北海道旭川市

懐かしくて新しい喫茶店「珈琲亭ちろる」

2021.09.24

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。今回は、株式会社カンディハウスの柏木知香さんの、旭川市の「100年先に残したいもの」、「珈琲亭ちろる」です。

世界に名を馳せる、高品質なものづくり

日本には「五大家具産地」と呼ばれる地域がありますが、ご紹介するスポットがある北海道旭川市も、明治時代から木工の歴史が紡がれる産地の一つ。材の保管に適した気候であったことや、腕のよい職人が本州から召集されたことなどを契機に木工業が発展し、品質の高い「旭川家具」ブランドとして現在も国内外の人々の注目を集めています。

そんな旭川の「100年先も残したい場所」を語ってくれたのは、旭川家具をリードするメーカー「カンディハウス」で、日々お客さまの要望に添った住環境の提案に励む本社営業部の柏木さん。高品質で心地よいものづくりを50年以上続ける企業の一員として残したい場所を尋ねました。

家具メーカーが残したい「喫茶店」

柏木さんが選ぶのは、旭川で最も古くからある喫茶店「珈琲亭ちろる」。旭川市出身の小説家・故 三浦綾子氏の代表作「氷点」を読んだことがある方なら、文中に登場するお店としてご存知の方も多いのではないでしょうか。

「学生の頃、三浦綾子さんの小説をたくさん読んでいました。もう何十年も前の作品ですが、『ちろる』さんに行くと作品に描かれている当時の情景が感じられます。また、お店に置かれているチェアが当社で30年近く前に作られた製品で、自分の所属する会社が小説の舞台の一部に関わっているということにも感銘を受けました」と、柏木さん。そんな喫茶店の魅力を深く味わうべく、実際に足を運びました。

旭川最古の喫茶店「珈琲亭ちろる」

「珈琲亭ちろる」は、人通りの多い駅前の「旭川平和通買物公園」から3・4仲通に入るとその姿を見せます。1939年に創業され2代にわたり続いたお店は、一度その物語に幕を下ろしました。しかし、惜しむ声があがったことやさまざまなご縁も重なり、2011年9月に建物と店名を引き継ぐ形で再オープン。今もなお人々に愛され続け、ゆったりとした趣のある空間で訪れる人を癒やしています。

一歩足を踏み入れると、初めて訪れた方でも思わず懐かしさを感じてしまうような温かい空気感が漂います。「今までも、そしてこれからも“在る”。それを大前提にお店をやっています」と語ってくれたのは、再オープン当初からマネージャーを務める宮崎 慶太郎(みやざき けいたろう)さん。

「長い歴史がある分背負うものも大きいですが、『30年ぶりに旭川に帰ってきたけれど、このお店が開いていてよかった』『これからも頑張ってくださいね』など声をかけていただくことも多いので、身が引き締まりますし、とても励みになっています」との言葉から、長い年月をかけて続けていくことに対する重みと感謝の気持ちがこちらにまで伝わります。

おいしさを追求した「自家焙煎コーヒー」

そんなちろるの魅力の一つは、なんといっても焙煎機を使用した「自家焙煎コーヒー」。さまざまな厳しい基準で客観的な評価を受けた「スペシャルティーコーヒー」の豆のみを採用、それぞれの豆の状態に合わせて「浅煎り・中煎り・深煎り」の3つの焙煎度合いを用意しています。「人によって好みは異なり、また好みや気分がいつも同じとは限らない」コーヒーを飲むお客さまのことを想像し寄り添う工夫に、とても心が温まりました。

コーヒーは、一杯一杯丁寧にハンドドリップで淹れるのがちろるのスタイル。注文が入ると、豆を挽く音とともにコーヒーの香りがふわっと店内に広がります。北海道黒松内(くろまつない)にある湧水を使用し、「滑らかな口当たりが実現できる」というコーヒー愛好家も多いネル(布)フィルターで抽出。

「ネルだと紙特有の雑味が出ず、きれいな味が出せるんです。使い捨てするものではないので洗ったり保存するにも一手間かかりますが、おいしいものを提供するのにあまりそこは気にならないですし、自分で『やる』と決めたので」と笑う宮崎さん。お話を聞けば聞くほど細部へのこだわりが露わになり、どんどん惹き込まれていきます。

朝の時間を豊かにする「モーニングセット」

お話を伺いながらいただいたのは、朝の時間に訪れた人だけが楽しむことのできる特別感たっぷりの「モーニングセット」。お好きな煎り度合いの「ちろるブレンド」に、北海道産小麦を使用したホテルブレッド、隣町比布町(ぴっぷちょう)にある「かっぱの健卵」のゆで卵、よつ葉のバター、そして国内のホテルやレストランでも高い評価を得ている、150年以上続くオーストラリアの伝統的なジャム(5種類から選択可能)がセットになったもの。

アツアツ卵の殻をむく時間も、バターとジャムの量を調節しながらパンに塗る時間も、一つ一つをじっくりと自分のペースで味わえるのがモーニングセットの魅力。身も心も、あっという間に満たされていきます。

コーヒーは、宮崎さんが珈琲亭ちろるとしての理想の味を追求した「ちろるブレンド」。3つの焙煎度合いのなかから、私自身の好みである「深煎り」を選択しました。香りを楽しみつつ口へ運ぶと、感じられたのはしっかりとした苦味と豆の甘み、コク。何より口当たりのやさしさがとても心地よく、思わず笑みがこぼれるおいしさ。いつもより少し早く起きて、のんびりと食事と空間を味わう。そんな豊かな時間が、一日のはじまりをきっと後押ししてくれるでしょう。

時を忘れて、のんびり過ごせる空間

店内奥の扉を開けると、現れたのは日当たりのよい中庭。ぐるりとレンガと植物に囲まれた庭には、ベンチが一つ。天気のよい時には日を浴びながらぼーっとしたり、本を読んだりと自由に活用することができます。「静かな場所で、日常から少し離れてのんびりしたい」という方にぴったりな空間。楽しみ方もさまざまで、何度も訪れたくなります。

懐かしさを残しつつ、新しい喫茶店へ

古くから愛されてきた80余年の歴史を持つ「珈琲亭ちろる」。マネージャーの宮崎さんは、時代に合ったメニュー作りや空間作りにも挑戦し続けています。5年ほど前から看板メニューとして「パンケーキ」の提供を始め、フリーWi-Fiを設置するなど、幅広い年代の方に楽しんでもらえるような工夫を行ってきました。

「コーヒーを飲む人にも飲まない人にも、このお店の雰囲気が『癒やされる空間』として認識してもらえると嬉しいです。『やってみて、ダメだった』ということももちろんありますが、時代がどう動いているのかアンテナを張って少しずつでもよい空間にしていきたいですね」と、力を込めます。全ては「これからも“在る”」ために。懐かしさを残しつつ、新たな味わいが増していく珈琲亭ちろるのこの先が、楽しみでなりません。

<今回の旅スポット>

スポット名
珈琲亭ちろる

住所
〒070-0033 北海道旭川市3条通8丁目左7

電話番号
0166-26-7788

営業時間
月〜土 10:00〜16:30(日曜定休日)

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

山本 栞

北海道支部 北海道ライター
山本 栞

北海道旭川市在住。ごはんと自然をこよなく愛し、「自分で自分を満たす」をテーマに心地よいと思える暮らし方や生き方を模索&実践中。ライティングで大切にしていることは、「正直さと率直さを失わず、読み手に伝わるように事業者さまの魅力を表現すること」です。