愛知県大府市

“金メダルのまち”で愛される金ちゃん焼き

2021.12.07

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。今回スポットをご紹介いただいたのは、愛知県内でオーダースーツ清雅屋を営む代表・加瀬康隆さんです。

“金メダルのまち共和”でまちおこしをスタート

レスリング日本代表の吉田沙保里選手をはじめ、数多くの金メダリストを育ててきた愛知県大府市共和町。名古屋から電車に揺られて20分、JR共和駅に降り立つと「金メダルのまち共和」という金色に輝くモニュメントが目に飛び込んできます。

数多くのスポーツ選手が必勝祈願の絵馬を奉納する八ツ屋神明社(通称:金メダル神社)や、オリンピック金メダリストと指導者の手形のモニュメント「ゴールドポケットパーク」なども、人気のパワースポットです。

長年地元で愛される味を100年先も残したい

そんな大府市共和町で、2021年春までオーダースーツ清雅屋を営んでいたのが加瀬康隆さんです。現在は愛知県内の別の場所に移転オープンしたものの、思い入れのある大府市で「100年先に残したいもの」を伺ったところ、「天麩羅 以和世(いわせ)の金ちゃん焼き」と教えてくれました。

天麩羅 以和世は、清雅屋の店舗と同じビルに入っていたこともあって、仕事終わりや地元の人たちでよく食事に来ていたという加瀬さん。「以和世さんは天ぷらがおいしくて。もちろん、何を注文してもおいしいんですけどね。しめに食べる“金ちゃん焼き”がまた最高!この先もずっと残ってほしい味です」。「金ちゃん焼き」ってどんな食べ物なんでしょう?初めて聞く名前に興味がわいてきました。

共和駅前に開業して半世紀以上も続く店

天麩羅 以和世は、JR共和駅から徒歩数分の場所にあります。昭和レトロな味わい深い看板と大将の岩瀬勝治(いわせ しょうじ)さんが出迎えてくれました。岩瀬さんは、名古屋や大阪で料理の修業をして、1970年にここで開業。「金ちゃん焼き」について、伺ってみました。「金ちゃん焼きの前に、まずはうちの天ぷらを食べてください」。そう言って、岩瀬さんは大きな鍋に火をかけました。

天麩羅 以和世の自慢料理は、店名の通り「天ぷら」。大将の岩瀬さんは料理人の修業をはじめたときに、まずは天ぷらの腕を磨いたのだそう。名古屋の料亭で修業をし、その後は大阪でふぐ料理を学んでいたところ、料理人の師匠から共和駅前の開業をすすめられたそうです。

岩瀬さんは愛知県の三河地域出身、大府市は縁もゆかりもない土地です。「開業資金はほとんどなかったけど、仕入れ先や料理人仲間、地元の人たちがみんないい人たちばかりでね。私は恵まれていたんですよ」。そんな思い出話を語ってくれる間に、おいしそうな天ぷらが揚がりました。

毎日、お店で出す食材は市場へ仕入れに行き、魚をはじめ、春は山菜、秋はキノコなど、旬のものを出すのがこだわり。揚げたものから1つ1つ順番に出してくれる天ぷらは、熱々でサクサク!

たらふく飲んで食べた後にもぺろりといける

天ぷらを食べたあとはいよいよ金ちゃん焼き作りがスタート!一見、卵かけご飯に見えるこの写真、実は金ちゃん焼きの材料です。早速作ってもらいましょう。

金ちゃん焼きが生まれたのは、今から20年ほど前。当時、残っていた冷や飯をどうにか活用できないかと、卵かけご飯にしたものを焼いてお客さんに出したのが始まりだとか。「常連さんはたらふく飲んで食べた後に金ちゃん焼きを1人1つぺろりと食べるんです」とうれしそうに話す岩瀬さん。天ぷらの盛り合わせでも十分ボリュームがあるのに、さらに飲んで食べて、そして最後にいただく定番のメニュー!これは食べる前から期待が高まります。

材料はシンプル、でも焼き方にはコツがある

金ちゃん焼きの材料は温めたご飯と卵、ネギが少々、味付けは醤油といたってシンプル。まずは、卵の黄身だけを使ってふっくらとかき混ぜ、白身を少しずつ入れて硬さを調整します。柔らかめがいい人は白身を多めに、固めがいい人は黄身を多めにするのだそうです。

次に、熱したフライパンに油をそそぎ、卵かけご飯を入れてジュワ〜っと表面が焼けたらひっくり返してできあがり。でも、このひっくり返す動きが職人技なんです!もちろん、フライパン返しは使いません。手首の動きでサッと金ちゃん焼きが宙を舞い、キレイな焼き目が見えたのは一瞬のできごとでした。

お皿に盛り付けられた見た目は、まさに大きな金メダル。さっそくいただきましょう。

外はサクッ、中はフワッ。醤油のうまみが口いっぱいに!

スプーンですくってみると、外はサクっ、中はフワッと半熟の卵かけご飯。ひとくち食べると、口いっぱいに醤油のうまみが広がり、ネギのシャキシャキとした歯応えが食欲をそそります。

常連さんの中には、金ちゃん焼きに納豆を入れたり、カレーをかけたりして変わり種で食べてる方もいるそう。こんなに大きい卵かけご飯焼きを1人で食べ切れるか心配していたものの、あまりのおいしさにぺろりと平らげてしまいました。

「はい。これは金ちゃん焼きを食べた人にプレゼント」。そう手渡してくれたのは大きな金メダルのポケットティッシュ。実はこれ、共和商業協同組合がオリンピックを盛り上げるためにしているまちおこしの1つなんです。近年、レスリングや柔道など、この地にゆかりのあるスポーツ選手の活躍が目覚ましい「金メダルのまち共和」。頑張っている選手たちに自分たちも何か応援できないかと、共和商業協同組合に加盟する商店などが、金メダルにちなんだメニューや商品を販売するようになりました。

もともとメニューとしてあった卵かけご飯焼きを「見た目が金メダルみたいだから、『金ちゃん焼き』に改名してはどうだろうか」と常連さんたちに相談したところ「いいね!」と賛同を得たのだそうです。こうして、お店の人気メニューがさらに地元の人たちに愛される1品へと変わったのでした。

店主の人柄にひかれて全国からこの地に集まる

メニューが書かれたホワイトボードを見ると、数えきれないくらいの料理名がずらり。「お客さんの要望に応えたくて、メニューに書いてないものも多いんです」と岩瀬さん。お客さんがカレーを食べたい、麻婆ナスが食べたいと言えばその場で出しているのだそうです。「半世紀以上も店を続けてこれたのは、お客さんや地元の人たちのご縁に恵まれたからです」。岩瀬さんらしいエピソードですね。

時代とともに建物や道ゆく人の姿も新しく変わる共和駅前に、半世紀以上も変わらず地元の人たちに愛され続ける天麩羅 以和世。まちの人たちの胃袋とリクエストを満たしてきた岩瀬さんが作る「金ちゃん焼き」。これからも以和世の名物として、まちの名物として愛されることでしょう。そして今宵も、岩瀬さんはお客さんがたらふく食べて飲んだ締めに、名物「金ちゃん焼き」を提供しています。

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施設名
天麩羅 以和世

住所 
〒474-0061 愛知県大府市共和町2丁目15−4

電話番号
0562-46-6366

営業時間 
16:30〜22:00、日曜日は12:00〜14:00 16:30〜22:00

定休日
火曜日、水曜日


※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

小澤 志穂

中部地方 地域ナビゲーター
小澤 志穂

愛知県豊橋市生まれ・在住。趣味の旅行をきっかけにライターとして東海地域のおもしろさを発信しています。ガイドブックには載っていない、ローカルなグルメや絶景スポットを訪れるたびに「また行きたい」とその町の良さを再発見します。そんな地域の魅力をお伝えしていきたいです。