北海道網走市

オホーツク海と灯台が織りなす絶景・能取岬

2023.03.16

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は北海道網走市にある農家の生活が体験できる宿「ファームイン・アニマの里」の永田朗さんと杉俣勇次さんから「能取岬(のとろみさき)」をご紹介していただきました。

北国の旅情を感じさせる岬と灯台

北海道の東部、オホーツク海沿いに位置する網走は流氷がくる街。流氷が見せるさまざまな自然の美を求めて、厳冬期には国内のみならず海外からも多くの観光客が訪れます。そんな網走市の観光名所のひとつが天都山(てんとざん)です。その麓で農家の生活が体験できる宿「ファームイン・アニマの里」を営むのがオーナーの永田朗さんと、スタッフの杉俣勇次さん(写真)。お二人が口をそろえて網走で最も好きな場所として紹介してくれたのは「能取岬(のとろみさき)」です。

「オホーツク海をバックにして広がる岬には、白と黒のツートンカラーの灯台が建っていて、いつ訪れても北国の旅情を感じます。ファームイン・アニマの里に宿泊するお客様にも、網走で行ってほしい場所として、まずは能取岬を紹介しています。大正時代初期に建てられた歴史ある灯台を含めて、100年先に残したい風景です」と杉俣さん。

網走在住のライター・桑原も、実は能取岬が網走で最も好きな場所。四季を通じて頻繁に訪れています。私がこれまでプライベートで撮影してきた写真もお見せしながら、能取岬の魅力をご紹介していきます。

これまでの旅の中で、最もインパクトのあった絶景

網走の市街地から車で約20分。オホーツク海に突き出す能取岬は、高さ40~50mの隆起断崖から成り立ち、眼下には岩礁地帯が広がっています。晴れた日には知床岬から羅臼岳(らうすだけ)、斜里岳(しゃりだけ)へと連なる知床連山が望めることから、四季を通じて網走らしい絶景が楽しめます。

私が能取岬を初めて訪れたのは1984年夏。北海道をバイクでツーリングしている時でした。網走の市街地からバイクを走らせ、岬の手前にある「能取岬」の標識に従って右折、木立に覆われた森を抜けると、突如として視界が開けました。電柱やガードレールのない道の向こうにはオホーツク海が広がり、草原の向こうに、ポツンと建つ灯台。それは北海道のツーリング中に見た数々の景色の中でも、最もインパクトのあるものでした。

牧歌的な風景が広がり、花々の咲く夏の岬

四季折々でさまざまな表情を見せる能取岬。夏には澄み渡った青い海と空の下、緑の草原が広がる牧歌的な風景を楽しむことができます。また、夏の能取岬は野生の花々が咲くスポットとしても人気。ユリ科の花は横向きに咲くものが多いなか、上向きに咲く「エゾスカシユリ」は、ハマナスと並んで夏の北海道を代表する花です。

能取岬の断崖で咲き誇るエゾカンゾウも、能取岬でしか見られない光景といえるでしょう。

大正初期に初点灯した歴史ある能取岬灯台

写真提供/紋別海上保安部
写真提供/紋別海上保安部

白と黒のツートンカラーと八角形が特徴的な能取岬灯台は、岬の風景を象徴する存在。灯台が初めて点灯したのは、1917(大正6)年10月1日のこと。1958(昭和33)年までは、灯台守が家族とともに近くの宿舎に住み込み、灯台の維持管理をしていたそうです。

現在は太陽光発電による電池を主電源とする高さ21mの無人の灯台ですが、初点灯から100年以上にわたって、大きなレンズでオホーツク海を照らし、沖合を航行する船舶の安全を守ってきました。灯台の光が届く距離は19.5海里、すなわち約36km先までを照らすことができるそうです。

流氷が接岸し、氷岬となる能取岬

能取岬が最も美しく、日本の中でも唯一といってもいい光景を見せてくれるのが冬。例年1月下旬から3月初旬ごろまでは、岬の下の岩礁地帯に流氷が接岸します。そのため、冬の能取岬を氷岬(ひょうきょう)と呼ぶ人も。

オホーツク海に突き出した能取岬は、網走で最も早く流氷が見られる場所。流氷が近づいてくると、風が冷たさを増し、空気も凍てつくように感じられます。私は流氷の接近を肌で感じると、能取岬まで車を走らせ、網走に厳冬期の訪れを告げる流氷を見に行きます。これは25年以上続く冬の習慣です。

通称ローソク岩のバックに流氷が見える光景は、能取岬を代表する絶景のひとつ。断崖と岩礁地帯、流氷が創り出す風景はさまざまな表情を見せ、凍てつく寒さの中でも見飽きることがありません。

風が吹き抜けやすい地形の能取岬では、雪が風によって浸食されて作られる自然の造形美「雪紋」も見ることができます。

厳冬期の能取岬をアクティブに満喫するツアー

写真提供/オホーツク自然堂
写真提供/オホーツク自然堂

冬の能取岬は岬周辺の遊歩道を散策するだけでも、絶景を堪能できます。でも「崖の上から流氷を見下ろすだけでは物足りない」「もっと近くで流氷が見てみたい」と思った方には、岬の海岸線を歩くツアー「網走で流氷体験! 氷の滝スノーアドベンチャー」がおすすめです。

写真提供/オホーツク自然堂
写真提供/オホーツク自然堂

ツアーを主催する「オホーツク自然堂」代表の梅林弘道(うめばやしひろみち)さんは、網走周辺や知床の自然や動物についての知識が、とても豊富なネイチャーガイド。オホーツク周辺の大自然に魅せられて大阪から網走へと移住し、2006年に「オホーツク自然堂」を開業しました。梅林さんが案内する真冬の能取岬周辺のツアーでは、滝の氷瀑と流氷のダイナミックな自然造形美が同時に楽しめます。

写真提供/オホーツク自然堂
写真提供/オホーツク自然堂

「網走で流氷体験! 氷の滝スノーアドベンチャー」では、雪上歩行具の「スノーシュー」を履いて能取岬近くの森の中を歩くスノートレッキングをして、流氷が打ち寄せる海岸へと降りていきます。

「ツアーでは、迫力ある氷瀑を見上げると同時に流氷も見られます。北海道の中でも希少な光景に出会えるツアーです」という梅林さん。海岸に打ち上げられた流氷に触れたり、アザラシやオジロワシ、オオワシ、エゾリス、モモンガといった動物が見られることもあるツアーは、厳冬期の網走の忘れられない思い出になるでしょう。

能取岬の絶景をいつまでも

写真提供/紋別海上保安部
写真提供/紋別海上保安部

灯台とオホーツク海、夏の草原と野生の花々、冬の流氷が織りなす能取岬の絶景は多くの人々を魅了してきました。私が年に何度も能取岬を訪れる理由も、四季を通じて変化に富んだ美しい光景に出会えるから。特に冬に氷岬となる能取岬の絶景の数々は、ほかでは決して見られないものだと思います。

しかし、地球温暖化による影響で、近年では流氷の勢力の減少が心配されています。「100年先にも冬の能取岬の絶景が見られるように、ファームイン・アニマの里では間伐材や廃材を燃やす薪ストーブをメインの暖房に、屋根に太陽光発電パネルを設置するなど、温暖化を少しでも防げるようにしています」と紹介者の永田さんは話していました。能取岬には、人と地球との関わり方さえも考えさせてくれる絶景があります。

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スポット名 能取岬灯台

住所 北海道網走市美岬

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

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施設名
オホーツク自然堂

住所
北海道網走市中園267-14

電話番号
0152-46-2777

ツアー詳細
網走・冬の半日ツアーは1月中旬から3月上旬まで実施(所要時間は約3時間)
料金・1名 5,000円(子ども 3,500円)
※コースの中に急坂の上り下りがあり、ある程度体力に自信のある方向けのツアーです。実施期間は天候状況によっては変更あり。時期によっては氷瀑の一部が崩れていたり、流氷が見られないこともあります、予めご了承ください。

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地域ナビゲーター

桑原 雅彦

北海道支部 フリーライター・編集者
桑原 雅彦

フリーライター、エディター。大学生の時にバイクツーリングで訪れた北の大地に魅せられ、1994年、生まれ育った大阪市から北海道網走市に移住。道内各市町村の観光パンフレットや町勢要覧など、印刷物の制作を主に担当。生産者の方々の熱い想いや、商品の背景にあるストーリーの数々をお伝えしていきたいです。