山口県宇部市

月ごとに気持ち改める場所、「琴崎八幡宮」

2021.11.26

この記事では、日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介します。
今回スポットをご紹介頂いたのは、宇部市で魚屋「魚千代」を営む村田稔さんです。

地元で親しまれる「はちまんさま」

山口県宇部市の鎮守社(ちんじゅしゃ)として知られる琴崎八幡宮(ことざきはちまんぐう)は、地元では「はちまんさま」と慕われて、初詣スポットとして必ず名が挙がる神社です。「はちまんさま」は日本一お守りが多い神社で知られており、その数なんと850種類以上!涼やかな音色が境内に響く「風鈴祭り」も夏の風物詩として人気です。

また、神社は参宮通りと呼ばれる国道490号線沿いにあり、初めての人でもお参りしやすい好立地。地元の参拝者が多く足を運んでいる雰囲気が、広い参道から感じられます。

宇部で営む魚屋として始めた「朔日参り」

今回「琴崎八幡宮」を紹介してくれたのは、地元参拝者のひとり、魚屋「魚千代(うおちよ)」の村田稔(むらた みのる、写真左)社長。お会いすると、とても明るくひょうきんな方ですが、ふとした瞬間に魚一筋の真面目なお顔がのぞく魅力的なキャラクターです。そんな村田さんが、数年前から毎月欠かさず行っているのが琴崎八幡宮への「朔日参り(ついたちまいり)」。宇部市にある魚屋として、宇部の鎮守社へお参りし、毎月気持ちを改める機会を大事にしようと考えたそうです。

月の初めの早朝、心新たにお参りする

「朔日参り」とは、毎月一日の早朝に、その月の安全や繁栄を祈る参拝のことです。月の初めを心新たに迎えることは、自分を見つめ直し、誓いを立てることでもあるのだとか。神様にお供えするものとして、琴崎八幡宮ではその日、感謝と祈りを表す御神酒(おみき)がずらっと並ぶそう。村田さんも毎月、日本酒の一升瓶をたずさえてお参りするとおっしゃっていました。

1160年余の歴史を誇る、末広がりの八幡さま

ここからは、権禰宜(ごんねぎ)の白石憲一さんに教えていただきます。

「琴崎八幡宮の由緒はとても歴史深く、平安時代の859年にさかのぼります。行教(ぎょうきょう)という僧が大分県の宇佐八幡宮(現・宇佐神宮)から、御分霊を京都府の石清水八幡宮に迎えた際に、海がしけたため宇部にある琴芝の浦に船を寄航し、御分霊をこの地にとどめました。里の人が御神徳を敬い慕って祠(ほこら)を建てたのが始まりです。その後、幾度か宮を遷しているのですが、厚東氏や大内氏、毛利氏など、代々の領主に崇敬され、当時の国事について祈っていたとの記録もあります」。

「社殿は、『三間社流造り(さんげんしゃながれづくり)』が特徴で、昭和11年に最高級のヒノキを使って新築されました。拝殿の奥に神様が鎮座する御本殿があり、『八幡さま』が祀られています」と白石さん。

「八幡さま」とは、応神天皇(おうじんてんのう)のこと。戦国時代は勝負の神「弓矢八幡」として武将たちの崇敬を集めていたそうで、これを受けて現代では、スポーツ各界の関係者が必勝祈願に訪れることも多いそうです。

参拝者の思いに応えて揃った880種類以上のお守り

「そもそも八幡さまは限りない御神徳をお持ちで、勝負事だけではなく全てにおいてとても縁起が良い、オールマイティな神様なんですよ」と、白石さん。

それを表しているのが、琴崎八幡宮が頒布する880種類以上のお守り。その数はなんと日本一といわれています。境内にはお守り授与所が別棟であり、中に入ると交通安全のお守りだけでも100種類以上。他に縁結びや家内安全、商売繁盛などを願うお守りがずらりと並び、迷ってしまいそうです。

人気が高いのは、自衛官や警察官、消防士など公務別のお守り。災害支援に当たる方のためにと、参拝者の思いに応えて作られたものだそう。

女性に人気が高いのは、幸せを呼ぶ鏡守り。鏡は三種の神器の一つでもあり、不思議な力で幸せを引き寄せるとも言われています。

大きな大きな安産守も大人気。写真の通り、横にある普通サイズのお守りと比べると、その大きさは一目瞭然。実は琴崎八幡宮では、応神天皇のほかにも、その父母である仲哀天皇(ちゅうあいてんのう)と神功皇后(じんぐうこうごう)も祀られています。「特に神功皇后は安産や縁結び、家内安全、子授けの神として崇拝され、ご利益を願う方が多いですね」と白石さん。なるほど、幸せの象徴でもあるのですね。そう聞いて、私も同じ女性として感じるものがあり、改めてお参りをしました。

清らかな音で禍を祓う。夏の風物詩「風鈴まつり」

顔を上げると、境内には美しい彩りの風鈴の数々が風に揺れています。先ほどから白石さんに話をうかがいながら、チリンチリンと耳に優しい音を奏でていたのは、これだったんですね! 好きな色柄の風鈴を選び、短冊に願い事を書いて掛ける女性たちが、次々とやってきます。7月半ばから9月初めまで行われる「風鈴まつり」は、琴崎八幡宮恒例の行事。涼やかな音と写真に撮りたくなる色合いが人気を呼び、SNSでも話題です。

「風鈴まつりは2018年から始まり、今では夏の風物詩として皆さんに親しまれるようになりました。鈴の音は、昔から巫女舞や神楽で使われるように神様に捧げられる神秘的な音で、清らかな響きには禍を祓う力があると信じられています。

「江戸時代には、邪気をはらうものとして風鈴が軒先に吊るされたそうです」と白石さん。境内に掛けられた風鈴の願い事には、やはりコロナ収束を望む言葉が多いとか。「こういう時代なので、皆さんに書いていただいた願いとともに祓い清めたいと思います」。掛かっている風鈴は3000個以上とのことでしたが、今後もまだまだ増えていくようでした。

清々しい空気が流れる不思議な場所

「神社とは、日本人が古来より大事にしてきた『赤誠(せきせい/一点の曇りもない誠の心、まごころ)』に立ち戻り、利他の心を持てる場所なんです」と白石さん。琴崎八幡宮も、たくさんのお守りや風鈴を通して、自分以外の誰かのために願う「まごころ」を育む場所なのでしょう。さまざまな願いを抱いて参拝する方が多いにもかかわらず、その表情は清々しかったり明るかったりするのが印象的でした。
 
お参りすることで清らかな空気をまとい、「まごころ」に立ち戻れる琴崎八幡宮。100年先に残したい場所としてここを紹介してくれた「魚千代」の村田社長が、毎月欠かさず朔日参りをする気持ちも、分かったような気がします。

施設情報はこちら

施設名
琴崎八幡宮

住所
山口県宇部市上宇部大小路571

電話番号
0836-21-0008

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

河津 梨香

中国支部 ふるさとLOVERSナビゲーター
河津 梨香

山口県萩市在住。広島で15年ほど編集やもの書きをし、地域おこし協力隊として山口県に帰ってきました。生活の中にある本質的なものに魅了され、その地域ならではの魅力や人々が紡いできたものを受け継ぎ、実践したいと思っています。萩のそんな部分に光を当てるリトルプレス『つぎはぎ』を、仲間3人と作っています。