和歌山県白浜町

雄大な日置川が一望できる「えびね温泉」

2021.07.21

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、和歌山県白浜町にある有限会社亀田鮮魚の代表・亀田博史さんに、日帰り温泉施設「えびね温泉」をおすすめいただきました。

清流・日置川沿いの隠れた魅力を発掘

「和歌山県の白浜町って聞いたら、テーマパークとかビーチとか名の知れた観光名所を思い浮かべる人は多いやろうけど、白浜町にはもっといろんないいところがあるんやで」と教えてくれたのは、有限会社亀田鮮魚の代表取締役・亀田博史(かめだ ひろし)さんです。

創業約60年の亀田鮮魚が位置しているのは、白浜町の南部。「紀伊半島最後の清流」と讃えられるほど澄み渡り、鮎釣りの名所として名高い日置川(ひきがわ)の河口付近です。亀田鮮魚では、熊野山岳を水源とする日置川のミネラルを含んだ近海の漁場で水揚げされた魚介類を厳選して仕入れ、新鮮で旬な天然の味わいを産地直送で全国発送しています。

「僕がおすすめしたい場所の1つは、この日置川沿いの道を山の方に向かって進んだところにある『えびね温泉』やね。地元の人とか県外の人らにも愛されている温泉で、泉質から施設の手入れまで、とにかく何から何まで素晴らしいんよ。ぜひ体験してみて!」

そんな亀田さんの太鼓判を受けて、日置川インターチェンジから車で約15分の山間部にある日帰り温泉「えびね温泉」に伺いました。

三代にわたり80年以上の歴史を持つ「えびね温泉」

広大な田園風景やエメラルド色の渓谷を横目に山間を進むと、右手に「この下、えびね温泉」と書かれた看板が現れます。傾斜を少し下ると、20台分の駐車場の奥に温泉水の販売場があり、その手前に入浴者の休憩所と食堂を併設した日帰り温泉の建物が並んでいます。

美しい庭の花々を眺めつつ瓦屋根の門をくぐると、受付から男女別の浴場の入り口まで続く、ダイナミックな石畳の小道が見えます。

出迎えてくださったのは、女将の山本祥子(やまもと さちこ)さんです。山本さんによると、医療が未発達の大昔から、日置川のほとりにはわずかに湧き出す温泉があり、入浴や飲泉をすることで大勢の人々の命が救われてきたとの言い伝えがあるそうです。

その温泉を再び生かそうと、昭和9年に山本さんのおじいさんが温泉を発掘して湯治場を建設しました。しかし、その後、老朽化が進んだ湯治場は大型の台風により倒壊。なんとか復活できないものかと、今度はお父さんが、湯治場跡地から約100m先の日置川沿いに温泉を引き、10年もの歳月をかけて自ら建設したのが、現在の「えびね温泉」だといいます。

全蛇口から源泉100%。玄人もハマる良質な絶景温泉

男女それぞれ浴室・浴槽が1つずつあり、どちらも全面ガラス張りで、目の前には雄大な日置川と山々が広がっています。泉質はアルカリ性単純硫黄泉、温度は約38℃。ほんのりと硫黄の香りが漂い、ツルツルしっとりとした肌触りです。

よくある循環方式ではなく、常に新しい温泉水が湧き出ている、まさに源泉100%の温泉。タイミングがよければ温泉成分が固体化した湯の花が見られることもあります。

肩まで浴槽に浸かると、空気孔の裏に設置された送風機から外気がふわりと送られ、室内にいながら露天風呂に浸かっているような心地よさが感じられます。なんとも極楽気分!

さらに珍しいことに、浴槽だけでなく入浴施設内の全ての蛇口から、同質の温泉水が出ています。そのため、利用者から「シャワーで髪を洗ったら、高級なトリートメントを使ったみたいにツヤツヤになった」と喜びの声が寄せられることもあるといいます。

来客者の傾向を尋ねると「地元の方で毎日いらっしゃる方もいますし、毎週京都から通ってくださる方もいます。ここは何かのついでに寄れるような場所ではないので、『えびね温泉』を目的にはるばるお越しいただけるのはうれしいですね」と山本さん。

温泉好きの玄人からも評判で、全国的に有名な温泉地にお住まいの方がわざわざ訪れてくることも少なくありません。また「えびね温泉」には公式サイトがなく、これらの評判のほとんどが利用者による口コミで広がっているというから驚きです。

地元の資材を活用して、全て手造りで建設

ほかほかと温まった体を脱衣所で少しクールダウンして身支度を整えたら、休憩所と食堂から成る隣の建物へ行きましょう。そちらの窓からも、日置川の絶景を楽しむことができます。もちろん、休憩所や食堂の建物や家具も、全て山本さんのお父さんの手造りです。

「天井も一枚板の机も、全て父が一人で造ったものです。建築家でも大工でもなかったのですが、生前ずっと地元のことを大切に想ってきた父だったので、地元産の木や竹を使用して自らの手で造ることにこだわっていました」と山本さんは当時のことを振り返ります。

「えびね温泉」の施設名にも地元愛が込められています。昔、この地に群生し、可憐なたたずまいと華やかな香りで人々を魅了してきた「えびね蘭」に由来しているのです。

奥深い味わいで人気の温泉水うどん・丼もの

食堂では、うどんや丼ものなどを注文することができます。全メニューの調理にも汲みたての温泉水が使用されています。そのため、コク深い味わいで、口当たりが非常にまろやか。うどんをいただいてみると、砂糖とは違った甘味が口の中に広がり、出汁を飲み干してしまいそうなおいしさです。

一緒に提供されている冷水も、もちろん温泉水。冷水はほのかに硫黄の匂いが香り、こくこくと飲むほどに体の中に良質な成分が行き渡る感覚が得られます。

食堂が混雑していない時は、向かい合わせで座らず、まるで映画を鑑賞するように、日置川と山々の景色に向かって隣合わせで座る利用者が多いようです。また、コーヒーも温泉水で淹れているため、入浴後のコーヒーブレイクもいいかもしれません。

花々の鑑賞から温泉水の購入まで、五感で楽しむ温泉

「えびね温泉」をご紹介くださった亀田さんは「館内の清掃から庭の手入れまで行き届いていて、おもてなしの想いが端々にこもってるんがまたええんよな」と話していました。

その言葉通り、庭には季節の花々が1苗ずつ丁寧に育てられていました。山本さんは「全て母が一人で種苗から育てたんですよ。花見を目当てにお越しになるお客さんもいるくらいです。うちの母は花を育てる名人ですね」と照れくさそうに微笑みました。

良質な温泉に癒やされ、季節の花々を愛で、おいしい食事に満たされて、温泉水の購入までできる「えびね温泉」。さまざまな楽しみ方を求めて、多くの人々が足繁く通っています。

「肌で目で舌で楽しみ、遠くからでも『来てよかった』といろんな方々にご満足いただける場所に今後もしていきたいですね」と山本さんは想いを語ります。

どの季節も素敵ですが、特に春頃から初夏にかけては青々とした新緑と日置川のエメラルドグリーンの調和を楽しむことができます。夏場は近隣のキャンプ場の利用者による閉店直前の駆け込み需要があるため、よければその時間帯を外してゆっくり過ごしてくださいね。

施設情報はこちら

えびね温泉
和歌山県西牟婁郡白浜町向平504
0739-53-0366

営業時間
・入浴:10:30~18:00閉店
・食堂:10:30~17:00閉店
・温泉水販売:7:00~18:00

年末年始休業(12/31~1/3)

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

前田 有佳利

近畿支部 ゲストハウスを旅する編集者
前田 有佳利

全国200軒以上のゲストハウスを旅する編集者。WEB「ゲストハウス情報マガジンFootPrints」代表。書籍『ゲストハウスガイド100 -Japan Hostel & Guesthouse Guide-』著者。和歌山市在住。理想の商店街をつくる2日間のマーケットイベント「Arcade」や「和歌山移住計画」のメンバー。