北海道小樽市

“海獣”飼育頭数日本一を誇る「おたる水族館」

2022.11.09

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。
今回は、北海道小樽市生まれのスイーツ「ドゥーブルフロマージュ」を手掛けるルタオの佐々木絵里さんに、幼い頃から慣れ親しんだ「おたる水族館」と、併設された遊園地「祝津マリンランド」を教えていただきました。

歴史のまち小樽から全国区の人気スイーツが誕生

北海道観光の代表格といえば小樽市もそのひとつ。開拓期よりニシン漁で栄えたまちは、明治から大正にかけて“北のウォール街”と呼ばれるほど、全国屈指の経済都市として栄華を誇りました。

物流の拠点として作られた小樽運河は、埋め立ての危機を乗り越え、年間約250万人が訪れる小樽市観光のシンボルに。フォトスポットとしても人気の場所です。

明治・大正時代に建てられたとは思えないほど、スタイリッシュな歴史的建造物が立ち並ぶ日銀通りでは、重厚感あふれるその姿を見上げる観光客の様子が印象的に映ります。

その日銀通りのすぐそばにある、ひときわにぎやかな堺町通りに店を構える洋菓子舗ルタオは、“奇跡の口どけ”と絶賛されるチーズケーキ「ドゥーブルフロマージュ」で、全国的な人気になりました。

小樽の子どもたちになくてはならない「特別な場所」

ルタオの店名は、「小樽の親愛なる塔(La Tour Amitie Otaru)」をアレンジしたというだけあって、北海道産の良質な原材料にこだわり、地元愛に満ちたスイーツを作り続けています。

生まれも育ちも小樽というルタオの佐々木さんに、“100年先まで残したいもの”を伺いました。「子どもの頃から家族で行ったり、学校の遠足で利用するなど、小樽の子どもたちにとって、なくてはならない特別な場所ということで、おたる水族館です。今では、私が子どもたちと一緒に行って、隣の遊園地で遊んで帰ります」

市内中心部から海岸線を西へ15分ほど。小樽の美しい海を眺めながら、水族館がある祝津(しゅくつ)を目指しました。

北海道周辺で生息する魚や海の生きものを中心に展示しているおたる水族館は、全天候型の屋内施設で開催されるイルカショーや、日本ではここだけでしか飼育していないネズミイルカなど、希少な生物の展示も見どころのひとつです。

写真提供/おたる水族館
写真提供/おたる水族館

水族館の魅力といえば、厳しい環境下で懸命に種をつないでいく生態など、自然界を再現した学びの場であることはもちろん、大小70基あるさまざまな水槽を眺めているうちに、自然と心が和む癒しの空間でもあることでしょうか。

取材したこの日も家族連れやカップル、遠足の子どもたちなど、たくさんの来場者で賑わっていました。

豊かな自然と一体になった歴史ある水族館

写真提供/おたる水族館
写真提供/おたる水族館

今回ご紹介する「おたる水族館」の歴史は、さかのぼること90年以上前。1931(昭和6)年に小樽港で開催された「海港博覧会」から始まります。

会場に開設したミニ水族館が、大変な人気を呼んだことが発端になり、そこから紆余曲折を経て1958(昭和33)年、祝津の前浜に「北海道博覧会・海の会場」として誕生。1959年(昭和34)に市立小樽水族館としてスタートしました(1974年から株式会社小樽水族館公社)。おたる水族館は、市民が目にした博覧会での感動や喜びを後世にと願いを込めて、形にした施設なのです。

国定公園内にある自然豊かな水族館は、美しい祝津の海の景観もそのままに、小高い丘に本館が建てられ、坂を下った海岸に、トドやアザラシを展示する「海獣公園」を配置。潮風を感じながら、海の生き物たちに出合える構造になっています。

わくわくさせる工夫がいっぱい!“音のない水族館”の日も

2階建ての本館では、北海道周辺の魚類を中心に250種、約5000個体の生きものを飼育・展示しています。パノラマ回遊水槽や、海の中にいるような「360度の水槽」などが配置され、広々とした水槽内を悠々と泳ぐ魚たち。マグロやサメ、ウミガメなど、自然界では共存が難しい種も、同時に見ることができる不思議な感覚に、時間を忘れて見入ってしまいました。

「ほとんどの時間を岩の間で、顔だけ出して過ごすオオカミウオも、ここではなぜかすいすいと泳いでいます。これはとても珍しい光景なんですよ」と、小樽水族館公社の梅津真平さん。水族館は安心・安全な場所なのだと、魚たちが教えてくれているようでした。

生き物の説明ボードもわかりやすく、子どもたちでも読みやすい下部に配置されています。所々にクイズコーナーもあり、関東から来たという大学生に声をかけると、「魚のことはあまり詳しくわからなくて。クイズを通して勉強にもなりますね」と応えてくれました。

また、QRコードをスマートフォンで読み取ると、生き物たちの解説を北海道弁で聴ける音声ガイドも好評。施設内には、訪れる人をわくわくさせる工夫がたくさん散りばめられていました。

写真提供/おたる水族館
写真提供/おたる水族館

「聴覚過敏の障がいを持った方が、水族館で快適にお過ごしいただけるよう“音のない水族館”を定期的に実施しています。BGMやショーで流れるさまざまな音を消し、静かな中で鑑賞していただけます」と、梅津さん。

まるで海の中にいるような静寂に包まれた環境で、生き物たちの呼吸音まで感じとれるかもしれませんね。来場者の多様性に寄り添った、おたる水族館ならではの取り組みに、心が温まりました。

圧倒的な存在感!迫力あるトドのショーは大人気

北海道民にとって「おたる水族館といえばトド!」というほど、インパクトの強いトドをはじめ、アザラシやセイウチといった「ひれ脚類」の飼育頭数は全国一。オスは最大1トンにもなるという巨体で、ジャンプ台から豪快にダイブを披露するトドショーは、ひときわ大きな歓声が上がります。

トドは大きな見た目に反し、性格は穏やか。時々、スタッフの合図を無視するお茶目なトドもいて、場内は拍手と笑い声に包まれていました。秋になると、放り投げた大きな鮭を、垂直に丸飲みする「鮭は飲み物」と銘打ったイベントも好評で、待ちかねたファンもいるほどの人気ぶりです。

水族館で行われるショーは、時間が重ならないタイムスケジュールが組まれているのもポイントのひとつ。小さな子ども連れでも、慌てずに観覧できる気配りもうれしいところです。

エサやりの瞬間はおねだりアザラシの撮影チャンス

ゴマフアザラシやゼニガタアザラシなど、アザラシだけでも飼育頭数約50頭と、こちらも日本一。ワモンアザラシの繁殖では、世界で初めて成功しました。海獣公園ではエサの販売もしていますので、給餌しながら、アザラシたちから熱い視線を集めることもできます。みんな近くまで来てくれるので、絶好の撮影タイムですよ。

こんなに入って1杯100円!祝津の前浜でとれた鮮度抜群の魚は、季節によってホッケやコマイなど。付属のトングで給餌するのですが、投げ入れる時は、おこぼれを狙うウミネコやカラスにご用心。高く投げると、かなりの確率でさっと奪い去っていきますので、海面近く、低い位置からアザラシを呼び寄せて確実に落とす方がよさそうです。

水槽だけじゃない「自然の中で遊ぶ」姿も見られます

かわいらしさ満点の「ペンギンの海まで遠足(夏期)」は、数頭のフンボルトペンギンがヨチヨチ歩きでゆっくりと観客の前を歩き、数メートル先の海へダイブ! 

写真提供/おたる水族館
写真提供/おたる水族館

仕切りがされた自然の海で、ペンギンたちは魚を追いかけたり、水の中を飛ぶように泳いだりと元気いっぱい。その幸せそうな様子に、見ている観客も思わず笑顔がこぼれます。こうした「本来の姿」を見ることができるのは、おたる水族館最大の魅力ではないでしょうか。

子どもたちの歓声に応えるかのように、ペンギンたちは生き生きと自然の海を満喫していました。

永遠に残したいきれいな水質を誇る小樽の海

海獣公園に設置された「タッチプール」での一コマ。子どもたちが、ヒトデや貝、ウニなどの生き物に直接触って感触を確かめています。海藻も入っていて、さながら小樽の海のミニチュア版といったところでしょうか。

おたる水族館で使用されている海水は、目の前の海から汲み上げてそのまま利用しているとのこと。梅津さんに、水族館の生命線ともいえる、大型のポンプを見せていただきました。

「これはいかに、小樽の海がきれいな水質であるかということを証明しています。私たちにとって、この海は命そのもの。生き物たちが自然のままの海水で暮らし、毎日健康でいることが一番です。海から大いなる恩恵をいただいています」

小樽っ子が愛してやまない「100年残したい」水族館。そこで働くスタッフさんの笑顔も印象的です。イルカスタジアムの手前にあるペンギンブース「フンボル島」で出会った鈴木茜さんもそのひとり。

「北海道の厳しい自然環境の中で、たくましく生きる海の生きものたちを、この水族館で楽しく見てもらいたいです」

怖いアトラクションなし?ほのぼの遊べるレトロな遊具

水族館に隣接している「祝津マリンランド」は入場無料の遊園地。天気のよい日には、札幌市のJRタワーまで見える人気ナンバーワンの観覧車をはじめ、小さな子どもでも遊べるレトロな乗り物がそろっています。

乗り物券をきっぷ売り場で購入するシステムで、バッテリカーなど100円で乗れる遊具も。とても小さな施設ですが、どんな年代のひとも笑顔になれる、遊園地本来のあり方や原点を感じました。

ルタオの佐々木さんが「マリンランドで一番怖い乗り物」で、必ず乗ると教えてくれたバイキング。高く上がったところから見る景色も、思い出のひとつになりますね。

開業から半世紀。博覧会で見た海の生きものたちのリアルな姿が反響を呼び、市民が熱望して完成した水族館は、“持続可能”という言葉が世に出るはるか昔から、地元の人々の成長や人生の節目とともに、ここにありました。

今日も、そしてこれからも、青く美しい小樽の海はもちろん、北海道の大自然で暮らす生きものたちが連綿と命をつなぎ、100年先も私たちに喜びと感動をあたえてくれますように。

地域ナビゲーター

上坂 由香

北海道支部 地域ナビゲーター
上坂 由香

札幌市生まれ。中央競馬所属のトウショウシロッコに魅せられ、2007年から競馬を始める。馬に関する著述を各種媒体で行うほか、観光Webサイトのライターも手掛ける。2010年に引退したトウショウシロッコを引き取り、警視庁騎馬隊へ譲渡後、引退馬支援のボランティア活動を開始。第6回週刊Gallopエッセイ大賞受賞。