徳島県

国内三大秘境・祖谷の絶景と風土を堪能する

2022.09.16

国を問わず、訪れた人をその圧倒的な風景で魅了する「祖谷(いや)」。徳島県の山奥に広がる秘境にはむかしから、平家の落人伝説が受け継がれています。俗世から離れた桃源郷の風景と風土を、1泊2日でたっぷりと堪能してきました。

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1日目

  14:00 うわさ以上のスリルが待ち受ける、祖谷名物「祖谷のかずら橋」

祖谷の秘境を象徴する風景、「祖谷渓(いやけい)」。徳島県三好市の、吉野川上流の支流にある大渓谷は、鋭いV字を描く名勝です。澄んだ空気と鳥たちの鳴き声に包まれるこの地で語り継がれるのが、平家の落人伝説。「屋島の合戦」に敗れた平氏がここに逃げてきたという伝説にちなんだ、今に残る風景があります。

それが、野生のシラクチカズラを編み込んでつくられた「かずら橋」です。敵から逃れて暮らす平氏が、源氏の襲来時、身を守るために橋を切り落とせるようにつくった、というのがその一説。かつてのかずら橋とは見た目も頑丈さもまったく違うそうなのですが、“現代版かずら橋”がこの「祖谷のかずら橋」です。

長さ42m、水面下14mの野趣あふれる橋は、国の重要有形民俗文化財。植物が放つ圧倒的な存在感をまとう、この橋を渡るのはちょっとした肝試しです。足場の隙間が想像以上に広く、欄干をしっかりつかんで、恐る恐る対岸を目指しました。

「祖谷のかずら橋」を案内してくれたのは、三好市観光協会の太田由美さん。なんでも、この橋には苦い記憶があるそう。「初めて訪れたのは、高校生の時の初デートでした。高所恐怖症で前にも進めず後ろにも下がれず。やまびこ全部、私の絶叫よ」。高校卒業後、バスガイドになった太田さんは、何度も渡るうちに「自分の足元だけ見る」というコツをつかんだそう。

「祖谷渓には、大正時代まで、人々の暮らしのために必要なかずら橋が13本かかっていました。一度は姿を消した橋を、『学校に通う子どもたちのために』『地域の観光のために』と復活させたのは、昭和2(1927)年。当時の町長の決断でした」と太田さんは話します。

祖谷のかずら橋は3年に一度、安全性のために架け替えをしています。四国の山へ分け入って、人力で集めるカズラの総量はなんと約5.5t。冬の間にかけかえ、その姿を保っています。かずら橋は、必死で今につないできた祖谷の誇りであり、希少な宝なのですね。

施設情報はこちら

スポット名

祖谷のかずら橋

住所

徳島県三好市西祖谷善徳162-2

電話番号

0883-76-0877

営業時間

8:00〜18:00(4月〜6月)、7:30〜18:30(7・8月)、8:00~17:00(9月~3月)

定休日

無休

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

 

  15:00 祖谷グリーンに囲まれた「森のくまさん」で絶品ハチミツ

スリリングな体験のあとは、かずら橋のたもとにある「森のくまさん」でクールダウンしました。「森のくまさん」の屋号の由来の通り、メニューの“主役”はハチミツ。ここは、祖谷のハチミツを味わうためのドリンクやスイーツが味わえる人気カフェなんです。

窓ガラスいっぱいに写る“祖谷グリーン”に癒されながら、「ハチミツとホットケーキ」(500円)をオーダーしました。

しばらくすると目の前に、キュートなワンプレートが登場。厚みのあるふわふわのホットケーキに、たっぷり百花蜜(数種類の花から集められたハチミツ)をかけて、いただきます。ホットケーキ自体は甘さ控えめ。それが、サラリとしているのにコクがあるハチミツの味わいを引き立てます。森のくまさんで扱うハチミツは、祖谷で採取されたもの。

オーナーの前田泰志さんが祖谷産ハチミツに惹かれ、宿の料理人を辞めてカフェをはじめたそう。一人の人生を変えたのもうなづけるほど、絶品のハチミツでした。

外のバルコニーでは、野鳥のヤマガラのえさやり体験(10月〜3月)もできます。オフシーズンにも時々やってくる小さなヤマガラ。前田さんはその気配を素早く察知していました。「祖谷の恵みと大自然のゆたかさをぜひ、ゆっくり味わってくださいね」

施設情報はこちら

施設名

森のくまさん

住所

徳島県三好市西祖谷山村善徳162-1

電話番号

090-3184-3029

営業時間

9:00〜17:00

定休日

火曜

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

 

  16:30 「和の宿 ホテル祖谷温泉」で極上の湯と絶景に浸かる

祖谷の名物といえば、温泉もその一つです。泉質のよさと、渓谷の崖にポツンと佇むロケーションから国内外にファンがいるホテル「和(な)の宿 ホテル祖谷温泉」。本日泊まる宿です。

傾斜角42度のケーブルカーで谷底を目指した先にある源泉かけ流しの湯は、これだけのために泊まる価値があるほどの名湯。チェックイン時も気がそぞろ。荷物を置いて、ケーブルカーに乗り込みました!

写真提供/ 和の宿 ホテル祖谷温泉
写真提供/ 和の宿 ホテル祖谷温泉

とろんとした化粧水のような湯は、少しぬるめ。すぐそばに渓流を望む最高の湯浴みはどれだけでも浸かっていられるから、あがるタイミングをはかるのが難しい。

全20客室のうち、選んだ部屋は「ふたりじめ」。うれしいことに、露天風呂もついていました。2018年にリノベーションした部屋で、木のスピーカーが放つ繊細な音でインストゥルメンタルを流し、日常から離れて語らいのとき。“二人占め”の、最高の時間と空間です。

写真提供/ 和の宿 ホテル祖谷温泉
写真提供/ 和の宿 ホテル祖谷温泉

夕食は、祖谷の食文化を取り入れた会席料理「阿波特選」をいただきました。ジビエ、石豆腐、祖谷こんにゃくなど、山の秘境感をたっぷり感じることができるメニューに新鮮な旬の野菜が織りなす数々の料理に舌鼓。

夜、一帯は漆黒の闇に包まれます。渓谷を一望する「雲の上テラス」から空を見上げてみると、つかめそうなほどの満天の星。星の無数のまたたきに、声を失うほど見惚れてしまいました。静寂の渓谷で宇宙を感じる体験は、まちがいなく“一生もの”です。

施設情報はこちら

施設名

和の宿 ホテル祖谷温泉

住所

徳島県三好市池田町松尾松本367-28

電話番号

0883-75-2311

公式URL

https://www.iyaonsen.co.jp/

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

 

2日目

  10:30 大歩危峡観光遊覧船に乗って、自然の偉大さを感じる

さてさて、祖谷旅2日目の朝がスタート。お宿で朝食をゆっくりとって、大渓谷の朝の景色をたっぷり堪能したあとは、違う角度から祖谷渓を楽しむことにしました。向かったのは、車で25分ほどの場所にある、「大歩危峡(おおぼけきょう)まんなか」。ここでは、大歩危峡観光遊覧船を運航しており、日本三大暴れ川と呼ばれる吉野川を遊覧できます。

小舟に乗り込み、救命胴衣を身につけて、いざ出発!剥き出しになった険しい岩が両岸に連なり、川の流れの勇ましさを物語ります。一帯は、「大歩危小歩危」(おおぼけこぼけ)と呼ばれる、2億年かけて、吉野川の激流がつくった約8kmにわたる渓谷。その由来を船頭さんが教えてくれました。

「大股で歩くと危ない、小股で歩いても危ないことからそう呼ばれるようになったという説と、断崖のことを『ボケ』と呼ぶことから、大小の崖を意味するこの名がついたという2つの説があります」。清らかで心地いい風が吹くのどかな船上と、岩と流れの荒々しさのコントラストに揺られながら、上り・下り合わせて30分ほどの乗船時間を過ごしました。

この遊覧船は、近くで営む旅館「渓谷の湯宿 大歩危峡まんなか」が営んでいます。明治23(1890)年創業の宿が、食事のための鮎漁にお客さんを同行させたのがそのはじまりとか。大歩危峡まんなか会長の大平克之さんは、祖谷の歴史や風土を知った上で遊覧船に乗ってほしい、といいます。

「190カ所に妖怪や憑き物の伝説があるんですよ。それだけ、自然がゆたかな証拠なんです。できるだけ、ありのままの自然を残していけるように、祖谷のことを発信していきたいですね」

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施設名

大歩危峡観光遊覧船(大歩危峡まんなか)

住所

徳島県三好市山城町西宇1520

電話番号

0883-84-1211

営業時間

9:00~16:00(最終出航15:30)

休業日

無休(ただし、強風・増水などの場合は欠航)

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

 

  12:00 「そば処 祖谷美人」で、秘境の風土をとりこんだそばを食べる

祖谷旅もいよいよ、ラスト。締めに選んだのは、祖谷名物のそばです。お米がとれない祖谷では、むかしから人々の胃袋を支えたのがそばでした。各家庭に石臼があり、明日の糧にと夜な夜なひいていたといいます。渓谷沿いにある名店「そば処 祖谷美人」は、遊覧船の乗り場から車で15分ほど。大渓谷を望む屋外席で、人気の「ぼけあげそば」を注文しました。

そばの上にどど〜んと乗った油揚げも、祖谷名物。焼き上げた後に甘辛く煮込んだ油揚げは、いりこ出汁のやさしいつゆをたっぷりと含み、口に入れると、揚げと出汁のダブルの旨味がじゅわっと広がります。柔らかで素朴な麺とつゆがなじむ一杯は、なんとも滋味深く。

周囲の風景がさらに、おいしさを後押しします。鳥のさえずりだけが響く渓谷の、厳しい風土が生んだ祖谷ならではの一杯。最高のしめくくりとなりました。

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施設名

そば処 祖谷美人

住所

徳島県三好市西祖谷山村善徳9-3

電話番号

0883-87-2009

営業時間

8:00~17:00

定休日

無休

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

 

国内だけではなく海外客をもとりこにするのは、祖谷がかつての暮らしやありのままの自然を大切に守っているから、なのでしょう。初夏の秘境の風景と風土をめいっぱい感じた一泊二日で、すっかり“祖谷ファン”になった筆者は、紅葉の祖谷、厳冬の祖谷の美しさを想像してみました。まだ見ぬ秘境美に出会うため、いつの日かまたここを旅します。

地域ナビゲーター

ハタノエリ

四国支部 ライター・エディター
ハタノエリ

宮崎県の海のそばで生まれ育ち、高校卒業後は大学、仕事、夫の転勤を理由に
全国各地10カ所以上で暮らしました。2017年、愛媛県松山市に移住。現在は、ライター、エディター、コピーライターとして、取材対象の言外からあふれるものを拾いながら、ひと・もの・ことを、ことばで表現しています。