
愛知県名古屋市『THE TOWER HOTEL NAGOYA』
2022.03.11
日本には旅の目的地になるホテルや、ふるさとに帰ったような気持ちになる旅館があります。この記事では、人々の記憶に残る「とっておきの宿」をふるさとLOVERSナビゲーターが訪問し、その魅力をたっぷりとご紹介します。今回訪れたのは、長野県松本市の松本城内にある「松本丸の内ホテル」。観光や散策に絶好のロケーションで、とくに併設する国登録有形文化財のウェディング・レストラン棟は必見です。
長野県松本市のシンボルといえば、松本城。黒と白の見事なコントラスト、凛とした佇まいで圧倒的な存在感を放っています。松本城は戦国時代に造られた深志城がはじまり。外観は五重、内部が六階になっている独特の構造「五重六階」の大天守は日本最古で、国宝に指定されています。
その本丸の正門である黒門から、武家屋敷が並んでいたという大名町通り沿いを進むこと、わずか2分。石目地の外壁が一際目立つ大きな洋館が現れます。それが、「松本丸の内ホテル」のウェディング・レストラン棟です。
丸の内という名前でも分かるようにホテルは三の丸地区、つまり「松本城内」にあります。「松本で城内に建っているのは私どものホテルだけ。ほかの地域でもおそらく、珍しいのではないでしょうか」と橘由紀(たちばな ゆき)支配人が教えてくれました。
早速、ウェディング・レストラン棟裏手にあるホテルへ。落ち着いた雰囲気のアプローチを通り抜け、最初に目を引いたのがフロントそばにある小さなショップです。
独特の存在感を放っていたのは、松本市の特産品である小さな「松本だるま」。特徴でもあるふさふさとした眉毛は麻でできており、愛らしい表情に心がほっこりします。また、優しい風合いの財布やキーケースは、松本市在住の害獣駆除で生じた鹿革を使用。手になじむ柔らかさが魅力です。スタッフが「お客様に紹介したいもの」を選んだ品々は、長野県のお土産としてもぴったりです。
客室はビジネス客向けのシングルから、観光で訪れたファミリー向けのトリプルまで、さまざまなタイプが用意されています。「シンプルで落ち着いた雰囲気を大切にしています。ゆっくりとお過ごしいただくために、寝具は品質の良いものを選んでいます」と橘支配人が説明してくれました。
続いて、橘支配人に案内していただいたのが隣接するウェディング・レストラン棟。一歩、足を踏み入れた途端、そこはまるで別世界!それもそのはず、この棟は1937年(昭和12年)に建設された旧第一勧業銀行ビルを、当時の趣そのままにリノベーションしたもの。重厚な佇まいと優美な内装は、宿泊者ならずとも一見の価値ありです。
聞けばこの素敵な洋館、紆余曲折があって現在の形になったそうです。第一勧業銀行からみずほ銀行となり、2003年まで松本支店として使用されましたが、その後、役目を終えた建物は取り壊されることに。その時、近隣住民が保存活動を展開したおかげで取り壊しの危機を免れ、その後、国登録有形文化財となりました。現在は「アルモニービアン」という名称で、ウェディングをメインにレストラン、宴会場としても活用されています。
このアルモニービアンのバンケットルームが宿泊者の朝食会場です。白を貴重としたバンケットルームは、まるで舞踏会の会場のよう。天井高9m、建物の3階分はあろうかと思われるアーチ型の開放的な窓、絢爛豪華なシャンデリアなど、ここが本当に銀行だったのかと疑ってしまうほど、エレガントで美しい空間が広がっています。
とはいっても、やはり銀行としての名残はありました。それが、トイレ入り口のドア。重厚な金属のドアには、大きなハンドルが付いています。「このドアは以前、金庫室のドアとして使われていました。これは当時のまま、保存しています」と橘支配人。
また、宿泊者はウェディング・レストラン棟にあるラウンジも利用できます。そこには、建築当時の松本市の街並みの写真なども展示されており、建物とともに松本市の古き良き時代を肌で感じることができます。
会場の雰囲気だけでなく、ビュッフェ形式(季節によって変動あり)の朝食も魅力満載です。ホテルの近くにある信州味噌の名店、萬年屋の味噌を使った味噌汁や漬物、同じくホテル近くにある自家栽培の蕎麦を提供するそば処「かまくらや」の蕎麦、長野名物「おやき」、平飼いにこだわる地元養鶏場の卵など、アルモニービアンのシェフが厳選した信州の食材で腕を振るい、定番だけでなく松本ならではのメニューを提供しています。
また、希望する宿泊者には、バンケットルームでのフレンチコースのディナー(要予約)も用意。シニアソムリエがセレクトした信州ワインとともに、地元食材を生かした「松本キュイジーヌ」がいただけます。
松本城を中心に歴史を色濃く残す松本市。三の丸地区、いわゆる城内で暮らす人たちにとって、こうした歴史への思い入れは人一倍強いもの。丸の内ホテルのウェディング・レストラン棟が地元の人々によって保存されたのも、その現れです。現在、アルモニービアンはカフェやフレンチレストランも営業しているため、地元の人がランチに立ち寄ったり、地元企業や町内会の集まりで利用したりすることもあるそうです。
「私たちはここで暮らす人たちの思いを大切にしたい。だから、人々の日常の中に、観光客が溶け込んでいくような、そんな観光地を目指していきたいですね」。橘支配人の言葉からは、三の丸という時代の変遷を見守ってきた場所に建ち、地域の人々に愛される建物を受け継いだホテルとしての責任と覚悟がありました。これからも、城内にあるホテルとして地域とともに新たな歴史を紡いでいくことでしょう。
施設情報はこちら
(施設名)
松本丸の内ホテル
(住所)
長野県松本市大手町3丁目5-15
(電話番号)
0263-35-4500
関東支部 ふるさとLOVERSナビゲーター
斎藤 里香
群馬県在住。北関東と埼玉を中心に取材・執筆活動をしています。いろいろな「コト」や「モノ」に携わっている人々の“代弁者”として、頑張っている姿や魅力、人々の思いなどを少しでも多くの人たちに伝えられたら嬉しいです。