮さはもちろん、潮の流れが早く、栄養たっぷりの五島列島の海で育った魚は、身が引き締まった上に良質な脂がのっているので、そのおいしさは格別なんです。そんな魚の刺身をお腹いっぱい食べられるなんて、もう最高!

海鮮丼を食べる方へ。最初からたくさん刺身を乗せようと焦らなくても大丈夫。最初に乗せた刺身を食べてしまったら、また追加していいんです。刺身ばかり食べてごはんを少しずつでもいいんです。刺身おかわりし放題の海鮮丼、どうぞ心ゆくまでご堪能ください。

鮮度にこだわる。朝市で買う干物は極上のおいしさ

みなさん、干物は好きですか?こちらで販売される干物は、見るからに新鮮さがわかるし、焼いて食べると身がぷりっぷりとして、とってもおいしいのです。

初めて食べた時「こんなにおいしい干物、生まれて初めて」と感動し、家族や友人に送りました。「こんなきれいな干物は見たことない」「ほんとにおいしかった!私も知人に送ってあげたい」など、喜びの声が続出。そんな干物がどれも1つ500円だなんて!

「朝とれたばかりの新鮮な魚をさばいて、その日のうちにできる量だけ干物に加工しています。アジが大量に入って、今日は加工できないから明日にしようというのはない。自分たちの子どもや親戚に送るつもりで、無添加の調味料を使うなど、安心・安全なものにこだわった干物作りをしています」と、松園社長がおいしさの秘密を教えてくれました。

この朝市には、魚食文化の継承という役割もあった

今回ご紹介した朝市を開催する松園水産は、新上五島町日島で定置網漁、マグロの蓄養、水産加工を行っています。「新鮮な魚や干物のことを知ってもらい、もっと上五島を元気にしたい。そして、水産物消費の減少傾向をなんとかしたい」という思いで、2年前に始まったこの朝市。じつは、定置網漁の体験や漁師さんたちとの交流を通じて、漁業へ関心を持つきっかけとなり、魚食文化の継承に繋がる大切な役割も担っているのです。

開催は毎月第1、第3土曜日の朝9時。とれたての新鮮な魚やこだわりのおいしい干物をお買い物して、海鮮丼やおいしい刺身がお腹いっぱい食べられる、ワクワク感が満載の朝市で、楽しみながら漁業のことを身近に感じてみてはいかがでしょうか。

日島へは、長崎港から発着する船の玄関口である奈良尾港から車で約40分。西海国立公園を望む若松大橋をはじめ、上五島の美しい海や複雑な海岸線が作り出す島々の絶景を楽しめるのはもちろん、自然の壮大なパワーを感じることができます。

古来から大陸と日本を結ぶ海上交通の要所で、遣唐使の寄港地でもあった日島には、日本遺産に認定された「日島の石塔群」があります。新鮮な魚を楽しみに島内外から集まる人たちが、おいしい海鮮丼で会話をはずませ、漁師さんたちとの交流を楽しむ。そんな賑わいのある「とったドー朝市」は、今では日島と人々を繋ぐ交流の要所になっているんだなと、思わずにはいられません。

施設情報はこちら

【施設名】(有)松園水産
【住所】長崎県南松浦郡新上五島町日島郷262
【電話番号】0959-46-2600

朝市開催は毎月第1、第3土曜日 午前9時ごろから
※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

中嶋 芽久美

九州支部 新上五島ナビゲーター
中嶋 芽久美

長崎県佐世保市出身、新上五島町在住。結婚後、夫の故郷である西海市へ移住し、2017年よりライターとして、ローカルWEBサイトで地域の人・もの・コトの素晴らしさなどの情報の発信を始める。2021年4月、夫の転勤で新上五島へ。島の人とのつながりに感謝し、島でしか体験できないことを楽しんでいます。