写真提供/株式会社アグリファッショングループ 
北海道帯広市

開拓者が作り上げた人と自然共生の大地

2022.05.13

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は北海道帯広市から全国に新鮮な野菜をお届けする「十勝ガールズ農場(アグリファッショングループ)」の橋爪恒雄(はしづめ つねお)さんに「以平(イタイラ)の丘」をご紹介いただきました。

「十勝平野」を一望する実りの丘

写真提供/株式会社アグリファッショングループ 
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帯広を中心とする十勝地方は、日本有数の農業地帯。肥沃な大地では、じゃがいも、てん菜、小麦、豆類など、さまざまな作物が栽培されています。(写真は以平の丘にある甜菜〈ビート〉畑)

北海道は明治期に政府の政策により、屯田兵によって開拓されたことが知られていますが、十勝の開拓は民間人によって進められました。中でも「依田勉三(よだ べんぞう)」は開拓に大きく貢献した人物で「十勝開拓の父」と呼ばれています。

写真提供/株式会社アグリファッショングループ 
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写真は以平の丘の畑の間を抜ける道路。十勝は開拓以降、540m×540mのグリット状に道路が設置されています。

十勝農業の新たな可能性を切り開くべく、橋爪恒雄さんは、2014年4月に広大な農地が広がる帯広市大正本町で「アグリファッショングループ」を設立しました。お洒落な農業ファッションを提案するお店「ファーマーズセレクトショップ」や、自立した女性農業者をめざす新規就農を推進する「十勝ガールズ農場」の立ち上げ、「グリーンツーリズム」として食農体験メニューを実施するなど、新しい農業スタイルを生み出しています。

橋爪さんが「100年先に残したいもの」と思いを寄せるのが、十勝ガールズ農業の立ち上げを行った場所でもある「以平(イタイラ)の丘」。以平の丘は、帯広市街地から約15km南に離れた幕別町との境界付近にある、標高約200mの高台です。西には十勝平野を挟んで日高山脈の山々を、東には豊頃丘陵を望むことができます。

見慣れた光景の素晴らしさを再確認

「四季折々に美しい景観を見せてくれる丘ですが、ここに住んでいると日常になってしまいます」と橋爪さんはいいます。起伏が少なく、立体感のある写真を撮るのが難しい十勝平野において、以平の丘は平野全体を見渡せる絶好の撮影スポット。プロアマ問わずたくさんのカメラマンが訪れます。撮影に来ていたアマチュアカメラマンが放った「ここから望む景色は十勝の原風景が残されている」という言葉に、以平の丘の素晴らしさを再確認したそうです。

写真提供/株式会社アグリファッショングループ 
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「十勝平野は地平線が丸く見えるほど雄大で、自分が大地に抱かれているような感覚になります。空が高く雲の流れによって天気の変化を予測できることもあり、この場所に来ると自然の中で生きていることを強く感じられるんです」と話してくれました。

美しい景観は人と自然が共生している証

写真提供/株式会社アグリファッショングループ 
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「北海道らしい風景としてパッチワークのような丘や、どこまでも続くシラカバ並木などをイメージすることが多いですが、それは人が自然と共生している証です。ここでは、同じ土地に『畑作四品』といわれる、馬鈴薯・ビート・小麦・豆類(小豆・大豆)を年毎に順番に作付けし、病気などの連作障害を防ぐ『輪作(りんさく)』という農法を行っています。先人が築き上げた大地を守り続けるのが私たち農業従事者の役割です」と、農業に真摯に取り組む姿勢について話してくれました。

写真は、黄金色をしている場所が小麦で手前がじゃがいもの花。訪れる人からは「アニメ映画・風の谷のナウシカのワンシーンのよう」という声も聞こえてくるのだとか。

白銀の「以平の丘」で冬の息吹を感じる

冬の「以平の丘」は、夏とは異なる顔を見せてくれます。畑に一本だけ立つ「センの樹(ハリギリ)」は、十勝の名木100選に選ばれており、肥沃な土地に自生することから、開拓時代は農地開墾の適地の目印とされました。豊かな大地の象徴と呼べる、そのシンボリックな佇まいは白銀の雪と相まって、景色の美しさをより一層引き立てています。

センの樹とは逆に、シラカバは痩せた土地でも育つことができる樹木です。伐採しても焚き付けくらいにしかならないことから、開拓時代は厄介に思われていたそうですが、今や雪景色を引き立てる景色のひとつとして美しく佇んでいます。この日は雪の上に「アニマルトラッキング」と呼ばれるキタキツネの足跡が、まっすぐに続いていました。

あわせて散策したいスポット「幸福駅」

丘の周辺を散策してみましょう。近くにある幸福駅は「以平の丘近郊でもっとも観光客が訪れる観光スポットです」と橋爪さんはいいます。旧国鉄広尾線の駅として1956年に開業しました。この駅が注目されたのは1970年代のこと。「愛の国から幸福へ」のキャッチコピーとともに、現在は交通記念館として親しまれる愛国駅から幸福駅のキップが縁起物とされ、爆発的なブームを巻き起こしました。

かつてこの周辺はアイヌ語で「乾いた川」を意味する「サツナイ」と呼ばれていました。開拓時代に福井県大野の人が入植し、漢字の「幸震」を充てましたが、難読名のため次第に「こうしん」と呼ばれるようになりました。

広尾線の駅が開設される際、幸震「幸」の字と、入植者の出身地である福井の「福」から一字ずつ取って「幸福」と命名。その後、公共放送の番組で紹介されたことから知名度は全国区に。1970年代に一大ブームが巻き起こり、畑の中の小さな駅に観光客が押し寄せるようになりました。1987年2月に広尾線が廃止されたあとは公園として整備されています。

幸福のシンボルとして、この地を訪れた人にそれぞれの「幸福」に向って歩んで行って欲しいという願いを込めて「幸福駅発」というキャッチコピーを掲げているそう。なんとも縁起がいいスポットなので、以平の丘に行く際は足を運んでみてはいかがでしょうか。

人は大地のひとかけら

「ここからの展望は先人が切り開き、後世が守り続けたもの。人と自然の共生の象徴です」と橋爪さんは言います。橋爪さんは、農業者として就農したときに以平の丘の雄大な大地に感動したのだそう。その景色の素晴らしさしかり、厳しい環境さえも楽しさに変えてしまう「開拓者スピリッツ」は、100年後にも受け継がれていくことでしょう。

施設情報はこちら

施設名
以平地区(以平の丘)

住所
北海道帯広市以平町


電話番号
なし

定休日
なし

営業時間
なし


※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

吉田 匡和

北海道支部 地域ナビゲーター
吉田 匡和

札幌市出身、在住。社会福祉士の資格と経験を持つ異色の「おでかけ系ライター」。2016年にフリーライターに転向し、2017年に個人事業所「ブーレオルカ」を設立しました。「楽しさが伝わる」、「すべての人に有益である」、「記憶に残る」の3つを信条に執筆しています。