北海道

都会の近くに豊かな自然「旭山記念公園」

2022.03.15

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。今回は、北海道札幌市にあるHAPSEED株式会社の人気商品「北海道贅沢パフェアイス」の製造を担う樋口新人(ひぐち あらと)さんから「旭山記念公園」をご紹介いただきました。

石狩平野を一望する絶景スポット

旭山記念公園は、札幌市創建100周年を記念して1970年に開園しました。標高137.5mからの展望は、前方にビル群、後方に石狩平野や日本海が広がり、自然と都会が調和する都市・札幌を象徴する光景が楽しめます。夜は噴水がライトアップされ、その向こうにまばゆく輝く「190万人都市・札幌」の夜景。札幌市の中心部から車で約20分とアクセスもよく、昼はファミリー、夜はカップルに人気のスポットです。

今回、100年先に残したいものとして旭山記念公園を紹介してくれたのは、樋口新人(ひぐち あらと)さん。札幌市にあるHAPSEED株式会社の人気商品「北海道贅沢パフェアイス」の製造を担う樋口さんは、札幌生まれの札幌育ち。旭山記念公園は子どものころの遊び場で、幼い日の思い出と切り離すことができない場所だと言います。「都会に近いにも関わらず、豊かな自然が残されている貴重なスポットとして、100年後に残していきたい」と推薦してくれました。

5つの市民団体が自然の素晴らしさを発信

旭山記念公園は、札幌市中心部から車で約20分と近く、密集した住宅が途切れた先の山頂にあります。約20haの広大な園には、開園にあたりシラカバ、ナナカマド、ヤマモミジなど2千本以上が植樹されているほか、原生林も残されています。園内は起伏に富んでおり、2㎞以上の散策路が整備され、自然歩道は「藻岩山(もいわやま)ルート」に通じており、クマよけの鈴を付けた登山者も利用。エゾシカ、キタキツネ、エゾタヌキもときどき出没するなど、野生と隣り合わせの環境が人々を惹きつけています。

かつて旭山は所有者の名前から「吉野山」と呼ばれ、牧場として利用されていました。1922年に民間企業に売却されて温泉が開業。1930年に当時の北海道拓殖銀行の所有となり、1946年に札幌市に寄付されました。しばらくの間、温泉やスキー場として利用されていましたが、1966年に市民記念植樹が始まり、翌年に都市計画が決定します。

その後、2001年に再生事業が始まり、基本設計、自然環境調査、市民参加による計画・ワークショップなどを行いながら再整備されました。2006年には再整備のワークショップをきっかけに市民団体が誕生。公園内に設置された市民活動拠点「森の家」を中心に5つの団体が活動しています。

自然と子どもたちをつなぐ旭山自然調査隊

市民団体の一つが、「旭山の豊かな自然を残したい」と、地域の子どもたちが結成した「旭山自然調査隊」。豊かな自然環境を生かした生きもの観察を行い、子どもたちの好奇心や探求心を引き出す自然体験プログラム「森のたんけん隊」もその活動のひとつです。

右から旭山自然調査隊の代表を務める髙橋 靜(しずか)さん、旭山公園キッズの長村薫(かおる)さん、自然環境保護を啓発する「札幌森と人の会」の皆川昌人(まさひと)さん、旭山の市民活動を支援する(公財)札幌市公園緑化協会の岡田宗之(むねゆき)さんの4人に話を伺いました。

「森のたんけん隊」が始まったのは2016年のこと。最初は子どもたちの要望を受けて観察会を行っていましたが、現在は外部講師を招き年間プログラムを実施しています。今は、未就学から中学生まで地域に住んでいる子どもたちやその保護者ら約40名が登録。髙橋さんは、お子さんが初代・旭山自然調査隊隊長で「お世話になった公園のために何か恩返しができれば」と代表になりました。長村さんもお子さんを通じて旭山の自然に魅せられた一人です。

「旭山記念公園は、都会にありながら山奥のような体験ができる貴重な場所です」と長村さんは言います。自然の魅力を雄弁に語ってくれる旭山は、子どもたちにとって、よき師であり、友であるのでしょう。

探究心あふれる「森のたんけん隊」の活動

髙橋さんが「本日の森のたんけん隊は、植樹(2016年に昆虫の餌になるよう植えられたもの)の周りを雑草が覆わないように、森の家の正面の斜面に通り道を作りました」といって現地に案内してくれました。歩きやすいように土を掘って丸太を埋め込み、足場を築いたそうですが、簡単な作業でないことは一目瞭然です。

木を利用した秘密基地も作ったそうです。太い幹に葉っぱのついた枝を寄りかけて屋根代わりにしています。作業中に小雨が降りだし、子どもたちはさっそく基地に避難。旭山は冒険心を満たしてくれる、夢のフィールドなのです。

参加していた小学生に話と聞くと、友達の紹介で去年から「旭山自然調査隊」に入隊しているとのこと。「家でゲームをしているよりも自然の中で遊ぶのが楽しい」と言います。これまでで一番の発見をたずねると「円山川(まるやまがわ)の源流でアメマスを発見した時は興奮した」と目を輝かせます。旭山記念公園の周りには人が入り込むことが少ない森林があり、円山川はその中を流れる小さな川です。

アメマスは、イワナ属に分類される魚。河川で孵化し、そこで2〜3年過ごしたのちに、海に出て大きく育つと考えられています。「先生は、海から戻ってきたんじゃないかと言っていましたが、海から上流までの間に砂防ダムがいくつもあるので、それをどうやって超えたのか不思議です。もしかしたら川で成長したのかもしれませんが、小川でも育つのかな」と、興味は尽きないようです。

自然の知識を知ることで散策がより楽しくなる

旭山記念公園では、一年を通してさまざまな野鳥を観察することができます。皆川さんにバードウォッチングを楽しむコツを伺いました。

「散策路を歩いていると、野鳥の声が森の中に響き渡っています。深い緑で覆われる夏よりも、葉っぱが落ちる秋から冬が発見しやすいです。一年を通して見られるのは、ゴジュウカラ、シジュウカラ、ハシブトガラ。夏はメジロやモズ、冬はツグミやカケスなど、季節によって姿を見せてくれる野鳥もいます」。野鳥を見つけるためには、鳴き声や音がする方向をじっと見つめ、葉っぱの切れ目などから姿を確認したり、どのような枝に止まるか知っていると見つけやすいそうです。

自然を残すために大人がすべきことが問われている

取材が終わり、散策路を歩いていると「ツーピーツーピー」という声が聞こえてきました。姿は見えませんが、この鳴き声はシジュウカラです。自然に対する知識が多くなれば、より散策が楽しくなることがわかりました。

「札幌市中心部にありながら、たくさんの野鳥や昆虫が生息する市民憩いの場です」と推薦者の樋口さん。みんなで訪れた遠足をはじめ、子供の頃の思い出に旭山記念公園は必ず登場するのだそうです。今の子どもたちはもちろん、未来の子どもたちにとっても、心に残る場所であってほしい。

森のたんけん隊を主催する髙橋さんは「地球温暖化によって100年後の旭山の自然は様変わりしているでしょう。でもいつの日も旭山が【自然と人が】【人と人が】つながるところであってほしい」と言います。活動に参加している子どもたちが大人になり、「かつては魚が泳いでいた」、「かつては野鳥の声が聞こえていた」などと、過去形で語られないよう、大人たちが率先して地球環境について真剣に考えたいものですね。

施設情報はこちら

施設名
旭山記念公園

住所
札幌市中央区界川4丁目

電話番号
011-200-0311(年末年始を除く、金・土・日曜、祝日の10:00〜16:00)

定休日
なし

営業時間
なし。駐車場は6:00〜22:00に開放


※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

吉田 匡和

北海道支部 地域ナビゲーター
吉田 匡和

札幌市出身、在住。社会福祉士の資格と経験を持つ異色の「おでかけ系ライター」。2016年にフリーライターに転向し、2017年に個人事業所「ブーレオルカ」を設立しました。「楽しさが伝わる」、「すべての人に有益である」、「記憶に残る」の3つを信条に執筆しています。