福岡県福岡市

博多を肌で感じて食す郷土の味「もつ鍋」

2022.03.09

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。今回スポットをご紹介いただいたのは、福岡県福岡市の人気もつ鍋店「一藤(いちふじ)」博多店の店長・津上大さんです。

豊かな食文化がまちの自慢!福岡県福岡市

九州最大の都市・福岡市。福岡城の外堀を利用して作られた大濠公園や博多湾が一望できる福岡タワーなどがあり、一年を通して多くの観光客が訪れています。そんな福岡市の観光で外せないのが、福岡グルメ。博多豚骨ラーメンに明太子、水炊き、博多うどん、玄界灘の海の幸…1日2日の観光では食べきれないほど、多様な名物料理が並びます。

「博多は何を食べてもうまか!」と豪語する博多っ子は珍しくなく、暮らしてみるとその食の豊かさには惚れ惚れするばかり。今回ご紹介する「もつ鍋」も、そんな福岡グルメを語るうえで欠かせない名物料理です。

福岡グルメを代表する郷土の味「もつ鍋」を100年先にも

100年先に残したいものとして「もつ鍋」を挙げてくれたのは、福岡市の人気もつ鍋店「一藤(いちふじ)」博多店の店長・津上大(つがみ ひろし)さん。「もつ鍋は福岡の郷土料理のひとつ。福岡を訪れたならぜひ味わっていただきたいです」と話します。

「県外から訪れた人をおもてなしする際に、もつ鍋を食べてほしいとお店を予約する福岡の方も多くいらっしゃるんです」。福岡市民にとっては、おもてなし料理としても重宝されているもつ鍋。筆者も福岡に引っ越したばかりの頃、知人や友人、仕事相手の皆さんがもつ鍋を食べに連れて行ってくれたことを思い出します。友人や家族、仕事仲間と仲を深めたいとき、誘ってみるのがもつ鍋なのかも。そんな福岡グルメを代表するもつ鍋の歴史や魅力を、津上さんに詳しく教えてもらいました。

もとは「放るもん」から生まれ、全国区に

写真提供/一藤
写真提供/一藤

もつ鍋の主役といえば、ホルモンと呼ばれる牛の内臓(もつ)です。「ホルモンとは、関西弁で「放(ほう)るもん」と呼ばれ、もともとは捨てられる部位だったのだそう。その分、安く手に入るので、戦後にホルモンを食べるようになったと言われているんです」と津上さん。「現在のもつ鍋は牛ホルモンを使用していますが、当時は豚ホルモンが主流。特有の臭みを和らげるために、ニラやニンニクといった香りがある食材を加えたのではないでしょうか」と話します。

もつ鍋は、戦後の食糧難の時代をたくましく生きる人々によって生まれたのがはじまりだったのですね。その後、生活が豊かになるにつれ、キャベツや締めのちゃんぽん麺などが加わっていき、今の博多もつ鍋が完成したといわれています。さらに、バブルが崩壊した1990年代後半には、安くてボリュームがあり、さらにアルコールにも合うと東京でもつ鍋ブームが到来!博多もつ鍋は、一気に全国へと名を馳せ、今や福岡を代表するグルメとなりました。

ホルモンやスープ、具材の種類で個性を発揮!

写真提供/一藤
写真提供/一藤

もつ鍋の定番具材は、前述した通り、牛ホルモンにキャベツ、ニラ、ニンニクを中心に野菜が入ります。コンニャクや厚揚げが入るお店も。いくつか種類があるスープは、醤油と味噌が定番になります。昔ながらの味を求めるならあっさりした醤油スープですが、近年の人気は味噌スープです。「味噌の種類やブレンドが違うので、お店ごとの個性が楽しめるんですよ。味噌スープは家庭で再現するのはかなり難しいと思うので、ぜひ福岡のお店で食べて欲しいです」と津上さんはにっこり。

さらにホルモンも臭みが少なく食べやすい牛小腸のみを使う店もあれば、ゼンマイ、ハチノスなどさまざまな部位が混ざったミックスホルモンを使う店もあり、その違いもまたもつ鍋の魅力といえるでしょう。

ふわふわ、とろり。とろけるホルモンがたまらない一藤のもつ鍋

写真提供/一藤
写真提供/一藤

一藤のもつ鍋は、国産黒毛和牛の牛小腸のみを使います。ホルモンを食べる時、硬い部分が口の中に残り飲み込むタイミングが分からなくなったという経験がある方もいるのでは。でも一藤では薄皮を丁寧にむくことで、ホルモンはふわふわ食感に。その一手間のおかげで、口の中であまい脂が広がるようにとろけていきます。

写真提供/一藤
写真提供/一藤

スープのおすすめは味噌。注文が入ってから、ひと鍋ごとにベースとなるスープを入れ、具材を加えて火を通し、提供する直前に丁寧に裏ごししたオリジナルブレンドの味噌をとかします。そのため、味噌の香りや風味が飛ぶことなく、生きたまま目の前に。

素材のうま味があふれ出た濃厚スープをまずは一口含むと、ニンニクの香りが鼻に抜けて、食欲に火が付きエンジンは全開!甘い脂をまとったふるりと震えるホルモンに、甘いキャベツ、ほのかに歯応えが残るニラ…。はふはふと湯気をはきながら、鍋を囲む至福のひとときです。とはいえ、勢い余ってすべてを食べ切らないようにご注意を。スープを残したまま、お楽しみの〆の時間です。

写真提供/一藤
写真提供/一藤

雑炊も選べますが、ここは津上さん一押しのチャンポン麺をチョイス。うま味が凝縮したとろりとしたスープがしっかりと麺に絡み、〆だというのに軽く食べ終わります。

「観光のお客さまは、多過ぎるといけないからと、4人グループで3人分しか頼まないという方もいるのですが、結局、追加注文する方が多いんです(笑)」。一藤ではひと鍋ごとに計算し具材やスープを配合しているので、具材をあとから追加するとどうしても味が変わってしまうそう。こってりしたイメージのあるもつ鍋ですが、野菜がたっぷりで想像よりペロリと食べ切ってしまえるので、はじめから人数分注文するのがおすすめです。

福岡を訪れ、味わうもつ鍋を大切にしたい

写真提供/一藤
写真提供/一藤

福岡で生まれたもつ鍋ですが、今ではもつ鍋を提供する店は全国にあり、福岡以外に住む方もご近所で食べたことがある、市販のスープのもとで自宅で楽しんだことがあるという方も多くいると思います。しかし、「一藤は全国展開をする予定はないんです」と津上さんはその思いを口にします。

「もつ鍋は、博多ならではの食文化。その土地を訪れて、味わうからこそ感じるものがあるはずです。僕たちは、福岡でしか食べられない味を100年先まで伝えていきたい。ぜひ、福岡を訪れてもつ鍋を味わっていただきたいですね」。旅先の空気を肌で感じてからこそ食べるご当地の味は、旅の醍醐味!もつ鍋を囲む博多の夜は、忘れられない旅のワンシーンとなりそうです。

施設情報はこちら

施設名
もつ鍋 一藤 博多店

住所
福岡市博多区博多駅前2-4-16

電話番号
092-451-7888

営業時間
日〜木曜 17:00〜23:30、金・土曜・三連休中日 17:00〜24:00 ※予約がおすすめ

休業日
不定休(年3〜4回)、12月31日、1月1日

※博多店のほか、「今泉本店」「天神西通り店/別邸店」あり

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

戸田 千文

九州支部 紙とWEBの編集ライター
戸田 千文

愛媛県出身、広島、東京での暮らしを経て、福岡で暮らすフリー編集ライターです。各地を転々としたおかげで、ローカルのおいしいモノ・楽しいコトに興味深々!
食いしん坊代表として、特にご当地グルメと地酒は無限の可能性を秘めていると感じます(笑)。首都圏と地方を結ぶ架け橋となるような仕事をしたいと奮闘中です。