石川県小松市

九谷焼の伝統と革新を支える「花坂陶石」

2021.06.24

日本各地のナビゲーターが、その土地に暮らす人たち(ふるさとLOVERS)からお聞きした「100年先に残したいもの」をご紹介するコーナー。今回は、中部支部ナビゲーターの「ライター事務所アヴァンセ」の森井さんご自身が「100年先に残したいもの」として、石川県小松市の、陶石から見える九谷焼をご紹介します。

日本を代表する伝統工芸、九谷焼がうまれるまち

九谷焼は石川県南部で生産される色絵磁器。絵や文様をほどこす上絵に用いられる「赤、黄、緑、紫、紺青」は九谷五彩とよばれ、その鮮やかな色彩や、洗練された技術が生み出す美しい絵柄が、人々を惹きつけてやみません。

ここは日本三名山のひとつ、白山を遠望する自然豊かなまち・石川県小松市。ご案内するのはふるさとLOVERS中部支部ナビゲーター 「ライター事務所アヴァンセ」の森井です。このまちに暮らす私にとって、九谷焼は身近すぎるやきもの。子どもの頃から当たり前のように九谷焼の器が食卓に並び、美しい色絵や手仕事のぬくもりが、暮らしに彩りを与えてくれることを実感してきました。

近年若手作家の活躍が目覚ましい九谷焼業界ですが、その伝統を支えているのは原料である花坂陶石。今回は「100年先に残したいもの」として九谷焼の原料である花坂陶石にスポットをあて、その産地である小松市を訪ねます。

花坂陶石があったから、今の九谷焼がある

ここで少し歴史のお話を。江戸時代前期、現在の石川県加賀市の旧九谷村で陶石が見つかり、窯が築かれたのが九谷焼の始まりです。この窯は50年ほどで絶えており、この時期の磁器は「古九谷」とよばれます。100年ほど後、加賀藩は金沢に春日山窯を開き、九谷焼は復活します。これが「再興九谷」。しかし陶石が採れる九谷村はあまりに山深く運搬が大変なうえ、金沢には原料となる陶石が見つかりませんでした。

陶工の本多貞吉は懸命に陶石を探し歩き、たどりついたのが現在の小松市花坂町。良質の陶石を見つけた貞吉は花坂にほど近い地で若杉窯を築き、ほどなく各地に諸窯が興りさまざまな作風や技術が生み出されました。約360年の歴史を駆け足で振り返りましたが、花坂陶石がなければ再興九谷以降の発展はなかったのかもしれません。

花坂陶石が陶芸用の粘土になるまで

陶石から粘土をつくる「谷口製土所」を訪ねました。日々、高品質の粘土づくりに励んでいるのは3代目の谷口浩一さん。

「この白っぽい石が、採石場から運んできた花坂陶石。陶石の産地は全国にそう多くありません。花坂陶石は比較的鉄分が多く、焼くと青みがかった色になるのが特徴です。粘りがあるので手仕事に向いているし、ろくろで挽きやすいと言われます」。

陶石がどのように粘土になっていくのか知りたくて、特別に工場を見学させてもらいました。作り方はざっくり2通り。ひとつはスタンパーとよばれる機械(写真上)で陶石を粉砕し、水を加えて粘土質の部分を取り出す水簸(すいひ)という工程を経る方法。もうひとつはトロンミル(写真下)という大型の機械で陶石をすりつぶす方法です。

「スタンパーにかける方法は、いわば昔ながらのやり方。これはすごく時間と手間がかかるんですよ。でも『粒のカドが立っていて、ろくろが挽きやすい』と根強い人気があります。九谷焼が量産されるようになった父の代に石を丸ごと粉砕するトロンミルを導入しました。こちらは鋳込みなどに向いています」。

なるほど、作るものや用途によって粘土を作り分けているのですね。後ほど紹介する九谷焼複合施設「九谷セラミック・ラボラトリー」に谷口製土所の工場が併設されており、スタンパー粉砕と水簸の工程をガラス越しに見学できるようになっています。

土のプロが提案するテーブルウェア

市内に残る製土所は2軒のみ。大学卒業後、広告会社に勤めていた谷口さんが家業を継ぐことを決めた時、九谷焼の職人や作家から「産地から製土所がなくならずにすんだ」と歓迎されたそうです。

谷口さんは「HANASAKA」というテーブルウェアブランドをプロデュースしています。マットな白さが際立つ酒器など、加飾をせず、花坂陶石の素材感をシンプルに表現した器たち。「僕がこの仕事に入った頃は、昔のように九谷焼が売れなくなっていました。だから粘土屋という限られた仕事だけでなく、いろいろやってみようと思ったんです。それに九谷焼というと絵が主役ですが、素地職人の高い技術にも注目してほしいなと思って」。

ラインナップの中で注目を集めているのが、粘土づくりの過程で出た残土を活用した器。優しいベージュ色の釉薬は残土から作っているそうです。まさしく花坂陶石100%。

「ものづくりの背景を大切にしたいんですよね」と谷口さん。商品が生まれた環境や作り手の思いなど、ストーリーにも価値を見出す時代。陶石の産地で、土のプロの視点で、九谷焼の新たなストーリーが生まれています。

土に命を吹き込む九谷焼作家を訪ねて

「花坂陶石はきめが細かくて、エッジを表現しやすいんです」と話すのは、九谷焼の窯元・五十吉深香陶窯(いそきちしんこうとうよう)の浅蔵一華(あさくらかずか)さん。窯主は日展会員としても活躍する3代目浅蔵五十吉さんで、長女の一華さん、ご主人の宏昭さんとともに作陶しています。

深香陶窯がある小松市八幡は花坂陶石の採石場から近く、古くから九谷焼の素地づくりが盛んだったところ。大正時代に工房を開いた初代も素地職人だったそうです。

各工程が分業体制となっている九谷焼ですが、深香陶窯では素地づくりから上絵付まで一貫して行っており、ダイナミックな造形や「五十吉カラー」とよばれる色彩表現、繊細な加飾技術でファンの心をとらえて離しません。

新たな挑戦の積み重ねが、伝統になっていく

著名な窯元で生まれ育った浅蔵さんに「伝統を受け継ぐプレッシャーはありませんか?」と尋ねると「あまり意識しないようにしているんですが」と言葉を選びながら、しかし軽やかな口調でこう答えてくれました。「受け継がれてきたことには理由があると思うんです。変わっていくこと、変わらないことがあって、そこに核となるものがあるのかな。それを大切にしながら新しい試みを重ねていくことで、次へとつながっていく。その連続が伝統になっていくんだと思います」

九谷焼は歴史の中でさまざまな技法が編み出され、進化を続けてきたやきもの。常に新しい表現を追求して、人々に愛されてきた事実があります。九谷焼の核となってきたもの。それは花坂陶石であり、九谷五彩であり、また進化を求める作り手の心意気でもあるのでしょう。

「小松は九谷焼作家が多いまち。近年は作家たちの結束が強まっていて、盛り上がりを感じています。作家は元来、発信やPRというのが苦手なんですが、作家集団として産地全体で発信するというのもひとつの手。お互い刺激にもなりますしね」。九谷焼の進化は今後ますます加速しそうです。

深香陶窯にはギャラリー&カフェが併設されており、作品に囲まれながらコーヒーを楽しむこともできます。浅蔵さんの手が空いている時は、話ができることも。作り手と語る素敵なひとときを過ごせそうです。

施設情報はこちら

施設名

五十吉深香陶窯

住所

石川県小松市八幡己50-1

電話番号

0761-47-0051

営業時間

10:00~16:00

休業日

不定休

 

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

九谷焼を見て、学んで、体験する

花坂陶石から作品ができるまで、その一連の流れを体感できるのが2019年にオープンした「九谷セラミック・ラボラトリー」。新国立競技場を手がけた隈研吾氏設計の建物が印象的です。

ここでは先ほども紹介した谷口製土所のスタンパー工程などを見学できるほか、ギャラリーや体験スペース、工房を備えています。

体験スペースでは、九谷五彩を用いた絵付けやろくろ挽きなどに挑戦することができ、オリジナルの九谷焼を制作することができます。私も飯碗の絵付けに挑戦しました!

花坂陶石の産地・小松では、採石から粘土づくり、素地づくり、そして絵付けまで、九谷焼のすべての工程が受け継がれています。その担い手である2人に、今回は話を聞きました。印象的だったのは、伝統はそう重いものではないというとらえ方。「伝統は守るものではなく、創っていくもの」という共通の思いがありました。

360年の歴史と確かな技術に、みずみずしい感性をのせて切り拓く九谷焼の未来。産地である小松に足を運べば、その潮流を肌で感じられるはずです。100年先の人々が手にする九谷焼は、どんな姿でしょうか。変わっていくこと、変わらないこと。進化する伝統工芸、九谷焼の未来を想像するとワクワクが止まりません。

施設情報はこちら

施設名

九谷セラミック・ラボラトリー

住所

石川県小松市若杉町ア91

電話番号

0761-48-4235

営業時間

10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで

休業日

水曜

 

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

※施設に属する情報に関しましては、予告なく変更となる可能性がございます。ご訪問の際は各施設のホームページ等で最新の情報をご確認いただきますようお願いいたします。

地域ナビゲーター

ライター事務所AVANCER

中部支部 ふるさとLOVERSナビゲーター
ライター事務所AVANCER

およそ30年、観光雑誌や観光系Webの企画・取材・執筆・撮影・制作などに関わり、北陸を知り尽くしたライター集団の事務所。取材範囲は北陸のみならず、広範囲。旅好きの集まりなのでプライベートでも全国、海外へ。楽しく取材してその魅力を存分に伝えます。