新潟県津南町

新潟と長野の食文化を融合した手打ちそば

2021.09.07

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。
今回「100年先に残したいもの」ご紹介いただいたのは、新潟県津南町にある越後雪椿産業株式会社の小林善仁さんです。

ミネラル豊富な雪どけ水が生活に根ざすまち

新潟県の最南端、雄大な自然に囲まれる津南町。日本有数の豪雪地帯であり、毎年3メートルも降り積もる雪を活かした雪まつりやスノーアクティビティ、雪の下で甘く熟成させる「雪下人参」が有名です。

人々にとって雪は生活の一部であり、春になるとミネラル豊富な雪どけ水でコシヒカリを栽培するなど、自然の恵みを活かした雪国文化が根付いています。

”ミシュラン星付き店ご用達のお米生産者”が絶賛するお店とは?

ここ津南町で、ミシュラン星付きレストランご用達の魚沼産コシヒカリを手がけているのが「越後雪椿産業株式会社」です。世界が認めるハイクオリティな味わいは、お米にとって贅沢すぎる「津南の自然環境があってこそ」とスタッフの小林善仁さんは言います。
 
津南で生まれ育ち、津南を愛する小林さんに「100年先に残したいもの」について尋ねたところ、教えてくれたのが「手打そば処 とみざわ(以下、とみざわ)」でした。

「昔からよく通っているお店です。数量限定の手打ちそばが有名で、ていねいな仕事に思わずうなってしまいます。津南のミネラル豊富な水を使っていることも、きっと美味しさの秘訣でしょうね」
 
新潟県のそばといえば、海藻の布海苔(ふのり)をつなぎとして練り込むのが定番で、「とみざわ」のそばもやはり布海苔入りとのこと。ですが、ここ津南町は新潟県の最南端、長野県の県境。その他にも、ちょっと変わった特徴があるようです。新潟と長野の食文化をミックスした極上そばを求めて、お店を訪ねました。

そば街道に佇む40年以上続く人気店

新潟県の小谷市、十日町市、津南町、そして長野県栄村につながる国道117号線、通称「そば街道」。そばの名店が軒を連ね、そば愛好家から親しまれるこの道路沿いに「とみざわ」は店を構えています。

店内はテーブル席と小上がりの畳席を備えた和の造り。平日にも関わらず、次々とそばを求めるお客さんでいっぱいになり、そのほとんどが「手打ちそば」を注文していきます。

メニューを広げると、「手打ちそば」「細打ちそば」のお品書きが目に入ります。麺の打ち方とあわせて、もり、ざる、天ぷら、とろろなどからセレクトできるようです。ここは迷わず「手打ち」でしょう!
 
「当店の手打そばは、地粉100%です。こねる、打つ、切る、すべて手作業です」
 
温かな手書き文字で書かれたこの文言に、期待で胸が膨らみます。今回は店主さんおすすめの「舞茸天ざる」をいただくことにしました。

店主一押しの「舞茸天ざる」を実食!

オーダーしてから約10分、登場したのがこちら。ツヤツヤと瑞々しいそばに、さっくり揚がった天ぷらが美味しそうです。それではさっそく、いただきましょう。

まずは出汁が香るつゆをそば猪口へ。枕崎産極上本枯など、産地の異なる3種類のカツオ節を使用。春秋冬は濃厚なカツオと昆布の合わせ出汁、夏はすっきりとしたカツオ出汁と季節によって変えているそうです。

この手打ちそば、見た目が独特です。まるできしめんのように平たく、太い麺と細い麺が混じっています。冷たいつゆにさっと付けて、一口すすってみると、まずは喉ごしの良さにびっくり。ツルリと絹のようになめらかな舌ざわりで、そばの甘い香りがふわりと漂い、豊かな余韻を残してくれます。太さの異なる麺の食感と噛み心地も癖になりそうです。
 
つゆは甘すぎず、昆布とカツオの出汁とキレのある醤油の風味が、そばの美味しさを何倍にも高めてくれます。すっきりとした味わいなので、最後まで飽きずに食べられます。

天ぷらは超ビッグサイズの舞茸と季節の山菜。この日は、めずらしいマタタビの新芽の天ぷらでした。

舞茸はそば猪口に入らないほど巨大! 現地きのこ農家が栽培する特製舞茸は、じくがコリコリじゅわっと瑞々しく、カサ部分がバリバリッと香ばしい二つの食感が楽しいです。
 
衣はザクザクっとした存在感があり、具材の風味を引き立てているのがお見事。そばのツルツルとした食感と最高の組み合わせです。

最後はとろりしたそば湯でつゆを割り、優しい旨みや香りを楽しみます。
 
「とみざわ」のそばは食べ応えがあり、食べ終えたときの満足感が格別でした。自然に囲まれる津南のまちで、香り豊かなそばをすするのは、極上の贅沢であり幸せなひとときです。

初代から味を変わらない味を貫き通すのがポリシー

津南が誇る絶品そばを提供しているのが、三代目店主の富澤亮介さんです。現在、奥さんと二人三脚で店を切り盛りしています。
 
「小学生の頃から店の手伝いをしていたので、将来自分が店を継ぐことは自然な流れでした。40年以上まったく変わらない味を目指して、お客さんにそばを提供しています」
 
製麺屋だった初代が始めたお店は、今や市内外から人が押し寄せる人気店へと成長しました。時代が移り変わっていく中、富澤さんが最も重視してきたのが「味を変えないこと」。数十年店に通うファンも多いため、「いつ来ても変わらない味で迎えたい」と話します。

おいしさのヒミツは、石臼で挽く自家製粉のそば粉

そばはシンプルな材料で作るため、素材の良し悪しと製法で味が決まります。「とみざわ」のそばの美味しさのヒミツを、こっそりと教えてもらいました。
 
「お隣の長野県栄村産そばの実を自家製粉しています。新潟県内でも原そばは栽培されていますが、栄村はすぐ隣で品質も良いから、先代の『栄村産のそばの実が一番!』という意見を大切にしています。数日中に使い切れる分だけ挽くことで、香り豊かな味わいになるんですよ」

殻のついた状態の原そばをそば粉にするには、4段階の工程を経る必要があります。まず、原そばの表面に付くホコリを取り、混じった石を取り除き、黒い殻を取り除き、最後に石臼で挽いて粉にします。低温でゆっくりと挽くことで、そば本来の香りを残すことができるそうです。

新潟の布海苔×長野のオヤマボクチがつなぎ役

「うちのそばの最大の特徴は、新潟そばでよく使われる布海苔と、長野そばでよく使わるオヤマボクチ、この二つをどちらもつなぎに使っていることです。いわば、新潟と長野のいいとこどりです」
 
深緑色の寒天ゼリー(写真左)は、海藻の布海苔と水を合わせてコトコト煮込み固めたもの。新潟ではこの布海苔をそばに練り込むのが一般的で、意外にも磯の風味はなく喉ごしの良い食感が楽しめます。
 
一方、オヤマボクチは山に自生する野草(写真上)です。天日干しをして葉脈を外し、煮て洗ってほぐして乾燥する工程を経て、真っ白な繊維になります(写真右)。これをつなぎに使う長野のそばは強いコシが特徴です。
 
布海苔とオヤマボクチをダブルつなぎとして使うお店は、県内でもほとんど見かけません。新潟と長野の特徴をどちらも活かした先代のアイディアが光るそばは、今も変わらずに受け継がれています。

先代から続く味を100年先までつなげたい

「『とみざわ』のそば作りは手作業が多く、根気がいります。ですが、先代が守ってきた味ですから簡単に変えるわけにはいきません。これからも代々守っていきたいです」と決意を語る富澤さん。

最近は、中学生の息子さんと小学生の娘さんが、戦力として店を手伝っているとのこと。代々続く味を次の世代へバトンタッチできればと期待しているそうです。
 
時代が移り変わるなか、数十年も変わらず人々に愛され続ける味――それは何代にも渡る熱心な研究と丁寧な仕事、変わらず良いものを提供し続けようという想いがあってこそ成り立ちます。手間のかかる仕事を淡々とこなし、今日も富澤さんは一杯入魂のそばを提供しています。

施設情報はこちら

手打そば処 とみざわ
新潟県中魚沼郡津南町下船渡丁7842-1
025-765-2535
11:00~19:00(そばがなくなり次第閉店)
木曜休業(不定期に金曜)

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

渡辺 まりこ

中部支部 地域密着フォトライター
渡辺 まりこ

秋田県出身、岩手県で大学生活を送り、現在は新潟県三条市在住。主人が“金物 のまち”を代表する職業の包丁職人ということから、地場産品に興味が芽生え、 ローカルのおもしろさを日々発信中。フリーライターとして活動しながら発酵教室も主宰しています。