栃木県栃木市

標高341mの絶景と味を楽しむ「太平山と三大名物」

2023.01.12

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は栃木県栃木市にある栃木レザー株式会社の遅澤敦史さんに、「太平山と三大名物」をご紹介いただきました。

桜やあじさいを愛でる観光スポットとして人気の山

栃木市の中心部に位置する太平山県立自然公園にあるのが、標高341mの太平山(おおひらさん)。桜やあじさい、紅葉などの観光スポットとして多くの人でにぎわう一方、栃木市民の憩いの場として愛されている古里の山です。今回は太平山を訪ね、雄大な景色を堪能しつつ、太平山の三大名物「玉子焼き、焼き鳥、団子」を味わってきました。

今回、太平山を「100年先に残したいもの」として推薦してくださったのは、栃木市で動物の皮を革に加工する「タンナー」として、革の魅力を伝えている栃木レザー株式会社代表取締役の遅澤敦史(おそざわあつし)さん。人生の節目に太平山を訪れているという遅澤さんは「山頂では北関東が一望でき、あじさいなども楽しめる。そして、太平山の三大名物、団子、焼き鳥、玉子焼きは日本食の定番でもある。栃木市の名所、名物として、これからも変わらずにそこにあり続けてほしいですね」と語ります。
 
地元に愛される身近な山、太平山の魅力を体感するため錦秋の晴れた日、太平山に向かいました。

遊覧道路に入ると景色は一変。色づいた木々たちがお出迎え

東北自動車道栃木ICから、大型店舗が立ち並ぶにぎやかな大通りを抜け10分足らずで「太平山遊覧道路」に到着します。太平山をぐるりと巡る遊覧道路に入った途端、景色は一変。両サイドには雑木林が広がり、赤や黄色に色づいた木々たちが華やかな装いで出迎えてくれます。

山頂付近に鎮座する、1200年の歴史を持つ太平山神社

遊覧道路を10分ほど進み、山頂付近に鎮座する太平山神社に到着しました。車で本殿近くまで行くこともできますが、初夏は1000段の階段を登る表参道「あじさい坂」を歩くのもおすすめ。約2500株のあじさいを目当てに訪れる人が多くいます。

太平山神社は827(天長4)年創建。約1200年の歴史があります。禰宜の小林宣彦(こばやしのりひこ)さんによると、「太平山という名前も、『太平山神社がある山』ということで付けられたそうです」とのこと。境内にはさまざまな神様が祀られており、交通安全や家内安全、開運や厄除けなど、さまざまなご利益があります。

取材で伺った時、観光客とおぼしき人に混じって、身軽な服装の参拝者もちらほら。初詣や七五三、お宮参りといった人生のイベントでご祈願に訪れる人だけでなく、「毎日、太平山に登って参拝するのを日課としている人もいるんですよ」と小林さん。太平山神社が市民の暮らしの中に息づいているのを実感します。

「適度な自然」と「絶景」が太平山の魅力

山頂付近を中心に、多くのハイキングコースが整備されている太平山。小林さんは「太平山は山奥でもなく、かといって造られた自然ではない、散策にちょうどいい “適度な自然”があります。市街地からすぐの場所にありながら、そうした別世界を味わえるのが、大きな魅力ではないでしょうか」と話します。確かに、市街地から太平山頂へ至る風景の急激な変化には驚かされましたが、それこそが、人々を太平山に惹きつける大きな理由なのでしょう。

そして、もう1つ。太平山の大きな魅力が「絶景」です。「関東平野の北端に位置しているため、遮るものがないんです。北東から南に広く開けているため、場所によって違う景色が見られます」と小林さん。早速、神社から眺めてみると、色づいた木々の間から見える市街地、そして、遠方に筑波山のシルエット。標高わずか341mとは思えない、見事なパノラマが広がります。

神社に由来する、太平山で有名な三大名物とは

太平山でもう1つ有名なのが、栃木レザーの遅澤さんも「太平山を訪れたら、必ずといっていいほど食べます」と言っていた、「玉子焼き」「焼き鳥」「団子」の「三大名物」です。実はこの名物も神社に由来しています。その昔、暁を告げずに夜鳴きする鶏は忌み嫌われ、太平山神社に奉納されました。その鶏の卵焼きと焼き鳥で参拝客をもてなしたのがはじまりとか。また、奉納米を使って団子が作られ、いつしか名物になったそうです。

三大名物と聞いたからには、ぜひ味わいたいと、神社からすぐの茶屋「山田家」にお邪魔しました。

山田家では、女将の委文(ひとり)キエ子さんが出迎えてくれました。「下町を舞台にした人情ドラマに出てきそうな、人柄の良い女性が接客してくれます」と栃木レザーの遅澤さんが話していた通りの雰囲気を持つキエ子さん。飾らない朗らかな対応に、初めて訪れたにもかかわらず常連客のような親しみを覚えてしまいます。「『お母さん、元気?』って来てくれる人も多いですよ。ほっとする場所だと思ってもらえると嬉しいですね」とキエ子さんは笑顔で語ります。

この道50年のキエ子さんが作る玉子焼きは、同店の一番人気。市内の養鶏農家から仕入れる、餌にこだわった甘味とコクが特徴の卵を使用し、慣れた手つきで玉子焼きを作っていきます。キエ子さんは「玉子焼きは色が綺麗でしょ。自家製の出汁だけで、余計なものは入れていません」と誇らしそう。

素晴らしい景色を眺めながら三大名物を堪能

早速、三大名物をいただきます。料理を持って外へ出ると、目の前に広がる大パノラマに思わず感嘆の声が出てしまいました。聞けば、山田家からは栃木市街地が一望できるそう。圧巻の景色を楽しみながら、熱々の玉子焼きや焼き鳥を味わう。なんとも幸せな時間です。

肝心の料理の味はというと…玉子焼きは、ふんわりとした食感で、ほんのりとした甘み、自家製の出汁の旨みが程よく卵の風味を引き立てています。柔らかさが自慢の焼き鳥は通常サイズの倍はあろうかと思うほどボリューム満点です。

団子は、もちもちとしたヨモギと白玉の2種類です。あんこがたっぷり絡んだ団子はモチモチの食感で、春のお花見の時期の“準主役”として不動の人気を誇ります。

太平山には山田家のほかにも数々の茶屋で三大名物をいただくことができます。これらの茶屋が軒を連ねるのが遊覧道路沿いにある「謙信平(けんしんだいら)」です。かつて太平山に登った上杉謙信が、関東平野を見渡した際にあまりの広さに目を見張ったという故事からこの名が付けられたそうで、天気が良ければ富士山も見える眺望が人気。各茶屋には、屋外にいすとテーブルが配置されているため、景色を楽しみながら三大名物を味わうことができます。

小さい頃から記憶に刻まれる、古里の風景と味

太平山神社の階段に佇んでいると、背後からにぎやかな声が聞こえてきました。振り返ると、園児たちの集団が階段を登ってきます。遠足やマラソンなど、学校行事で訪れる機会も多い太平山は、子どもたちにとっても親しみのある山です。

「太平山は気分を切り替えたい時など、非日常を味わうために訪れます。不思議と気持ちが落ち着きますね」と語っていた栃木レザーの遅澤さん。取材後、その言葉に心から共感できました。小さい頃から身近な山として記憶に刻まれる太平山。それは、特別な場所であると同時に懐かしい場所でもあり、これからもずっと変わらずにいてほしい古里の風景と味なのだと。

スポット情報

施設名
太平山神社
 
住所
栃木県栃木市平井町太平山

電話番号
0282-22-0227


定休日
無休





施設名
山田家
 
住所
栃木県栃木市平井町659

電話番号
0282-22-4595

営業時間
10:00〜16:00

定休日
不定休

地域ナビゲーター

斎藤 里香

関東支部 ふるさとLOVERSナビゲーター
斎藤 里香

群馬県在住。北関東と埼玉を中心に取材・執筆活動をしています。いろいろな「コト」や「モノ」に携わっている人々の“代弁者”として、頑張っている姿や魅力、人々の思いなどを少しでも多くの人たちに伝えられたら嬉しいです。