岩手県盛岡市

街と人と、ともに息づく「盛岡さんさ踊り」

2021.10.05

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、岩手県盛岡市にある中原商店の小野高史さんに、郷土芸能「さんさ踊り」をおすすめいただきました。

「盛岡冷麺」を販売する中原商店が100年先に残したいもの

盛岡を代表する名物といえば、「盛岡冷麺」があります。中原商店が営むぴょんぴょん舎の「盛岡冷麺」は、うま味のあるスープにコシのある麺がからみ、ツルツルッとしたのど越しがたまらない逸品で、焼肉のシメに食べる人も少なくありません。

そんな中原商店の小野高史さんに、盛岡市の100年先に残したいものについてお聞きすると「何と言っても盛岡さんさ踊りです。さんさ踊りは幼稚園や小学校で教わりますし、地域の夏祭りでも必ずといっていいほど踊ります。地元の人たちにとって、気がつけば身近にあるのが盛岡さんさ踊りなんです」と教えてくれました。

県名の由来にもなったといわれる三ツ石神社の「三ツ石伝説」

写真提供:盛岡さんさ踊り実行委員会
写真提供:盛岡さんさ踊り実行委員会

 盛岡さんさ踊りの発祥については諸説ありますが、最も多く語られているのは盛岡市内にある三ツ石神社にまつわるもの。昔、この土地の人々を苦しめていた鬼が三ツ石の神様に退治され、「もう悪さはしません」という誓いの手形を大きな三ツ石に残して去りました。そのことを喜んだ人々が、「さんさ、さんさ」と踊ったことが始まりなんだとか。ちなみにこの時、“鬼が岩に手形を残した”ことが、岩手という名前の由来になったとも言われています。

地域ごとに継承されてきた伝統さんさ踊り

写真提供:盛岡さんさ踊り実行委員会
写真提供:盛岡さんさ踊り実行委員会

藩政時代頃から、お盆を中心に各地域で踊られてきたさんさ踊り。地域ごとに踊りの型や太鼓のリズムが違っていたそうです。娯楽が少ない当時の人々にとって、さんさ踊りは老若男女がみんなで楽しめる大切なもの。もしかしたら、ほかの地域と競うこともさんさ踊りの醍醐味だったのかもしれません。
さんさ踊りには、大きくわけて「伝統さんさ踊り」と「統一さんさ踊り」の2種類があります。「伝統さんさ踊り」は各地域ごとに継承されてきた踊りを指し、昭和50年代になって「誰もが踊りやすく親しみやすいものを作ろう」と新たに考案されたものが、「統一さんさ踊り」と呼ばれています。

夏に華を添える「ミスさんさ踊り」

写真提供:盛岡さんさ踊り実行委員会
写真提供:盛岡さんさ踊り実行委員会

「 統一さんさ踊り」はさんさ踊りのPRイベントでも踊られており、その踊り手はミスさんさ踊りコンテストで選出された「ミスさんさ踊り」が務めます。そのほかに太鼓、笛、唄のスペシャリストとして「さんさ太鼓連(ミス太鼓、ミス横笛、うたっこ娘)」が選出され、毎年8月に開催される「盛岡さんさ踊り」では、先頭を切って素晴らしいパレードを披露。惚れ惚れするほど美しいその所作は、思わず見入ってしまうほどです。

100万人以上の人がさんさ踊りに酔いしれる

写真提供:盛岡さんさ踊り実行委員会
写真提供:盛岡さんさ踊り実行委員会

 「盛岡さんさ踊り」は、毎年8月1~4日に街の中心部で開催されるお祭りで、全国各地はもちろん、海外からも観光客が訪れます。その始まりは昭和46年8月に開催された「盛岡川まつり」というお祭りで、それから40年以上の月日を重ね、現在のような太鼓や笛、掛け声を響かせながら踊る大パレードへと発展していきました。
盛岡さんさ踊り実行委員会事務局の歳弘薫(としひろ・かおる)さんにお話しを伺うと、「参加団体は年々、増加傾向にあり、2019年に開催された第42回には延べ253団体、35,500人に参加していただきました。来場者数は過去最多となる149万人以上で、熱気に満ちていました」と教えてくれました。2020年と2021年は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止になりましたが、来年度以降、無事に開催された年の盛り上がりようは史上最高潮に達する予感がしています。

市の無形文化財に指定された伝統さんさ踊り

そして、さんさ踊りの見せ場は8月のパレードだけではありません。さまざまなイベントに出演したり子どもたちへの指導を行ったりと、多くの団体が年間を通して継続的な活動を行っています。今回はその中の一つ、伝統さんさ踊りを継承する「盛岡さんさ踊り清流」の事務局長を務める関口みどりさんにお話しを伺いました。
「盛岡さんさ踊り清流」は1958年に発足して以来、伝統さんさ踊りの保存や継承に関する活動を続け、1991年には盛岡市無形文化財に指定されました。ほかの地域に比べてテンポが早く、太鼓の演奏者がバチを頭上で半回転させる“バチ返し”を披露するのが特徴です。

歴史と魅力を一人でも多くの人に届けたい

母が「盛岡さんさ踊り清流」の立ち上げメンバーだったという関口さん。小さな頃からさんさ踊りに触れて育ち、やがては自分も太鼓を叩きたいと清流に入会します。しかし当時は「太鼓は男性が叩くもの」という認識が一般的で、女の子に太鼓は叩けないと言われたこともあったそうです。それでも周囲の支えや持ち前の負けず嫌いの性格を糧に練習を重ね、高校生の時には「さんさ太鼓連」の中の「ミス太鼓」に抜擢。9年間に渡って活動を続けたという実力の持ち主です。さらに今年は、ミスさんさ踊りの指導も担当しています。

関口さんは「盛岡という街が大好きですし、さんさ踊りはこの街になくてはならないものだと思っています。県外や海外の方に知って頂きたいのはもちろん、盛岡で暮らす人たちにも、さんさ踊りの歴史や魅力をもっと知っていただきたいです」と語ります。先人たちが踊り伝えてきた大切な文化を守り続けること、そして未来の後継者を育て、しっかりと受け継いでいくことを目指していると教えてくれました。

いつの時代もさんさ踊りは人々とともにある

写真提供:盛岡さんさ踊り実行委員会
写真提供:盛岡さんさ踊り実行委員会

 2020年に8月のパレードが中止になり、さんさ太鼓や笛の音が聞こえない夏を経験して、私は初めて“さんさ踊りのある風景”が当たり前になっていたことを実感しました。さんさ踊りはこの土地で暮らしてきた人々が、心と体に刻んできたリズムです。そしてそれは、現代を生きる私たちにも遺伝子のように自然と刻まれているのかもしれません。
今回の取材を通して、どんなに時が経ってもこの土地からさんさ踊りが消えることはないように感じました。この土地で自然と生まれたものだからこそ、それは常にこの街や人とともにあり続ける。100年後の未来を生きる人たちも、きっと笑顔でさんさ踊りを踊っているのではないかと思いました。

※取材協力:盛岡さんさ踊り実行委員会、盛岡観光コンベンション協会

施設情報はこちら

施設名
盛岡さんさ踊り ※例年8月1〜4日に開催(2021年は新型コロナウイルス感染症拡大のため中止)

住所
メイン会場:岩手県盛岡市 中央通会場(県庁前~中央通二丁目)ほか

電話番号
019-624-5880(盛岡商工会議所内 盛岡さんさ踊り実行委員会)

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

山口 由

東北支部 ふるさとLOVERSナビゲーター
山口 由

2011年、東日本大震災をきっかけに横浜から盛岡へUターン。現在はフリーライターとして、お店や人材の紹介、学校案内、会社案内、町の広報誌など幅広く活動中。取材を通して出会うさまざまな人の思いや歴史を知り、「岩手ってすごいなぁ」と実感する日々を送っています。趣味は散歩と読書、長距離ドライブなど。