北海道

クラーク博士が見守るさっぽろ羊ヶ丘展望台

2021.12.23

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は北海道札幌市から、オリジナリティあふれるお菓子を製造・販売する「わらく堂」の坂本政敏(さかもとまさとし)さんに、札幌市内にある「さっぽろ羊ヶ丘展望台」をご紹介いただきました。

札幌のイメージを凝縮した「さっぽろ羊ヶ丘展望台」

「わらく堂」は、北海道の食材にこだわり、札幌の歴史ある建物を連想させる「さっぽろ赤レンガショコラ」や、伸びるチーズケーキ「もっちーず」など、地域性や独創性の強い商品を作り続けている人気製菓店です。わらく堂で営業を担当している坂本政敏さんが、札幌市内で「100年後も残したい」とおすすめしてくれたのが「さっぽろ羊ヶ丘展望台」です。

北海道の発展に寄与したクラーク博士の像や、その後ろに広がる大地と街並みなど、札幌のイメージを凝縮したスポット「さっぽろ羊ヶ丘展望台」。坂本さんにとって、子どもの頃、両親に連れてきてもらった思い出の場所であり、いまも晴れた夏の日に訪れる、お気に入りの場所だそうです。

私は今回、8年ぶりの訪問。当時小学生だった娘も、来年成人式を迎えます。月日は流れているのに料金所ゲートを越えて迎えてくれた草原は、あの日のままでした。

羊がいる丘へようこそ

現在のさっぽろ羊ヶ丘展望台一帯は明治39年に、「農商務省月寒種牛牧場」として開拓。その後、月寒種羊場や農林省月寒種畜牧場として発展しました。

「羊がいる丘だから羊ヶ丘」というストレートなネーミングは、昭和19年に命名。その名のとおり、ここには羊が草をはむのどかな光景が広がっています。訪れた日の気温は25度。「毛むくじゃらの羊は暑くないのかな」とちょっと心配になるぐらいの温度です。

さっぽろ羊ヶ丘展望台では、ゴールデンウィーク中に、年に一度の「羊の毛刈り」が行われます。重い羊毛を脱いで夏に向けてすっきりと軽装に。心配するまでもなく、すでに夏服に着替えていたのですね。

農林省月寒種羊場は戦前から、観光名所として知られていましたが、戦後になると観光客が増加します。北海道農業試験場(現在の北海道農業研究センター)は研究に支障をきたすとして昭和27年に入場を一時制限します。そこで自治体関係者や観光関係団体が観光名所を守ろうと、試験場と協議を重ね、敷地の一部の入場を承諾。昭和34年にその一部が「さっぽろ羊ヶ丘展望台」として開業しました。

この展望台は、修学旅行や団体旅行のコースに組まれることが多く、敷地内のチャペルで結婚式があげられるなど、たくさんの人たちの思い出が残されています。もし、自治体関係者や観光関係団体が交渉していなかったら、そうした出来事もなかったのでしょうね。

四季を通じて美しい景色に出会える

四季折々の美しい光景の中で、自然と触れ合うことができるのも、さっぽろ羊ヶ丘展望台の魅力の一つです。1,200㎡の畑に栽培された1,000株のラベンダーが見頃を迎えます。

7月中旬に、ラベンダー刈り取り体験を無料開催。刈り取ったラベンダーは持ち帰ることができるので、ドライフラワーやポプリにすれば、お部屋が香水のような香りに包まれますよ。

冬は真っ白な雪景色に変わります。子どもたちが喜ぶ「かまくら」や「滑り台」などが作られ、クリスマスのイベントではなんと、“本物”のサンタクロースがお出迎えしたこともあるそうですよ。冬季間は17時でクローズしますが、2018年に札幌市の日本新三大夜景認定を記念して、クリスマス期間限定で営業時間を19時まで延長したこともありました。

展望の素晴らしさはもちろん、季節ごとに楽しいイベントが用意されているのも、札幌市民に愛されている理由の一つなのです。

クラーク博士が提唱した開拓精神

さっぽろ羊ヶ丘展望台と言えば、さっそうとポーズを取るクラーク博士像が有名。訪れる人のほとんどが、同じポーズで記念写真を撮影しています。スマホを立てるための台が設置されていますが、斜め横から撮りたい私は、そばにいる観光客に頼みました。市内に住む男性は、晴天に誘われてふらりとドライブに来たそうです。ほんのわずかな会話が、旅の思い出になることもありますね。

クラーク博士は、明治9年7月、「札幌農学校(現北海道大学)」の初代教頭として招かれました。実際に教鞭をとり、専門の植物学だけでなく、自然科学一般やキリスト教の考えを伝えていたと言われています。北海道の滞在期間はわずか8カ月余りでしたが、札幌農学校の第一期生に贈った言葉「Boys, be ambitious.(青年よ、大志を抱け)」が、北海道開拓の精神として後世に伝えられるなど、大きな足跡を残しています。

アメリカに戻ったクラーク博士は病に倒れ、59歳で生涯を終えましたが、人生を振り返り「札幌で過ごした8か月間が人生で最も輝かしい時代であった」と残しています。札幌市民が異国の発展に尽力を注いでくれたクラーク博士への感謝の念を忘れない一方で、クラーク博士も希望に目を輝かせる学生たちとの日々は、充実した時間だったのでしょう。

新たな観光資源として「丘の上のクラーク」を設置

昭和40年代に入ると、多くの観光客が北海道を訪れるようになりました。北海道大学(以下北大)構内に設置しているクラーク博士の胸像も観光スポットとして人気になりましたが、その一方で北大当局は増加する観光客に頭を抱えます。

そこで札幌観光協会は、さっぽろ羊ヶ丘展望台に新しいクラーク博士像を建立することを提案。札幌を見下ろす高台にクラーク博士の全身像が設置されました。

「ボーイズ・ビー・アンビシャス」と叫ぶイメージのもと、掲げた右手は「遥か彼方の永遠の真理」を指すとされています。

「大志の誓い」は自分に宛てたタイムカプセル

さて、かっこいいポーズを決めるクラーク博士像の“足元”に注目!「大志の誓い」と書かれたポストは、いわば自分へのタイムカプセルです。敷地内のオーストリア館で、カード(100円)を購入し、名前、年齢、日時、天候、そして「自分へのメッセージ」を記入して投函します。カードは大切に保管され、訪れたときに閲覧できます。除幕式に招待した近隣の小学生や、札幌を本拠地にするプロ野球チームの選手など、たくさんの人の思い出が残されており、数十年ぶりに訪れて新婚旅行の思い出を懐かしく振り返るご夫婦もいるそうです。

久しぶりにさっぽろ羊ヶ丘展望台を訪れましたが、変わらない景色を目の当たりにして、わらく堂の坂本さんと同じく、子どもの頃の思い出や、子どもを連れてきたときの思い出が蘇り、懐かしさがこみ上げてきました。親から子どもへ、子どもから孫へ、その感情は続いていくのでしょうね。展望台を管理する札幌観光協会の齋藤副支配人は「ここは農業研究用地の一部なので、むやみな開発は行われません」と言います。昔の写真を見せてもらうと、羊が草をついばむ草原は今もそのまま。これからも美しい光景は変わることなく、訪れた人たちの思い出に刻み込まれるでしょう。

施設詳細はこちら

(施設名)
さっぽろ羊ヶ丘展望台

(住所)
北海道札幌市豊平区羊ケ丘1番地

(電話番号)
011-851-3080

(定休日)
年中無休

(営業時間)
9:00〜17:00 


https://www.hitsujigaoka.jp/

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

吉田 匡和

北海道支部 地域ナビゲーター
吉田 匡和

札幌市出身、在住。社会福祉士の資格と経験を持つ異色の「おでかけ系ライター」。2016年にフリーライターに転向し、2017年に個人事業所「ブーレオルカ」を設立しました。「楽しさが伝わる」、「すべての人に有益である」、「記憶に残る」の3つを信条に執筆しています。