香川県琴平町

“こんぴらさん”で粋な和三盆干菓子作り

2021.11.03

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したもの」をご紹介するコーナー。今回は、四国ナビゲーター・山田芽実さんご自身の「100年先に残したいもの」をご紹介します。それは、香川県琴平町で、地元特産「和三盆」(わさんぼん)を使った干菓子作りの体験です。今に伝わるキュートな干菓子作りを取材しました。

信仰が息づく香川の観光名所「こんぴらさん」

香川県の観光スポットとして名高い、琴平町(ことひらちょう)の「こんぴらさん」こと金刀比羅宮(ことひらぐう)。御本宮まで石段785段、奥社までは1368段という長い道のりで広く知られており、「江戸時代の二大お参り」であるこんぴら参りを目的に古くから多くの参拝客が訪れる名所です。

200年の歴史をもつ讃岐の和三盆

突然ですがみなさんは「和三盆糖(わさんぼんとう)」をご存知でしょうか?主に香川県と徳島県の四国東部で生産されてきた伝統的な砂糖のことで、その歴史はおよそ200年以上。やさしく上品で口溶けのいい食感が特徴です。その和三盆糖を押し固めて干菓子にしたものが、この色味豊かで繊細かつ可愛らしい「和三盆」。香川県のお土産としても人気の名産品です。

ご紹介するのは、ふるさとLOVERSナビゲーターの山田です。香川県に生まれ育ち、ふるさとの魅力を発見できる環境に感謝しつつ日々活動しています。その土地を知り、その場所で育まれた歴史、文化や人と出会うことは、なにものにも変えがたい素敵な経験。今回は、「100年先に残したいもの」として、この信仰が息づくこんぴらさんの麓で体験できる「和三盆(御干菓子)作り」をご紹介します。

こんぴらさんの土産物店「にしきや」

こんぴらさんの表参道から徒歩5分の場所に位置する「にしきや」です。にしきやは、土産物屋を軸に展開しているドライブイン。観光客を対象に、香川県名物であるしょうゆ豆の製造・販売、仕出し、500人規模の団体も対応可能な食堂やコンビニエンスストアの運営も行っています。

和三盆作り体験は、この店内の一角で行われます。所要時間は、大人で大体45〜50分ほど。国内外からの観光客や修学旅行生のお客さんはもちろんのこと、最近では県内からの訪問者も増えているのだとか。

早速作っていきたいところですが、まずは和三盆の歴史や産地についての説明を受け、学ぶことから始めましょう。

地元在来種の「細黍」が生み出す和三盆の味

和三盆には、主に香川で作られる「讃岐和三盆(さぬきわさんぼん)」と、徳島で作られる「阿波和三盆(あわわさんぼん)」があります。江戸時代の八代将軍・徳川吉宗が糖業を奨励したことにより広まった日本の砂糖作りでしたが、讃岐高松藩主・松平頼恭(まつだいらよりたか)公より砂糖製造を命じられた向山周慶(さきやましゅうけい)と薩摩・奄美大島の関良介(せきりょうすけ)が出会ったことにより、寛政2年(1790年)に讃岐の地で初めて砂糖作りがはじまりました。

和三盆の原料であるサトウキビは、香川県東部にある東かがわ市と徳島県板野郡で栽培されている「竹糖(ちくとう)」という地元の在来品種で、九州や沖縄のものに比べると茎が細いことが特徴。地元では「細黍(ほそきび)」と呼ばれ親しまれており、和三盆の味はこの品種でしか出せないとされています。

刈り取られたサトウキビは、皮むき・絞りの工程を経て圧搾機により「糖液」になります。それを炊き詰めて結晶化させた「白下糖(しろしたとう)」を、昔ながらの木造りの搾り器・押槽(おしぶね)により糖蜜を抜き、こねて分蜜させる「研ぎ」という手作業を経てできるのが、このきめ細やかな「和三盆」です。この名前は、「盆」と呼ばれる作業台の上で砂糖を三度ほど研ぐことに由来するといわれています。

香川の伝統工芸士による菓子木型

和三盆についてしっかり学んだ後の最初の工程は、季節に合わせて用意された菓子木型からお気に入りのものを探すこと。こちらにある木型はなんと約120種類!これらは全て香川県の伝統工芸士であり、日本に数人しかいない菓子木型職人・市原吉博(いちはらよしひろ)氏によるものです。樹齢100年近い桜の木からできた菓子木型は、道具でもあると同時に、見ていて飽きないほどの美しい芸術。繊細に施されたその技術は目を見張るほどで、人によってはここで一番時間を使うこともあるのだとか。確かにどれもこれもかわいすぎて迷ってしまう…!

木型を選んだら、水分を含ませ着色させた和三盆糖を型に入れていきます。

和三盆作りは水分の加減が大切なポイント。日によって違う湿度に合わせて、材料の準備は毎回当日に行うのだといいます。

上板と下板を重ねた木型をしっかり持ち、砂糖をこぼさないように詰めていきます。指の腹でギュッギュッと押すことで形をつけていくイメージです。

しっかりと詰めた後は、ヘラで余分な砂糖を削ぎ落とし、上板をヘラで叩き外します。下板をくるっと返すと、この通り!綺麗に型抜きされた和三盆の完成です。こんなに繊細な形がきれいにできるなんて驚きです。

出来たての和三盆を味わって

出来上がった和三盆は、その場でお抹茶と共にいただくことができます。口の中で溶ける上品な甘みとほろ苦いお抹茶は最高の組み合わせ。残りはこんなかわいい化粧箱に入れて、お土産として持ち帰りましょう。楽しかった旅の思い出や、大切な人への贈り物にもぴったりですよね。

琴平で和三盆の魅力を伝えていく

にしきやでは、和三盆御干菓子作り体験を担当する講師・松原英治さんの燃えたぎる和三盆愛とその親しみやすい雰囲気から、リピーターのお客さんも多いといいます。そんな松原さんは、講師を担うことになって以来、和三盆や菓子木型の世界にどっぷり魅了されているのだとか。「あちこちに足を運んで、自分の目で和三盆糖や和三盆の製作現場を見て学ぶようにしています。そこで得たものを、この体験を通して皆さんに伝えることができれば。にしきやの体験では、出来たてをその場で食べられることが魅力ですので、ぜひこんぴら観光のプランのひとつに入れてみてくださいね」。体験者に香川の和三盆を知ってもらい、その魅力に触れ喜んでほしい。そうはにかみながら話す松原さんの笑顔がとても印象的でした。

古くからの信仰の地・こんぴらさんで体験する、江戸時代から続く讃岐の伝統的な和三盆作り。その上品で優しい味わいを守り続けてきた人たちがいるからこそ、今の私たちにつながっているということに感謝をして、和三盆とその物語が100年先も変わらず続いていくよう願いました。ここでしかできない体験を、ぜひあなたも味わってみてくださいね。

施設情報はこちら

施設名
株式会社 にしきや

住所
香川県仲多度郡琴平町696

電話番号
0877-75-3264

営業時間
午前8時〜日没

休業日
年中無休

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

山田 芽実

中部支部 愛知県ライター
山田 芽実

香川県で生まれ育ち、米国・京都・東ティモールを経て現在は愛知県名古屋市在住。土地やそこに住む人たちの「すてき」をゆるっとズバッと発見中。絵を描いたり、デザインをしたり、写真を撮ったりしています。