北海道長沼町

命に感謝。「いただきます」を学ぶ牧場

2021.10.30

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は北海道長沼町で加工食品等を製造・販売する「長沼あいすの家」の山口幸太郎さんに、長沼町にある「ハイジ牧場」をご紹介いただきました。

ふれあいを通じて食育を学ぶ

「・あいすの家・」は、北海道長沼町近郊の生乳で作ったアイスクリームやチーズ、厳選した北海道産食材使用の加工肉などの製造・販売を行っている食品会社です。代表取締役の山口幸太郎さんが、長沼町内で「100年後も残したい」とおすすめしてくれたのが「ハイジ牧場」です。

石狩平野を一望する「ハイジ牧場」は、さまざまな家畜や小動物を飼育しており、動物たちとふれあえる観光牧場として親しまれています。山口さんは、実父であり先代社長の真功(まこと)さんが、仕事が忙しい合間に連れて行ってくれた思い出の場所であり、「乳しぼり体験は、動物のかわいさだけでなく、食育にも通ずるものがある」と言います。

長沼町近郊の小学校の遠足の場として利用されることも多く、私も子どもの頃の思い出や、親として子どもを連れてきた思い出が、たくさん詰まっています。

体験型牧場のパイオニア

「ハイジ牧場は、昭和45年に勇払郡安平町にある金川(かながわ)牧場の肉牛部門として長沼町に開設されました。現在地で家畜の品種収集が行われ、品種改良や、品種保存の意味をこめて、馬・豚・羊属、鳥類などを畜舎ごとに展示。昭和51年にこの部門を「ハイジ牧場」として一般開放しました。

かつては札幌近郊でも一次産業が盛んに行われており、家畜は身近な存在でした。しかし都市化とともに牧場や養鶏場が減少。動物と触れ合う機会が奪われたことや、スーパーに並ぶ肉や魚はパックで売られるため、人々の間に「生き物の命をいただいている」という認識が薄らいでしまいました。

ハイジ牧場は早くから「教育牧場・ふれあい牧場・体験牧場」をテーマに掲げ、子どもたちに命の大切さや尊さを伝えています。私も小学生の時に遠足で訪れ、さまざまなことを教えてもらいました。そのおかげで大人になった今も、食べ物を大切にする気持ちを持ち続けられています。

久しぶりに訪れたハイジ牧場は昔とまったく変わっていません。親子三代に渡って来園されるお客さんも多く、金川幹夫社長は、「ハイジ牧場は北海道のディズニーランドと言ってくれる方もいるんですよ」と、嬉しそうに教えてくれました。

人間とともに生きる家畜たち

ハイジ牧場にいる動物たちのほとんどが、牛や馬などの家畜です。人と家畜の歴史は古く、1万5千年前にハイイロオオカミを家畜化した犬が最初と言われています。紀元前8000年頃に山羊・羊・豚、紀元前6000年頃に牛が家畜化されました。家畜は生まれながら、食肉、乳、卵、毛皮、労働などの目的が与えられており、何度も改良が加えられて今日に至ります。

牛舎には三種類の牛が飼育されていました。ホルスタインは、ゲルマン民族とともに西に移動し、オランダで乳用種として改良。ミルキングショートホーンは世界で最も古い品種の一つで、イングランド北東部に誕生した乳用種。ブラウンスイスは、スイス原産の乳・肉・役用兼用のスイス・ブラウン種が、アメリカで乳専用種に改良されたなど、牛の成り立ちを知ることで、人がどのように関わってきたのかを理解することができます。

体験を通して命の尊さを知る

乗馬や牛の乳しぼり、山羊の哺乳体験ができるのもハイジ牧場の魅力です。気軽に触れ合いたいなら、エサやりがおすすめ。柵に近づくと、もふもふの毛皮をたたえた羊が近寄ってきました。「野生動物とちがって、家畜は長い時間をかけて人間との関係を構築してきました。だから人に対する警戒心が薄いんです」と金川さんはいいます。

エサをあげた羊がジンギスカンになると知り、泣き出してしまう子もいるそうです。小さなうちは理解することは難しいと思いますが、ハイジ牧場でさまざまな体験をすることで、家畜はペットと違うことや、人間に対する役割を担っていること、「いただきます」という挨拶は、生き物の命をいただくことへの感謝の言葉であり、だからこそ食べ物を無駄にしてはいけないことを学んでほしいと思いました。

心ゆくまで大草原を堪能する

100ヘクタールの広大な敷地をトラクターを改造した「アルプス号」が一周しています。牛舎などがある「アニマルゾーン」を出発したアルプス号は丘の上のロータリー展望台を経由して、メインストリートの反対側の坂を下ります。牧歌的な光景は美しく、時を忘れて見とれていました。

「丘の上の草原」は、風が強く凧あげに最適。街の公園では電柱や、近隣の家が気になりますが、ここでは気兼ねなく楽しむことができます。歓喜しながら風と戯れる家族がほほえましく思えました。

100年前から100年後にタスキを届ける

金川さんは、「この土地は、父親以前に誰かが開拓した土地で、重機が入れないような斜面も家畜によって整備された形跡があります。そうした土地を放置せずに家畜の協力を得て活かしていきたいです」と言います。今後は加工食品の製造・販売に力を入れることを計画中。「見て、体験して、味わえる牧場にできたらいいですね」と、夢を語ってくれました。

ハイジ牧場で過ごした一日は、子どもの頃と、親としての自分が交差する不思議な時間でした。楽しそうにヤギにエサをあげている少年も、いつしか親になり、子どもの姿に幼き日の自分を重ね合わせることでしょうね。

施設情報はこちら

施設名
ハイジ牧場

住所
北海道夕張郡長沼町東9線南2番地

電話番号
0123-88-0011

定休日
毎週水曜日 ※祝日の場合は営業

営業時間
10:00〜16:00 

https://www.heidi-farm.com/

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

吉田 匡和

北海道支部 地域ナビゲーター
吉田 匡和

札幌市出身、在住。社会福祉士の資格と経験を持つ異色の「おでかけ系ライター」。2016年にフリーライターに転向し、2017年に個人事業所「ブーレオルカ」を設立しました。「楽しさが伝わる」、「すべての人に有益である」、「記憶に残る」の3つを信条に執筆しています。