
新潟県
2022.08.26
日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、秋田県秋田市にある株式会社あくらの長谷川信さんに、国指定の重要無形民俗文化財「竿燈(かんとう)まつり」をおすすめいただきました。
秋田市の歓楽街・大町で、地ビールの醸造・直売、カフェ、レストランを営む「秋田あくらビール」。伝統的なドイツの製法にアメリカの新しい製法を取り入れた醸造方法で、横手産ホップやあきたこまちなどの県産材料を使用し、秋田を感じるビールをつくっています。
ビール職人の長谷川信さんに、秋田市の「100年先に残したいもの」について聞くと「竿燈(かんとう)まつりです!」と力を込めて即答。「東北三大祭りの一つでもある竿燈まつりは、秋田県人の心の拠り所になっている大事なお祭りです。新型コロナ感染症の影響で2年間開催中止になって、心にぽっかり穴があいたのと同時に、次の世代に伝承していかなければという気持ちが強くなりました」と話してくれました。
竿燈まつりの起源は、江戸時代にまでさかのぼります。もっとも古い文献は、寛政元(1789)年のもの。陰暦の7月6日に行われた行事を「ねぶり流し」として紹介しています。もともと、藩政以前から秋田市周辺に伝えられている「ねぶり流し」は、笹竹などに願いごとを書いた短冊を飾り、まちを練り歩き、最後に川に流すものだったとか。その後、ろうそくが普及し、お盆に門前に掲げた高灯籠などが組み合わさって独自の行事に発展した、といわれています。
始まった当初は「七夕まつり」や「ねぶり流し」と呼ばれていたまつりが「竿燈まつり」と呼ばれるようになったのは、明治時代のこと。明治14(1881)年に天皇が秋田巡行した際、当時の秋田市長・大久保鉄作が命名しました。
由来は、中国時代の禅宗の書の中にある「百尺竿頭須進歩(ひゃくしゃくかんとうすべからずしんぽ)」という言葉で、「すでに到達した極点より、さらに向上の歩を進める」という意味が込められているのだそうです。竿燈は光の稲穂に見立てられており、一つ一つの提灯は米俵を模しています。
それでは、まつりの見どころをご紹介しましょう。稲穂のようにしなる竿燈を支えているのは、人の体ひとつ。手や足、腰の絶妙な構えで、約50kgの竿燈のバランスを保つのです。竿燈の技は全部で5つあり、リレーのように次から次へと竿を渡しながら技を繰り広げていきます。帯の結び目の上に竿を乗せてバランスを取る技は、熟練した人にしかできない難易度の高いもので、技が決まると、観客から大きな拍手が沸き起こります。
熟練した差し手(竿燈を上げる人)は、静止したまま懐から扇を出してあおぐなどしてまつりを盛り上げます。さらに、一本歯の下駄をはいて演技をしたり、継ぎ竹をたくさん足して(最大8本)長く高く持ち上げたわわに実った稲穂のように、竿燈をぐっとしならせたりと、各町内こだわりの高度な技を見せてくれるのも見逃せません。
まつりに参加しているのは、秋田市内の38町内の竿燈会に、企業や学校など36団体を合わせて74団体(2022年は65団体参加予定)。それぞれの町内や団体に伝わる技があり、お囃子の節回しや太鼓の叩き方も微妙に異なります。基本のリズムに独自のアレンジを加え、玄人好みのお囃子を奏でる町内もあり、耳のいい人は聞き分けて楽しむのだそう。
まつりの本番は夜ですが、日中は「竿燈妙技大会」が開催され、各団体が技を競い合います。団体既定演技、団体自由演技、個人演技、お囃子のほか、子どもの演技もあり、最高の演技を見せようと優勝を目指して真剣勝負が繰り広げられます。自由演技では、「花傘」や「纏(まとい)」などの小道具を駆使した美しい技を見ることもできます。
今回、竿燈まつりについてお話をうかがったのは、秋田市竿燈会の会長・加賀屋政人さんです。2〜3歳の頃から家族に手を引かれて祭りを見に行ったという加賀屋さんが、本格的に竿燈を始めたのは高校生の時。最初はバランスがうまく取れず、竿が重くて大変だったそうですが、練習を重ねてコツをつかんでいくうちに、余計な力を使わずに持ち上げられるようになったとのこと。「技の習得に難儀(苦労)した人ほど、上手になっていくんですよ」と話す加賀屋さんの笑顔から、竿燈に対する深い想いが伝わってきます。
昭和6年に秋田市竿燈会が発足してから、90年以上が経ちました。各町内で個別に行われてきた祭りから、一つの場所に集まる大きなまつりへと変化し、現在の竿燈大通りで開催されるようになったのは昭和47年以降です。それに伴って、竿燈が引っかからないように大通りの電線を全て地中化し、街灯も提灯の形にするなどの整備がされてきました。秋田市竿燈会は、参加団体の調整や、竿燈まつりの伝統を継承するために市内の小学校へ指導に行くなど後進の育成にも力を入れてきました。
秋田市竿燈会は、全国各地を訪れて竿燈演技を行ったり、竿燈まつりの歴史や魅力について動画を作って配信するなど、積極的に活動を行っています。竿燈大通りの近くにある「ねぶり流し館(秋田市民俗芸能伝承館)」では竿燈について知るだけでなく、実際に持ち上げる体験をすることもでき、地元の人たちにも観光客にも人気のスポットとなっています。
推薦者の長谷川さんが「秋田市にずっとこのまつりが続いてほしい」と願っていたように、加賀屋さんも「江戸時代から続く祭りを、次の世代の子どもたちへと伝えていくのが私たち竿燈会の使命です。竿燈をしたくて参加する子どもたちに、いい思い出を作ってあげたいです」と話します。これほどまでに市民に愛されるのですから、きっと100年後の秋田市でも、夏の竿燈大通りにはたくさんの光の稲穂が輝くに違いありません。
名称
秋田竿燈まつり 毎年8月3日〜6日に開催
会場
メイン会場:夜本番…竿燈大通り/昼竿燈(妙技会)…エリアなかいちにぎわい広場
電話番号
018-888-5602(秋田市竿燈まつり実行委員会)
※情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際はホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。
東北支部 フリーライター
島田 真紀子
秋田県大館市在住。(有)無明舎出版勤務を経て、フリーライターとしてWEBや雑誌の記事を書いています。秋田県を中心に、観光や食、子育て、話題のスポットなどについて発信。全国の皆さまに秋田の魅力を知っていただき、「秋田面白そう!行ってみたいな!」と思っていただけたら嬉しいです。