
岩手県奥州市
2021.02.03
この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。
今回登場いただくのは、熊本の素材の味を大切にし、新鮮で身体に良い季節のフレーバーを使ったアイスを作る「阿蘇天然アイス」の石橋佑貴也さんです。
「阿蘇天然アイス」は、「アレルギーを持つ娘に、おいしく栄養のあるものを食べさせたい」という一人のお母さんの思いからはじまった、アイス屋さんです。お店を切り盛りする石橋佑貴也さんが「現在、地震の影響で再建中ですが、日本三大桜田門の一つで神社内に湧き水が湧き、夏の癒やされスポットナンバー1です」とおすすめするのが、阿蘇神社。「阿蘇天然アイス」から徒歩10分ほどの場所にある、阿蘇神社の総本社です。
石橋さんと阿蘇神社の思い出は幼少期の頃から。境内にある湧き水の池でタニシを獲って遊んでいたそうです。家族で行く初詣といえば阿蘇神社。大人になってからも厄払いをしてもらったり、友人の結婚式に参列したりと、石橋さんの暮らしの側には常に阿蘇神社がありました。阿蘇神社の近くで「阿蘇天然アイス」を創業して15年、現在は毎年商売祈願でお世話になっているそうです。
2000年以上の歴史を持つと伝えられる阿蘇神社。古来、阿蘇山火口をご神体とする火山信仰と融合し、肥後国一の宮として崇敬をあつめてきました。阿蘇開拓の祖で神武天皇の孫神といわれる健磐龍命(たけいわたつのみこと)をはじめとする12神を祀っており、全国に 500社を超える分社があります。
阿蘇神社の神殿や楼門など6棟は、国重要文化財に指定されています。中でも楼門は、「日本三大楼門」の一つといわれます。しかし、2016年に発生した熊本地震により楼門や拝殿が倒壊し、甚大な被害を受けました。現在は復旧工事が進められ、楼門などを見ることはできませんが、臨時の参拝所が設けられています。
熊本地震により、境内の社殿ほぼすべてが甚大な被害を受けた阿蘇神社。推薦者の石橋さんも、あるのが当たり前だった阿蘇神社が震災で倒壊し、喪失感や寂しさを覚えたと言います。しかしその反面で、石橋さんの友人が制作した復興のための動画を見て、ずっと身近にあるのに知らなかった阿蘇神社の歴史などを知るいい機会にもなったそうです。
全国的な支援を得て、令和6年度の完全復旧を目指す阿蘇神社。南北に構える鳥居の再建と、国重要文化財である神幸門、還御門や神殿の修理は完了したものの、拝殿など多くは現在も復旧工事中です。しかし、震災前と変わらず多くの参拝者が訪れ、取材日には新成人の晴れ着姿も見受けられました。
そんな阿蘇神社では、阿蘇の風物詩ともいえるさまざまな神事が行われています。また阿蘇神社をはじめ関係神社で行われる祭りは、1982年に国重要無形民俗文化財の指定を受けました。農耕の開始期に行われる「田作祭(火振り神事)」、田植期の「おんだ祭」、収穫期の「田実祭」など、四季を通じて行われる古式ゆかしい豊作を祈る祭りの一部をご紹介しましょう。
3月申の日(2021年は3月13日)に行われる「田作祭(火振り神事)」は、神様の結婚式の日でもあります。神職と随行の青年は、古い儀式を行いながら夕方阿蘇神社へ帰ってきます。参道へ集まった人々は、姫神を待ってたいまつを振ります。姫神は国龍神と夫婦の儀式を挙げられると、町民のうちふるたいまつの中を神輿に乗って、町内を道行(みちゆき)されます。この祭りが終わると、阿蘇に遅い春が訪れます。
阿蘇大明神が阿蘇開拓と農耕の道をひろめた神徳をたたえ、年々の豊作を祈る「おんだ祭(御田植神幸式)」。阿蘇神社では7月28日に開催されます。阿蘇神社に祀られている12の神々が4基の神輿に乗って行列を成し、神々の昼飯持ちである全身白装束の宇奈利(うなり)と呼ばれる女性たちなど約200人がお供をします。阿蘇の青田を巡る途中では「おんだ歌」が歌われ、ゆったりと阿蘇の田園風景を進む様子を見ることができます。
実りの秋を迎えたよろこびと稲作の完了を感謝する「田実祭」は、豊饒会とも呼ばれます。9月25日に開催され、最初の収穫米が神前に供えられる他、奉納行事として、願の相撲や流鏑馬が行われます。
神職、社家、町の人々によって阿蘇谷全体で行われる「阿蘇の農耕祭事」。農業被害を鎮め、豊作を願う人々の暮らしとともに古くから受け継がれ、阿蘇の人々の暮らしが阿蘇神社を中心に営まれてきたことがわかります。
※新型コロナウイルス感染症予防対策のため、2020年は一部の行事が中止され、関係者のみで行われました。神事の写真はいずれも2020年より前のものです。2021年の神事についても、中止される場合があります
阿蘇神社は厄払いなどの生活守護にご利益があるといわれ、パワースポットとして有名です。復旧工事エリア内にあるため、いずれも現在は年末年始のみ限定公開されています。
まず立ち寄りたいのは、謡曲「高砂」の松に縁がある「高砂の松」。その名の通り、良縁に恵まれると人気の松です。【男性 左より2回まわる 女性 右より2回まわる】と札に書かれた通りに回りましょう。
古代より神石として伝承保存され、南北朝の時代より祈願成就の神石として独自の信仰を得てきたとされる「願かけ石」。室町時代になると人々はこの神石に手を触れて願いごとを口々に唱えたそう。由来が書かれた札には【祈念にあたっては先ず心に願いごとを念じこの神石を撫でること三度更に願い事を唱えるべし】とあります。
阿蘇神社の参道は神社と平行に走る全国的にも珍しい横参道です。鳥居そばから続く仲町通りや栄通りを中心に店舗が立ち並ぶ商店街は、古い建造物や緑が多く、昔懐かしい情緒を感じさせます。
阿蘇は“九州の水がめ”と呼ばれるほど水に恵まれ、阿蘇神社がある一の宮もあちこちから清らかな水が湧き出ています。阿蘇神社参道にある手水舎も湧き水によるもので、「神の泉」とも呼ばれています。
不老長寿の水として知られ、阿蘇神社境内に湧き出る銘水「神の泉」をはじめ、門前町商店街には20箇所以上の水基(水飲み場)があります。それぞれ「金脈の水」や「文豪の水」と名付けられ、味も違うとか。湧水を使った阿蘇グルメを楽しみながら、水基巡りの散策も楽しいですよ。
私も子どものころから通っており、地域の守り神として愛され続ける阿蘇神社は、熊本のシンボルでもあります。そのシンボルが崩れてしまった時の衝撃は、今でも忘れることはありません。美しい阿蘇神社の早期復興を、心から願っています。
施設情報はこちら
施設名
阿蘇神社
住所
熊本県阿蘇市一の宮町宮地3083-1
電話番号
0967-22-0064
営業時間
御札所 9:00〜17:00
その2)
施設名
阿蘇門前町商店街
住所
熊本県阿蘇市一の宮町宮地 門前町商店街
電話番号
090-3321-3777(担当:クワジマさん)
※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。
九州支部 熊本ライター
今村 恵理
15年の東京暮らしを経て、熊本にUターン。熊本をはじめとした九州のおいしい、美しい、楽しいを探すこと、伝えることに夢中です。
取材をさせていただいた方が実際に使われた「言葉」を大切に、すーっと馴染むように読み進められる文章を心がけてライティングをしています。