静岡県沼津市

仲買人の真剣勝負の場「沼津港のセリ風景と漁船越しの富士山」

2020.11.02

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。
今回登場いただくのは、静岡県沼津の魚市場仲買人「有限会社かねはち」の代表取締役・杉本幸仁さんです。

沼津港といえば「サバのかねはち」

静岡県沼津市といえば、日本最大級の水門「びゅうお」(写真)がそびえ立つ沼津港。約1000種もの魚が水揚げされる海の幸の宝庫ともいえる沼津港では、全国のサバの年間水揚げ量の約70%が水揚げされます。そのうちの約7割のサバを買い付け「サバのかねはち」として有名なのが、昭和57年創業の「有限会社かねはち」(以下「かねはち」)です。

今回、「100年後まで残したい風景」を紹介してくださるのは、かねはち代表取締役の杉本幸仁さん(写真左から4人目)です。杉本さんは毎日セリに赴き、自ら新鮮な魚を買い付けるベテランの仲買人でもあります。そんな杉本さんが100年後に残したい風景は沼津港の「セリ風景」。

杉本さんは、保育園のころから先代社長である父にセリに連れて行ってもらっていたそう。そこで見た仲買人たちの勇ましい姿に憧れて、父と同じ仲買人の道を志しました。「セリは全国の食を支える重要な役割を果たしています。沼津で生まれ育った私が、一番好きな場所でもあります」と語る杉本さん。杉本さんが目を輝かせながら語るセリの魅力とは何なのか。一緒に沼津港に行った気分で掘り下げてみましょう!

早朝から威勢の良い声が響くセリ場

朝5時45分。沼津の街がまだ寝静まっている中、ひときわ活気にあふれた場所があります。ここは「沼津魚市場INO」(ぬまづうおいちば いーの、以下「INO」)1階にあるセリ場。セリ場には所狭しと新鮮な魚介類が並べられ、威勢の良い掛け声があちこちから聞こえてきます。INOは、2007年にオープンした水産複合施設。1階はセリ場、2階は見学者通路、展望デッキ、食堂などで構成されています。伊豆近海や駿河湾で漁獲されるカツオ・サバ・アジなどの近海漁が水揚げされ、ここから全国に出荷されます。

実はセリのやり方は全国各地でさまざま。紙に値段を書いて投票する方式もあれば指で値段を示す方式もありますが、沼津港では口頭で希望購入価格を伝える方式。セリ場のあちらこちらから「ぴんぴん!」「いんに!」とセリ特有の言い回しで、仲買人たちが勝負する声が響いてきます。こんな活気に満ちたセリ風景が見られるのは、沼津ならではです。

沼津のセリは、一般の方でもINO2階の見学通路から見学可能。赤い帽子を被った売り子が、20人以上になるときもある仲買人の声を一瞬で聞き分け、セリを仕切る様子は一見の価値あり!セリは午前5時45分から8時ごろまで続きますが、1回のセリは何と2秒で勝負が決まるというから驚きです。そんな一瞬の勝負を勝ち抜くには何か秘策があるはず。次はその秘策について探っていきましょう。

セリは激しい頭脳戦

セリは実は熾烈(しれつ)な頭脳戦。勝負が決まる2秒のために、2時間前から入念な下見をして戦略を組み立てていきます。頭の中に入っている顧客リストをめくりながら、「ここで買った方が良いか」「それともあえて1回逃して、あっちを買った方が良いか」と何パターンにも枝分かれした戦略を立てていきます。

戦略を立てる上で欠かせないのが視覚と触覚をフル活用した下見です。仲買人は、長年の経験から一目で鮮度の良し悪し、脂の乗りなどを見極めます。また、魚をぶら下げて持つと、鮮度の良い魚は赤ちゃんの肌のように何ともいえないぶるぶるした触感なのだそうです。

頭脳と身体を駆使して戦略を練り上げたら、いざ勝負。「セリは、頭で組み立てた何パターンものシーンから最適なものを一瞬で引き出して、1カット1カット作り上げていく感じです」と語る杉本さん。仲買人ってまるで映画監督……いや、戦国武将といった方が近いかもしれません。毎日セリ場で200人にも上る仲買人が、綿密な戦略を立て真剣に勝負していると思うと興奮してきます。

勝負である以上、当然負けるときもあります。そんなとき悔しくないのでしょうか。「負けても根に持たない。セリは、ほかの仲買人のセリの様子を見て、自分もより一層努力をしようとモチベーションをアップさせる場にもなっています」と清々しい笑顔で語る杉本さん。「今はどこも後継者不足。1軒でも減らないようみんなで頑張っていこうという気持ちですね」。仲買人はライバルであると同時に地場産業を盛り上げていく仲間。今日も明日も仲間と共にこのセリ場を守っていきたいと語る杉本さんの眼差しは、沼津に対する深い愛情であふれていました。

沼津の魅力が詰まった朝の絶景

杉本さんが、100年後に残したいと思う風景がもう一つあります。それは、セリ場の外港から見える漁船越しの朝日に照らされている富士山。その周りをカモメが飛び交っている風景を眺めていると何ともいえない心地よさを感じるそう。沼津の魅力を凝縮した絵画のようなこの風景。どんなに時代が進んでも、この美しい絶景は受け継いでいきたいですよね。

「沼津かねはち」でセリ場直送の海の幸を堪能

沼津に来たなら、ランチはぜひかねはちが経営する「沼津かねはち」で。幅広い世代に人気で、座敷席もあるのでお子さまづれでも安心してくつろげます。一番人気のメニューは、11種の魚介類があふれんばかりに盛られた特選海鮮丼。内容は、イクラ、マグロのすきみ、マグロの赤身、赤エビ、サーモン、アジ、アオリイカ、ホタテ、玉子焼きの9種とマダイ、サゴシなど旬の白身魚2種。アジや白身魚は、杉本さん自らその日の朝に競り落としたもの。朝獲れの海の幸をその日の昼に味わえるなんて、これ以上の贅沢はありません。

店内は、黒を基調とするシックな内装で心地よいBGMが流れます。絶品の料理、落ち着いた空間、そして店長の山本浩芳さん(写真)をはじめとするスタッフの配慮の行き届いた接客が相まって、至福のランチ時間を過ごせること間違いなしです。

センスが良い人の沼津土産はこれ!

旅の楽しみと言えばお土産選びですよね。こちらの「オイルサバディン」は、贈った方にセンスが良いと褒められること請け合いです。杉本さんの「地場産業を盛り上げたい」という思いから生まれたこちらは、第26回全国水産加工品総合品質審査会【東京都知事賞】、2018年優良ふるさと食品中央コンクール【農林水産大臣賞】を受賞するなど、高い評価を受けているかねはちの人気商品。一口食べると奥深い燻製の香りが鼻を抜け、食欲をそそります。ただおしゃれなだけでなく、和洋中どんな料理にもアレンジできる実力派。沼津からお帰りの際は、ぜひ連れて帰ってあげてください。かねはちと沼津かねはち、沼津駅近くの商業施設アントレ内の佐政水産で購入できます。

もう一品おすすめなのが「金目鯛のやわらか煮付け」と「沼津銀さばのやわらか煮付け」。こちらの商品は、袋を開けてレンジでチンの簡単調理ですぐ食卓に出せる優れもの。しかも骨ごと食べられるから、カルシウムやDHAもたっぷり摂取できちゃうんです。簡単に豪華な食卓を演出でき、しかも栄養満点。こちらもセンスの良さを褒められる一品ですよ!かねはちと沼津かねはちで購入できます。

「生きる」を支える沼津のセリ場

取材を終え、セリという真剣勝負の場があるからこそ日々の食が支えられているのだと強く感じました。食べることは生きること。「生きる」を支えるかけがえのない場所を今日も沼津の仲買人たちが守っています。帰宅後、オイルサバディンを沼津の風景を思い浮かべながら白いご飯とともに頬張ると感謝の気持ちでいっぱいになりました。

<今回の旅スポット>

沼津魚市場INO(ぬまづうおいちば いーの)
静岡県沼津市千本港町128-3
見学者通路 5:00~16:00
展望デッキ・魚食館 5:00~21:30
055-962-3700

沼津かねはち
静岡県沼津市千本港町109ダイノブセンター1F
【平日】10:00~19:00(L.O.18:30)
【土・日・祝】10:00~21:00(L.O.20:30)
定休日なし
055-954-0008

地域ナビゲーター

沼田 早織

中部支部 転妻ライター
沼田 早織

静岡県静岡市在住。転勤族の妻。数年おきに新しい土地に移住となるため、その時時に自分が生活している土地の魅力ある物やそれに携わる人々の想いを、日本全国の方々にお伝えするお手伝いができればと思っています。