和歌山県和歌山市

酒蔵の杜氏・蔵人が迎える「平和酒店」

2021.05.30

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、海南市にある平和酒造の杜氏・柴田英道さんより、日本酒を楽しむ文化を100年先まで守り続けられるようにと、南海電鉄・和歌山市駅直結の商業施設内に構えられた「平和酒店」をご紹介いただきました。酒蔵の杜氏や蔵人との会話を楽しみながら、気軽にお酒が味わえるスタンディングバー併設の酒店です。

和歌山県を代表する酒蔵のひとつ、昭和3年創業の「平和酒造」

旧国名である「紀の国」は「木の国」が転じたものと言われるほど、森林面積の割合が高い和歌山県。県の面積の4分の3以上が森林です。平地があまりなく稲作が難しいことから、米が原料である日本酒の酒蔵が少なく、オリジナル銘柄を持つ酒蔵は、県内で現在10数軒にとどまります。

希少な軒数でありながら、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に認められる自然が育む日本酒は絶品。なかでも、世界的な賞を受賞するなどして近年注目されている酒蔵が、海南市の盆地・溝ノ口に位置する昭和3年創業の平和酒造です。代表銘柄として、高野山の湧き水を使用した日本酒「紀土(KID/キッド)」があります。

平和酒造の酒造りの責任者である、杜氏の柴田英道(しばた ひでみち)さんに「100年先に残したいものは何ですか?」と尋ねたところ、日本酒を楽しむ文化を100年先まで守り続けられるようにとの思いから、日本酒について造り手から直接話が聞ける「平和酒店(へいわさけてん)」を推薦いただきました。

杜氏や蔵人と会話を楽しむスタンディングバー併設の「平和酒店」

平和酒造初のアンテナショップ「平和酒店」。2020年6月にグランドオープンした南海電鉄・和歌山市駅直結の商業施設「キーノ和歌山」の2階に構えられています。季節限定品を含め20種類以上ある日本酒「紀土(KID)」シリーズや、和歌山産の山椒や柚子・オレンジピールなどを使用したオリジナルのクラフトビール「平和クラフト」、特産品の梅や柚子などの果実を用いたリキュール「鶴梅」をはじめとする果実酒など、さまざまな種類のお酒が販売されています。

和歌山らしいお酒が購入できることも、もちろん魅力です。しかし「100年先に残したいもの」として今回お伝えしたいポイントは、そこではありません。「平和酒店」の最大の魅力は、杜氏や蔵人が迎えてくれるスタンディングバーが併設されていること。造り手本人との会話を楽しみながら、お酒を味わうことができるのです。

お客さまと造り手とのコミュニケーションを大切に

というわけで、スタンディングバーにお邪魔しました。迎えてくださったのは「平和酒店」の店長であり蔵人でもある中市 聖(なかいち せい)さんです。このお店では、接客だけを担当するスタッフをあえて置かず、杜氏や蔵人が、海南市の酒蔵と和歌山市の「平和酒店」を行き来して、酒造りと接客の両方を交代で行っています。

「平和酒造は『日本一、作り手がイベントに出かける酒蔵』と言っても過言ではないくらい、もともとお客さまと造り手とのコミュニケーションを大切にしてきました。その繋がりを一時的から永続的にし、お客さまにお酒の魅力をよりお届けしようと平和酒店が誕生しました」と中市さん。

100年先まで、国酒である日本酒の文化を守り続けたい

日本の酒文化について、中市さんは「お若い方の酒離れなどによって、酒造業界は衰退傾向にあります。そんな今だからこそ、国酒である日本酒のおいしさをお届けし、お酒の楽しみ方の可能性をお伝えしたいと思っています。古くから日本人に親しまれてきた日本酒の文化が100年先まで永く続くことを願い、造り手の一人として『平和酒店』でお酒の楽しみ方をお伝えしています」と、その思いを語ります。

来客者としては、お酒の楽しみ方や造り手のこだわりを直接聞くことができるうれしい機会です。しかしながら「造り手としては大変では?」と質問したところ、「お客さまとの会話から商品づくりのヒントをいただけますし、なにより喜んでいただける顔を直接拝見できるのがうれしいです」と、にっこりと笑顔が返ってきました。

お酒だけでなく、おつまみも和歌山由来

平和酒店のスタンディングバーで注文できるドリンクは、日本酒の飲み比べや、サーバーで注がれる生のクラフトビールなど、バリエーション豊か。さらに、和歌山産にこだわったおつまみも取りそろえています。紀ノ川漬けや、金山寺味噌とクリームチーズのクラッカー、紀美野町の農家が営むジェラート屋「kiminoka(キミノーカ)」とコラボした純米酒のミルクアイスなど。

今回イチオシな食べ合わせとしておすすめいただいたのは、「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2020」SAKE部門の最優秀評価「チャンピオン・サク」を受賞した「紀土 無量山 純米吟醸」と、海南市にある老舗の豆腐屋が手掛けた「山口豆腐の汲み豆腐」。お豆腐は、和歌山県最古の醤油蔵が造る「三ツ星醤油」でいただきます。

「この日本酒とお豆腐は、同じ高野山の湧き水でつくられているんですよ。そういった点でもマッチすると思います」と、さすがの蔵人ならではのコメント。おかげで、より一層深い味わいが感じられます。

造り手ならではの説明で、お酒の楽しみ方の選択肢が広がる

スタンディングバーの来客者は、電車やバスの待ち時間に一杯飲む人や、「キーノ和歌山」併設のホテル宿泊者など、さまざまです。造り手から「日本酒造りは冬に行うので、麹(こうじ)を蒸らす40°の部屋と1°の屋外を行き来しています」や「何百kg単位のお米をかき混ぜる作業もあるんです」と、酒造りの現場について説明されると、どなたも「へえ、すごい!それで、それで?」と興味津々で聞いてくださるそうです。

ほかにも「夏季限定の夏みかんは、オレンジや柚子ピールが隠し味のホワイトエールと混ぜてビアカクテルにするのもおすすめですよ」などと、自宅でのアレンジ方法やおすすめな食べ合わせを教わることもできるため、バーに立ち寄ると、お酒の楽しみ方の選択肢がぐっと広がります。そして、ついつい何本か購入したくなります。

ものづくりの舞台裏やお酒の楽しみ方について造り手から直接話を聞き、日本のお酒の100年先に思いを馳せて、おいしいお酒を深く味わうのもいいですね。ぜひ和歌山市駅をご利用の際は、改札前のエスカレーターを上がってすぐの「平和酒店」に立ち寄ってみてください。

施設情報はこちら

施設名
平和酒店

住所
和歌山県和歌山市東蔵前丁39 キーノ和歌山2階

電話番号
073-431-1178

営業時間
・物販:11:00~20:00
・飲食:12:00〜20:00(LO19:30)
※新型コロナウイルス感染症の影響で変更になる場合があります

休業日
商業施設「キーノ和歌山」に準ずる

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

前田 有佳利

近畿支部 ゲストハウスを旅する編集者
前田 有佳利

全国200軒以上のゲストハウスを旅する編集者。WEB「ゲストハウス情報マガジンFootPrints」代表。書籍『ゲストハウスガイド100 -Japan Hostel & Guesthouse Guide-』著者。和歌山市在住。理想の商店街をつくる2日間のマーケットイベント「Arcade」や「和歌山移住計画」のメンバー。