福岡県北九州市

昔懐かしい北九州の台所「旦過市場」

2021.02.15

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。
今回スポットをご紹介頂いたのは、福岡県北九州市で、1965年に創業した老舗店「洋菓子のミロ」の二代目、河野敏朗さんです。

老舗洋菓子店オーナーの100年先に残したいもの

関門海峡を挟み、対岸に本州を臨む福岡県北九州市で、1965年に創業した老舗店「洋菓子のミロ」。50年以上この地で営む、地元の人にとってはなじみ深いお店です。

看板商品の「写真ケーキ」は、誕生日や記念日のサプライズにぴったり。冷凍便での配送が可能で、全国から注文がある人気商品です。「インパクトだけでなくパティシエとして味へのこだわりがあります」と教えてくれたのは、二代目、河野敏朗さん。食材は産地と鮮度にこだわり、福岡産の卵や熊本産の薄力粉、九州産の生クリームと、地元九州の食材を使用します。

そんな河野さんが、未来に残したいものは、「旦過市場」。「小倉駅の近くにある歴史のある古い市場。昔ながらのお店がいくつも並び、懐かしい雰囲気です」。一般の人だけでなく料理人も多く買い出しに訪れる、北九州の台所に早速訪れてみました。

まるでタイムスリップしたかのような商店街

九州の玄関口ともいえる小倉駅から、にぎやかな魚町銀天街を歩いていると、10分ほどで「旦過市場」に到着。昭和30年代に建てられた長屋式の商店街で、野菜や鮮魚、練り物、花屋と昔ながらの専門店が並びます。

大正時代の初期、市場と並ぶように流れる神獄川を行き来する船が、この地で荷を揚げ、商売をしたことが「旦過市場」はじまりのきっかけに。その後、写真のように、川の上に張り出すかたちで二階建ての木造建築が建ち、今のかたちになりました。

アーケードの下を歩いていると、北九州名物のくじらを売る店があったり、おしゃれなスイーツ店があったりと良い意味で雑多な雰囲気。さらに店主やお客さんたちの井戸端会議の話し声、すれ違う人が交わす挨拶などがあちこちで聞こえ、とってもにぎやかです。なんだか、昭和の古き良き日本にタイムスリップしたかのよう。あてもなく歩いていても、十分楽しめる雰囲気ですが、旦過市場に行くなら、と河野さんがおすすめしてくれた名物「ぬか炊き」が購入できるお店へ伺いました。

城下町・小倉で愛される郷土料理「ぬか炊き」

ぬか炊きとは、北九州市のなかでも城下町・小倉エリアで古くから食べられる郷土料理です。「じんだ煮」や「ぬかみそ炊き」と呼ばれることもありますが、現在は「ぬか炊き」と呼ぶことが主流。漬物を作るぬか床と一緒に、サバやイワシといった青魚を煮込んだものです。

およそ100年の歴史が詰まった祖母の嫁入り道具

「百年床 宇佐美商店」は、旦過市場にあるぬか炊きの人気店。1946年に、現在の店主・宇佐美雄介さんの祖父がはじめたお店です。創業当時は食料品店だったものの、宇佐美さんの祖母となる信(のぶ)さんがお嫁に来たことがきっかけとなり、ぬか漬けを販売するようになりました。

「小倉では、昔、家庭のぬか床を嫁入り道具とする風習があったんです。祖母も、その風習にならい、ぬか床を持って祖父のもとへ嫁入りしました。そのぬか床で作ったぬか漬けがおいしかったことから、徐々に店で販売するようになったんです」と教えてくれた宇佐美さん。

つまり店名の「百年床」とは、おばあさまが嫁入り道具として持ってきた歴史あるぬか床を指したもの。現在の看板商品である「ぬか炊き」も、その長い歴史を紡いできたぬか床でつくられています。

臭みを消し、うま味を加える。知恵から生まれた家庭料理

ぬか炊きは、海が近い小倉で安く、たくさん手に入るイワシやサバといった青魚を、少しでも長くおいしく食べる方法として生まれました。

「醤油、みりん、砂糖に加えて、ぬか床を入れて炊くから『ぬか炊き』。ぬか床って、野菜を漬けていると少しずつ水分が出てきて緩くなるんです。本来、その緩い部分はぬかが痛む原因になるため捨ててしまうんですが、もったいないからと一緒に炊くようになったそう。ぬかを加えることで、青魚の臭みはなくなり、さらに野菜のうま味が加わるから、おいしくなるんです」

もともとぬか炊きは普段から食べる家庭料理。家庭やお店によって味はさまざまです。「味の正解はないんですよ」と宇佐美さん。「百年床 宇佐美商店」のぬか炊きは、甘味のなかにピリッと唐辛子が利いています。中骨まで食べられるほど軟らかく、お子さんやご年配の人も食べやすいのも評判の理由でしょう。

「ぬかを食べるってどうなんだろう」といただくまでは不安があったものの、食べてみるとまるでサバの味噌煮のような馴染みある味に箸が止まりません。心配だったぬかの口当たりも、不快感はゼロ。むしろしっとり、滑らかささえ感じるほどです。ごはんのお供にはもちろん、お酒のつまみとしても活躍するこの味、人気もうなずけます。

小倉の味を「福岡名物」へ

百年床宇佐美商店では、お土産にしやすいように真空パックのほか、地元デザイナーと一緒に開発したおしゃれなパッケージの缶詰でもぬか炊きを販売しています。それは宇佐美さんの「もっとたくさんの人にぬか炊きを知ってもらいたい」という思いから。

「福岡の名物を東京の人に聞くと、明太子に博多ラーメン、もつ鍋って応える人が多いと思います。でも、それって全部、福岡市のもの。北九州・小倉のぬか炊きを福岡の名物にしたいんです」。最近は、ぬか炊きのアレンジレシピも開発中。宇佐美さんにとって、ぬか炊きは後世に残したい郷土の味なのです。

旦過市場の魅力は、昔ながらの風情と人情

「昔、祖父の家に来たときは旦過市場の同年代の子どもたちと一緒に市場で遊びました。もともと住居を兼ねている店が多くて、売り場の後ろに茶の間があったり、TVが置いてあったりして。時代に合わせてお店はいくつか入れ替わりましたが、今もあの頃の雰囲気はそのまま。訪れた人には、お店の人とコミュニケーションを取りながら、買い物を楽しんでほしいですね」

取材後は、八百屋のおじさんにのせられて、仕事バッグの中にたっぷりの野菜を詰めることになった私。おすすめの食材を聞いたり、おいしい食べ方を教えてもらったりするのは、対面販売ならではの楽しみです。昔ながらの風情と人情が残る旦過市場に、あっというまに魅了されてしまいました。

施設情報はこちら

施設名
百年床 宇佐美商店

住所
福岡県北九州市小倉北区魚町4-1-30

電話番号
093-521-7216

営業時間
10:00~18:00、日曜・祝日は11:00~17:30

休業日
不定休

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

戸田 千文

九州支部 紙とWEBの編集ライター
戸田 千文

愛媛県出身、広島、東京での暮らしを経て、福岡で暮らすフリー編集ライターです。各地を転々としたおかげで、ローカルのおいしいモノ・楽しいコトに興味深々!
食いしん坊代表として、特にご当地グルメと地酒は無限の可能性を秘めていると感じます(笑)。首都圏と地方を結ぶ架け橋となるような仕事をしたいと奮闘中です。