石川県加賀市山中温泉『かよう亭』

いつまでも記憶に残る、心を満たす食事と極上のおもてなし

2021.04.01

石川県加賀市 × かよう亭

日本には旅の目的地になるホテルや、ふるさとに帰ったような気持ちになる旅館があります。この記事では、人々の記憶に残る「とっておきの宿」をふるさとLOVERSナビゲーターが訪問し、その魅力をたっぷりとご紹介します。今回訪れたのは、こまやかなおもてなしと地産地消のお食事にこだわる石川県加賀市にある山中温泉の宿「かよう亭」です。

自然豊かな山々に抱かれた、湯治文化の残るまち

北陸新幹線の開業以来、多くの観光客でにぎわう石川県。金沢市中心地から南へ車を走らせたところに、4つの温泉を総称した加賀温泉郷はあります。このエリアは伝統工芸・九谷焼や山中塗の産地としても知られており、県内屈指の人気観光地です。

そのうち山中温泉は、松尾芭蕉が称賛した温泉の一つ。芭蕉の句から命名された総湯・菊の湯は、公衆浴場として地元の人々に親しまれており、開湯以来1300年、多くの人たちを癒しています。また、温泉街に沿って流れる大聖寺川(だいしょうじがわ)の渓谷には「鶴仙渓(かくせんけい)」と呼ばれる遊歩道が整備されており、四季折々の美しい景色も見どころです。

おもてなしが自慢の、全10室からなる小さな宿

そんな山中温泉の中心部を少し外れたところに、緑に囲まれた1万坪の敷地にわずか10室だけの小さな温泉旅館があります。1970年代に200人収容規模の旅館をフルリニューアルして新たに誕生した、かよう亭。生命力溢れる緑の木々に囲まれ、自然と調和するように静かに佇む姿に、ここが温泉街のすぐそばであることを忘れてしまいます。

亭主・上口昌徳(かみぐちまさのり)さんは、当時の時代の流れに逆行し、効率の良さや新しさを追求するのではなく、あえて規模を縮小することで、隅々まで気配りが行き届いた真に心のこもったおもてなしを実現しようと考えました。ルールを設けてマニュアル通りの画一的な接客をするのではなく、あくまで宿泊客本位を貫くことで、一人ひとりの要望に添ったサービスや、心が通ったおもてなしを提供。さらに「命の糧」と位置付ける料理こそ、かよう亭の魅力となっています。

まるで故郷に帰ってきたかのような、くつろぎの空間

玄関では、スタッフの方々が温かい笑顔で迎えてくれます。靴を脱いで、旅の荷物を預ければ、ここを初めて訪れた人でも、なぜか落ち着き、心がホッとするのを感じられるはず。また、スタッフ同士の和気藹々とした雰囲気や親しみのある接客に、どこか安心感を覚えます。

スリッパの要らない畳敷きの廊下に、外鍵のない客室。客室は中庭を囲むように配されており、館内にはやわらかな自然の光が差し込みます。また、所々に近隣に自生している草花がさりげなく生けられており、心やすらぐ、くつろぎの空間が広がっています。中国の古文「賓至如帰(客至て帰るが如し)」を合言葉に、「故郷の我が家に帰ったかのようにやすらげる宿」を目指す、かよう亭。なんとチェックイン・チェックアウトは正午というから驚きです。

さらに、「旅館の都合に合わせていただくのではなく、あくまでお客さまの日常のペースでお過ごしいただきたい」との思いから、食事の時間も柔軟に対応。10分刻みで選ぶことができ、ご希望の時間に朝食を取ることも可能。一人ひとりの細かな要望に応えるサービスに、徹底したおもてなしの姿勢が伺えます。

川のせせらぎや鳥のさえずりが聴こえてくる客室

客室に一歩足を踏み入れば、そこには静寂が広がっています。お部屋は数寄屋造りとなっており、ゆったりとしていて趣のある雰囲気。聞こえてくるのは川のせせらぎや鳥のさえずりだけ。自然の音に耳を傾けながら、心を落ち着かせ、時間を忘れてゆっくりと過ごすことができます。また、全ての部屋に大きな窓があり、敷地内に流れる小川や樹木など、豊かな自然の眺望も魅力の一つ。冬には雪で白く染まった木々、春は山藤の鮮やかな紫、夏は木々の緑、秋には紅葉と、四季折々の景色が楽しめます。

全10室のうち4室は露天風呂付き客室ですが、大浴場もおすすめです。大風呂「黒谷の湯」と「松風の湯」には、地元石川の水田丸石や隣県・福井の越前石を使用。また、ヒバ造りの露天風呂はこじんまりとしており、秘湯のような雰囲気が人気です。客室の露天風呂、大浴場ともに山中の温泉を引いており、眼前に広がる自然を眺めながら熱い湯に浸かれば、まるで自然と一体になったような感覚に。心身共に解きほぐされ、明日からの生きる活力が湧いてきます。

地元の食材を味わう「加賀懐石」に舌鼓

決して派手ではないけれど、食材本来のおいしさをしみじみと感じられる。それがかよう亭の料理です。海と山に囲まれた立地を生かし、海の幸や山の幸、有機野菜や自然農法のお米といった里の幸など新鮮な食材を厳選して仕入れ、素材のうま味を引き出すような優しい味付けをするのがこだわり。一品一品、自然の恵みに感謝しながら丁寧に調理された料理からは、食の豊かさと生産者の顔が見えてきます。

また、山中漆器や九谷焼といった、地元の伝統工芸による器も見どころ。夕食の「加賀懐石」は、石川の地酒と共に味わうのがおすすめです。

心を潤し身体に染み渡る、素材を味わう自慢の朝食

リニューアル以来、一貫して同じメニューを提供しているという朝食も外せません。ふっくらと炊き上がったごはんは、地元農家が合鴨農法で栽培した米。また、特産品・加賀丸芋のとろろや、こだわりの卵を使った出汁巻き玉子など、朝食には石川の食材をふんだんに使った品々が並びます。かよう亭の朝食は、直木賞作家・高橋治が「日本一の朝食」と称したという、同宿の名物です。

一見シンプルではありますが、早朝に起こした炭で焼いたハタハタの一夜干しや、熱々を味わえるように提供される岩海苔、湯気が上がる湯豆腐など、手間を惜しまず、細かな工夫が凝らされています。心を込めて丁寧に作られた朝食をいただけば、胃袋だけでなく心も満たされます。

人と人とのつながりを大切に、表に立ち続ける亭主

文明化や機械による無人化・自動化が進み、人と人とのつながりが希薄になりつつある現代において、「自然本来の美しさや人の手による温かさをお伝えするのが、私たちの使命です」と話す、亭主の上口さん。「お越しいただいた方々との出会いこそ、私の原動力」と言い、89歳の今もなお毎日表に立ち、宿泊客のお出迎えやお見送りを率先して行うだけでなく、夕食時には各部屋に足を運んで感謝の言葉を直接伝えることを信念としています。

「私たちの仕事は24時間、お客さまの命をお預かりする仕事です。心が豊かになる空間や生きる糧となる食事を提供することはもちろんですが、それ以上に、人と人との出会いを大事にしたいと考えています」と語ります。人とのつながりを大切にする姿勢は従業員一人ひとりに受け継がれており、心が込もった温かいおもてなしは、かよう亭の大きな魅力の一つとなっているのです。

取材時に上口さんが教えてくれた、中国から旅行で訪れた歌人のエピソードが印象的でした。「その歌人は当宿のおもてなしに感動し、チェックアウトの際にある言葉を贈ってくれました。“壱家人”、家族の一員になった気分という意味だそうです」。かよう亭では、ほとんどの宿泊客が外出をせず、終日館内でゆっくりと過ごすといいます。大切な家族をもてなすよう温かく迎えてくれるスタッフの方々に、心を尽くしたおもてなし。訪れた人の心を掴んで離さない魅力が、ここにはあります。

施設情報はこちら

施設名
かよう亭

住所
加賀市山中温泉東町1-ホ-20

電話番号
0761-78-1410

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

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地域ナビゲーター

井上 奈那

中部支部 地域ナビゲーター
井上 奈那

新潟生まれ、日本海側と太平洋側を行ったり来たりした後、2016年から石川県金沢市在住。新聞社、雑誌社勤務を経て、2020年に独立。令和ベビーとビーグル犬、夫の4人家族でゆかいに暮らしながら「馬人舎(ウマヒトシャ)」という屋号で書いたり編んだりしています。