高知県南国市

希少な鶏の魅力を伝える「長尾鶏センター」

2022.04.22

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、高知県南国市にある西島園芸団地・杉本史子さんの「100年先に残したいもの」をご紹介します。それは、国の特別天然記念物にも指定されている希少な鶏「土佐のオナガドリ」を展示している「長尾鶏センター」です。優雅で美しく長い尾を持つ鶏に会ってきました。

大きな土佐のオナガドリの壁画が目印!

訪れたのは、高知龍馬空港から国道55号を西へ、車で10分の場所にある高知県南国市の「長尾鶏(おながどり)センター」。真っ白い建物に描かれた長い尾の鶏の壁画が目立つ建物です。今から50年ほど前にオープンし、開通したばかりの南国バイパスのランドマークとして親しまれ、近年ではセンターから北へ伸びる道を「おなが通り」と命名されるほど地域から愛される存在です。

長尾鶏の現在の正式名称は「土佐のオナガドリ」ですが、元々は「オナガドリ」と呼ばれていました。野鳥であるオナガという鳥がすでに存在していたため、長尾鶏と書いてオナガドリと呼ぶようになり、国の特別天然記念物に認定となった際に「土佐のオナガドリ」と登録したそうです。

美しい尾を持つ鶏を多くの人に知ってもらいたい

今回100年先に残したいものとして「長尾鶏センター」を紹介してくれたのは、2021年に開園50周年を迎えた観光果樹園・西島園芸団地の広報を担当する杉本史子さん。こちらは、メロン、イチゴ、マンゴーにトマトなど旬のフルーツが一年中楽しめるほか、果物狩りなどの体験メニューもある観光農園です。

「小学生のころ、校外学習で長尾鶏センターを訪れ、土佐のオナガドリのキレイな長い尾が印象的だったことを覚えています。高知県内だけでなく、もっと多くの人にも知ってもらいたい」と推薦していただきました。杉本さん自身も、県外から友人が遊びに来た際はこちらを案内しているそうです。

創立者の父の意思を継ぎ、大切に育てられている土佐のオナガドリ

館内で出迎えてくれたのは、案内人の後藤道子さんと看板猫ももちゃん。開業当初からの喫茶店も併設されていて、コーヒーを提供しています。長尾鶏センターは後藤さんの父・窪田正(くぼたまさし)さんが建てたもので、創業当時の様子がわかる写真や掲載誌のほか、明治から昭和初期にかけての家財道具なども展示。祖父から飼育を引き継いだ当初は家の軒下で飼育していたものの、もっと多くの人に土佐のオナガドリを見てもらえる施設を建てたいことと、ちょうど南国市に大きな国道が開通するタイミングだったことから現在の場所に建設を決めたそうです。

「昔は南国市内でももっとたくさんの人が飼っていたけど、デリケートな鶏でお世話も難しく、飼育する人もどんどん減ってきて今は数えるほどになってしまいました。このセンターで一般の人に見ていただきたく、歴史のことも知ってもらえたら」とお話ししてくれました。

いざ、土佐のオナガドリが待つ展示室へ

喫茶店の奥へ進むともうひとつ建物があり、広い部屋には何やらタンスのような大きな木箱が並んでいます。土佐のオナガドリはどこかな~と一般的な鶏舎を想像していた私は、「この箱の中で土佐のオナガドリを飼育しています」という言葉にビックリ!「開けてみましょう」と細長い戸を開けてもらって2度ビックリ!

名前の通りの長い尾をもつ「土佐のオナガドリ」

木箱の中にいたのは長~い尾をキレイに垂らした一羽の鶏。真っ黒な羽と白い羽がふさ~と流れて床を這う様子は不死鳥のような美しさがあり、思わず「キレ〜イ」と言葉が漏れました。

尻尾と体の横から伸びる蓑毛(みのげ)が生きている限り延々と伸びるため、抜け落ちたり踏んで抜けない限りはどこまでも長くなっていくと後藤さん。写真を撮らせてもらった鶏は4mの長さがあり、これでも相当長いなと思いましたが、18歳まで生きて13.5mまで毛を伸ばした鶏もいたそうです。

土佐のオナガドリは飼育方法も独特

通常、鶏は鶏舎でたくさん飼われていますが、土佐のオナガドリの場合は一羽につきひとつ、「止め箱」と言われる木の箱が用意されます。高さ180cm、幅80cm、奥行きは24cmほどで、中で鶏が過ごすスペースのほか、餌箱とフンがたまる場所を作り、羽がキレイに伸ばせて人間が世話をしやすいようにと設計されています。この細長いハコの中に一生いるわけではなく、気候が穏やかな日は30〜40分くらいストレスを溜めないように散歩をします。昔は民家の雨戸を利用して飼育箱を作っていたそうです。

土佐のオナガドリの始まりは200年ほど前

展示室には抜けた尾や蓑毛が、土佐のオナガドリにまつわる資料とともにたくさん並んでいます。土佐のオナガドリは元々、江戸時代の長岡郡大篠村(現在の南国市篠原)で髪結を営んでいた武市利右衛門(たけちりえもん)という人物が、本業の傍ら趣味として鶏を数羽飼っていた中にたまたま1羽普通の鶏より少し長いしっぽのある鶏がいたのでその鶏に色々な鶏を交配し作り上げたのが始まり。なんとかして満足のいく尾羽を持った鶏を誕生させたいと交配を重ねる中で、突然変異で生まれたのがきっかけだそう。

その美しさに魅了された人々が少ない数を交配しながら数を増やし、飼育をしたことで品種が受け継がれてきました。戦争などにより一時は絶滅の一歩手前まで激減しましたが、1952年に国の特別天然記念物に指定され、少数ながら繁殖を続けています。長尾鶏センターでは、10羽の展示のほか、繁殖をする場所を別に設けて飼育を続けているそうです。

かつてはイベントにも引っ張りだこ

部屋の一角に置いてある長い木の箱を見ていると、「これは昭和になって、イベント会場等へ移送するときに使われていた箱です。頭・胴体・しっぽと3つに分けて入れる箱」と話してくれました。飼育方法しかり、ケージまでもが特別なんですね。

まだJRが国鉄だった頃、一日高知駅長に任命されたり、各地のイベントに呼ばれてはお披露目したりしていたそうで、当時の写真や新聞なども数多く残っています。

手間暇かけて大事に育てています

現在は鳥インフルエンザやCOVID-19の影響でなかなか外に出るのは難しいですが、本来は晴れていて風のない日は1羽ずつ庭に出してお散歩したり、来館者と一緒に記念撮影したりもしているそうです。取材時は風が出ていたため撮影できませんでしたが、後日元気に庭を歩く長尾鶏の写真を送っていただきました。夜明けとともに体調チェックをして、掃除、餌やりと一羽一羽に愛情を込めて育てている土佐のオナガドリ。
 
紹介者の杉本さんの「キレイで長い尾が印象的だった」という言葉通り、優雅で美しい姿にうっとりすること間違いなしです。高知を訪れた際はぜひ、長尾鶏センターに立ち寄ってみてください。その美しさと南国市の歴史にも触れることができますよ。

施設情報はこちら

施設名
長尾鶏センター
住所
高知県南国市篠原48
電話番号
088-864-4931
定休日
木曜
営業時間
3~10月は9:00~17:00
11月~2月は9:00~16:00

地域ナビゲーター

川崎 萌

四国支部 マルチフォトライター
川崎 萌

高知県いの町在住。おいしいものを追いかけ、絶景スポットを巡りながら、地元・いの町を中心に高知県の情報発信のお手伝いをしています。専門的なお話や自分の感じたことを、初めて記事に触れる人に分かりやすく伝えることを大切にして取材をしています。